• 〈出版業界〉2017年総括と2018年の展望:雑誌市場縮小・出版物輸送危機の中で、書店の将来を考えるときに必要なこと

    2018年01月09日
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    文化通信社 常務取締役編集長  星野 渉

    2017年の出版業界で業界紙などが大きなトピックとして取り上げたのは、出版物輸送の危機が顕在化したことや、アマゾン・ジャパンが取次への「バックオーダー発注」を取りやめたことなどであった。そして、アマゾンと同様に、大手書店によって新たな取引方法・条件が提示されたことも今後の書店のあり方を考える上で重要な動きだといえる。

     

    輸送の危機が顕在化

    例年、日本出版取次協会(取協)と日本雑誌協会(雑協)が協議して、土曜日のうち数日を休配日としてきたが、いつもはすぐに決まる休配日数が、2017年については決定が同年2月までずれ込むという異例の事態になった。これは、取協がそれまで年間4~5日だった休配日を一挙に年間20日間に増やす提案をしたためだった。

    取協側が休配日の大幅増加を求めた背景には、出版物輸送の危機的状況がある。出版物の配送業量が減少したことによってトラックの積載率が低下し、ドライバーの人件費などのコストを吸収できなくなっており、輸送業者が採算の合わない地域を返上、あるいは出版物の輸送自体から撤退することが相次いでいるのだ。

    結局、2017年度の休配日は年間13日となり、日曜休日を合わせると稼働日数が法定労働日数の280日に落ち着いた。

    しかし、休配日の増加は輸送問題の根本的な解決にはならず、取協と雑協は2月に合同で「発売日・輸送問題プロジェクトチーム」を立ち上げ、出版物輸送危機の抜本的解決に向けた検討を開始した。

     

    雑誌減少で流通行き詰まる

    出版物の輸送が危機的状況を迎えた最大の原因は、出版物の流通量、特に雑誌の流通量が激減したことにある。

    出版科学研究所の調査によれば、雑誌の販売冊数はピークの1995年に39億1,060万冊だったが、2016年には13億5,990万冊とほぼ3分の1になった。これでは、雑誌の収益で支えられてきた配送網が維持できるはずがない。

    しかも、このところ宅配便をはじめとした輸送コストの値上げが社会的問題になっており、出版物の輸送は、出版業界特有の構造問題に、輸送業界のコスト増加という問題が追い打ちをかけた形になっている。

     

    物流問題は「書籍」の問題

    いま、出版輸送問題は当面差し迫った雑誌配送をどのように維持するのかがテーマになっている。しかし、この問題はむしろ書籍の問題だといえる。

    雑誌配送に関しては、新聞輸送やCVS流通に載せる案なども出ており、実験も行われるという。実際にはコストなどの課題が多く、そのまま解決に結びつくかどうかはわからないが、いずれにしても主に雑誌配送を維持するための代替案である。もし、これらの方法が上手くいったとしても、個別の書店に書籍を届ける手段にはなり得ない。

    書籍は雑誌に混載されてきたため、他の国などに比べて流通コストが極めて安い。いわば、雑誌流通に便乗することで、安い費用で届けられたのである。このことが、日本の書籍価格が諸外国に比べて非常に安い理由である。

    雑誌の市場縮小で、いままでのような出版流通が成立しなくなるのであれば、書籍の流通コストを低く抑えることは不可能になり、書籍価格を上げざるを得なくなる。そういう意味で、今回の流通問題は、むしろ書籍の流通・取引の構造が大きく変わることを意味しているのである。


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