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12/30/2017

どうした 巨神兵!

かつて大いに頼みとし、引く手あまただった弁護士の先生が、気づいてみると輝きを失って、だんだん依頼が減ってしまうということを、ある程度企業法務の中の人をやっていると経験することがあります。
若手・中堅・大御所問わずこのような経験が何かに似ているとずっと引っかかっていたのですが、「かつてはわずか7日間で世界を滅ぼした強大な力を持っていた存在が、どろどろと身体を崩しながら無力化してしまう」という(アニメ版)風の谷のナウシカにおける巨神兵登場シーンではないかと思い至りました。
歳を経て、いろいろな記憶が混じり合い、もはやどれが誰の話だったか思い出せなくなってしまった今しか書けない、寓話ということでお付き合いください。

焼き払え!
どうした それでも世界で最も邪悪な一族の末えいか!

わあっ!
すげえ
世界が燃えちまうわけだぜ

なぎ払え!
どうした化け物 さっさと撃たんか!

うっ!
だめだー 逃げろー!

巨神兵 死んじゃった
――風の谷のナウシカ(1984)――

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若手の場合
込み入った相談も、難解な契約レビューも迅速にこなしてくれていた若手の先生が、数年経ち、よく相談していた営業担当者が異動したことを契機に相談に行くことが減り、気がつけば誰も相談に行かなくなってしまう、ということがありました。

仕事は早いし頭が切れる先生がどこでそうなってしまうのでしょうか。

こういう方は、仕事ができるがゆえに、社内のあらゆる担当者から相談がされることになります。法務担当者経由での相談もあれば、営業担当者からの相談もあります。どのような相談も分け隔てなく応じているうちに、会社の人の能力やその人の会社で置かれた位置がわかってしまうのも、その先生の能力を持ってすれば、時間の問題でしょう。中には、段取りの悪い担当者がいたり、法務と営業とが反目し合っていて、それぞれ先生の見解を武器に社内政治を繰り広げていたりするということもあります。

しかし、このような場合に、依頼者と弁護士との境を越えて、社内の人と同じ目線で発言してはいけません。法務の人が「あの営業担当者はすぐ先生の言葉尻をうまく取って、上の人を騙す奴だ」と言っていたのを真に受けて(そしてほとんどの場合その言辞の内容自体は正しいのですが)、法務の人と一緒になって営業担当者を詰ってしまったり、仕切りの甘い法務担当者の愚痴をその人の上司に讒言したりすると、言われた方は勿論いい気持ちがしませんが、味方だったはずの会社の人も、「この先生は、会社の中に首を突っ込み過ぎだ」という印象を持ってしまいます。ですから、相談で会社の人が同僚の悪口を言っていて、仮にそのとおりだと思っていたとしても、せいぜいニッコリと微笑んで受け止めるに留めて、絶対に悪口を依頼者の前で口に出すのはやめたほうがいいと思います。でもどうしても言いたければ、事務所の中でいうか、匿名化・抽象化して「あるある」の壺に叫ぶかに留めておくべきでしょう。どんなに1つの依頼者の仕事が多くても、依頼者と弁護士とのけじめはきっちりとつけておくべきだと思います。

なお、最近は、駐在とか出向とかで一時的に会社の中の人になることが若手弁護士にありますが、一時的に中の人になったときに許されていた物言いも、事務所に戻ったときには許されないということにも注意が必要だと思います。

中堅の場合
依頼者とのけじめの陥穽を乗り越えてより信頼を勝ち取り、相談件数が増えてきた中堅の先生、事務所の中でもシニアアソシエイトからパートナーに昇格し、複雑な案件もどんどん受任していきます。

しかし、あまりにも案件が増え、また、メールも最早個人が読む量をはるかに越えてきてしまうと、依頼者が相談をしようとメールを送っても読んでもらえないとか、なんとか連絡が取れても、次の対応が遅れがちになるとか、ぞんざいになるということが起こってきます。

依頼者側も以前から頼んでいて、その先生の実力を買ってきた人が異動でいなくなったり、管理職となって細かいやり取りをしなくなってくると、後任の人から見てその先生は、「上司がすごい先生だと言っていたけど、メールの返事はしてくれないし、仕事も遅い」という印象だけが残ることとなり、依頼をしなくなってしまいがちです。

弁護士の側も、自分が興味があること、古くからの馴染みの担当者からの直接の相談を除き、あとはアソシエイトに丸投げ、ということが起こってくると、依頼者の担当者から見れば、答えてくれたアソシエイトの方をより評価するということになってしまいます。

会社の人もそうですが、どこかで、何を自分自身が処理し、何を下の人に委ねるのか、どこで仕事を絞るのか、ということに自覚的でないと、パートナーになったときがピークで顧客を失っていくことになるのではないかと思います。(企業組織と異なり、弁護士の場合は専門職ですから、マネジメントに専従するということは通常考えられないものの、アソシエイトの作業を統括することを通して、自分のできる仕事の幅を拡げるというのは必要ではないかと思います。)

大御所の場合
中堅の陥穽を超えた弁護士の中で、依頼者の組織文化や内部の力関係まで見通す洞察力と、膨大な作業や資料から、最も大切なことを発見する能力を備えた人がいわゆる大御所弁護士と呼ばれます。このような先生は、担当者からだけでなく、依頼者の経営者(かつてその弁護士と一緒に仕事をしてきた担当者が組織を駆け上がる中で、交友を続けてきた)からの信頼も篤く、法務部門よりも頼りにされ、法務部門もその先生のお墨付きをもらうことが大事になったりします。

そのような大御所先生も、いつしか頼りにされなくなってきてしまいます。

それほどの大先生ですから、世間は訴訟や契約交渉などの現場仕事だけで許してはくれず、社会的名声もどんどん高くなって、弁護士会の役員、上場企業の独立役員、各種審議会の委員など、「エライお仕事」の比率が増えてきます。立場的にも天下国家とかキレイゴトを論じる人になってしまいます。

もともと大先生の大先生たるゆえんは、依頼者の内部論理にも、法律の考えにも適合した「特殊解」を示してくれる解決力であって、キレイゴトを戦略として用いるのであればともかく、キレイゴトしか言えないのであれば、相談する意味は少ないのです。

もちろん大御所と呼ばれているので、それ相応の「召喚手続き」を経れば、かつての栄光が取り戻せることもありますが、だんだんその召喚手続きが長く複雑になってしまい、とうとう何をしても本当にキレイゴトしか言えない(実は、加齢による洞察力の衰えということもあります)ということになってしまえば、もう、敢えてご相談をするという意味は依頼者にはなくなってしまう、ということになります。

(以上の話は全てフィクションであり、実在する一切の弁護士、組織について言及するものではありません。)

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