雇用期間に定めのある労働者が同じ職場で5年を超えて働くと、正社員と同じように定年まで勤めることができる「無期転換ルール」が、ことし4月から本格運用される。

 「働き方改革」をリードする仕組みとして、非正規労働者の着実な待遇改善につなげてもらいたい。

 2008年のリーマン・ショック後、雇い止めが社会問題化したのを契機に、13年4月に施行された改正労働契約法に盛り込まれたルールである。

 パートやアルバイトなど非正規で働く人が、同じ職場で契約更新を繰り返し通算5年を超えた場合、更新の必要がない無期雇用にするよう申し込む権利が得られる制度だ。企業は労働者の求めを拒むことができない。

 法施行から5年がたつ4月以降、対象者が大量に生まれ、その数は約450万人に上る。

 働き方の一大転換にもかかわらず、新ルールの浸透はいまひとつだ。連合が昨年4月に実施したアンケートで、有期労働者の8割以上が「内容を知らなかった」と答えている。

 無期雇用への転換は労働者本人の申し込みが要件となっており、周知・啓発を急がなければならない。

 気になるのは同じ調査で、改正法施行後「契約期間や更新回数に上限が設けられた」と11・5%が答えていることである。

 非正規を雇用の調整弁と考えている経営者が少なくないようだ。

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 新ルールを先取りして無期契約を進める企業がある一方、「ルール逃れ」とみられる動きも出始めている。

 厚生労働省の調査によると、大手自動車メーカー10社のうち7社が、再契約までの間に6カ月以上の「クーリング期間」を設け、無期契約への切り替えができないようにしていた。

 職場を離れて6カ月以上の空白があれば、それまでの雇用期間をリセットできるとする労働契約法の悪用ではないか。

 厚労省は「現時点で法律的に問題だと判断できる事例はなかった」と説明しているが、非正規の雇用を安定させるという法の趣旨からは逸脱している。

 さらに有期契約職員の雇用期間の上限を5年までとする大学や研究機関などもあり、4月以降、大勢の雇い止めが出るのではないか懸念される。

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 非正規労働者は働く人の約4割を占めている。かつては家計補助の主婦パートや学生アルバイトが多かったが、今は世帯主が非正規で働かざるを得ない状況が目立ち、仕事の責任も増している。

 少子高齢化で人手不足が深刻化する中、待遇改善を人材確保につなげるという考え方を持つべきだ。無期雇用になれば労働者は安心して働き、キャリア形成を図ることができる。企業の側は仕事を知っている人に長く働いてもらえるメリットがある。

 新ルール運用を前に、行政には「抜け穴」をふさぐ監視を強めてもらいたい。