少し間が空いてしまいましたが、完結作編に続いて、継続作編をお届けです。この手の記事にありがちですが、新刊の刊行が最近の方が印象に残りやすい傾向がありますので、その辺りは補正してもらいながら見てもらえればと思います。選定基準は、「単純に面白かった」というだけでなく、「これまで以上に盛り上がった」とか、「今後の展開が非常に楽しみ」という観点で選んでいます。あまり時間もなく、作品の説明は作品の使い回しもあったりしますが、ご容赦ください。ではではどうぞ……




1.田中メカ『朝まで待てません!』(既刊2巻)

……青年マンガ誌の編集者・順平が、完全無欠と呼ばれるライバル誌の美人編集・夕子と出会い恋するオトナお仕事ラブコメ。12月に久しぶりに新刊が刊行されたのですが、いやあやっぱり破壊力が凄まじい。ニヤニヤが一向におさまりません。2巻では、順平が夕子に対して思いを伝えて以降が描かれるわけですが、意識しまくりな様子がめちゃめちゃ可愛い。さらに思わぬライバル登場で嫉妬しちゃってる姿がさらに可愛い。完全無欠のしっかり者女子が、恋愛で崩されていく様子を見るのは、どうしてこんなにもニヤニヤできるのか。社会人の恋愛を描きつつも、10代向けの少女マンガにも勝るとも劣らないトキメキ&幸せ成分たっぷりの、甘いラブコメでございます。

マンガ編集者同士の仕事と恋! -田中メカ「朝まで待てません!」1巻



2.河井英槻「はるはなのみの」(既刊2巻)

……地方の小学校を舞台に描く、若手教師たちの青春群像劇。『朝まで待てません!』もそうなのですが、学生の恋愛模様より、社会人なのに青春しちゃってるみたいなシチュエーションの方が刺さるようになってきたように感じる今日このごろ。だんだん年取ってきたんですかね。
 小学校という舞台ながら、教育問題云々という話は一切ありません。描かれるのはとにかく大人たちの青春、青春、青春。地元出身の教師で、同年代ばかりということで、学生時代からの顔なじみばかり。そんな彼らが狭い世界で、想い想われ、好きだという純粋な気持ちは持ちつつも、変に大人であるために素直にその気持を表現できずにヤキモキする……そんな様子がたまらなく愛おしい一作です。インパクトで言えば、これ以降に出てくる作品たちが上回っているぐらいなのですが、本作はそれに負けず劣らずやたらと印象に残っているんですよね。

大人になって再び吹いたあの日の初恋の風 -河井英槻「はるはなのみの」



3.水野美波「恋を知らない僕たちは」(既刊1巻)

……今年登場した新作で一番の期待作がこちら。『虹色デイズ』の水野美波先生の新連載です。水野先生らしい、男子の視点たっぷりで送る学園恋愛物語。主人公は男子2人。中学卒業を目前にしたところから、物語は始まります。互いにひとりの女の子に想いを寄せてしまい、一方は告白をし付き合うことになり、一方は想いを胸の奥にしまったまま。やがて卒業を迎え、その女の子は遠い所へ転校してしまい、男子2人は同じ高校へと進むことに。で、高校では新たな人間関係が築かれていく中、彼らの気持ちにも徐々に変化が現れて……という、男子2人がキラキラの青春模様の中で、どうにも煮えきらずにモニョモニョするというストーリー。1巻時点でこれといった出来事が起こるわけではないのですが、一見リア充風を吹かせて順調そうに見せながらも、切ない方向に行くんだろうなという雰囲気があからさまにしているところが、実に私好みの展開になりそうで、今後への期待感を抱かせてくれます。

恋して感情溢れ出す、男女6人クロス・ラブストーリー -水野美波「恋を知らない僕たちは」



4.森下suu「ショートケーキケーキ」(既刊7巻)

……昨年も4番目でピックしていましたが、今年もですね。2年で既に7巻という良いペース。高校生の男女数人入り混じっての下宿生活を描いた青春ストーリーです。学生の恋愛を描いた作品は近年良作揃いで、『思い、思われ、ふり、ふられ』でも『ふつうの恋子ちゃん』でも『恋わずらいのエリー』でも良いのですが、2017年個人的に一番盛り上がったのは本作であり、また人物構成からも2018年一層盛り上がりそうという期待感があるため、あえて選ぶならこれかな、と。
 いかにも噛ませ犬臭そうなハイスペック男子が、いかにも相手役本線っぽいイケメン不思議系男子を出し抜いて、ヒーローの座を掴んだというのがまず何よりも嬉しいですし、恋愛っ気のなかったヒロインが、恋愛感情を自覚した途端にどんどん可愛らしくなっていくあたりも、当たり前でありながらも微笑ましい。マーガレットながら、そこまでクセのない、読みやすい少女マンガです。

ひとつひとつ階段を確認しながら登るように -森下suu「ショートケーキケーキ」7巻
理久の立ち回りの良さに付け入る隙が無い -森下suu「ショートケーキケーキ」6巻
自由な千秋の抱える不自由さ -森下suu「ショートケーキケーキ」5巻
下宿先で出会う男子たちはくせ者揃い!? -森下suu「ショートケーキケーキ」1巻



5.ななじ眺「ふつうの恋子ちゃん」(既刊6巻)

……昨年2番目でピックしていました。とにかく「ふつう」が人生のモットーである女子高生・恋子。恋も勉強も、なんでも普通が一番という彼女の心をかき乱したのは、同じ学校でも目立つイケメン・剣くん。好きじゃない、好きになんかならない…そう思っていたのに、いつしか恋子の気持ちは……というラブコメディ。完全に両想いで付き合う沸点などとうに過ぎ去っているのに、自身の頑なな思想と、互いの自信の無さから告白に至ることなく、いつまでも「付き合う直前」のあの感じをぐるぐるぐるぐる繰り返すという、めちゃめちゃ幸せなニヤニヤシーンを数多く演出してくれました。2017年後半、ついに付き合うに至ったわけですが、「なんだこの惚気っぷり……」といった感じに、それまでの空気感は継続。恥ずかしげもなく自分の気持ちを発露する様子ってのは、普通は見ていて胸焼けがするものですが、互いに恥ずかしがりつつちょこちょこと好意を表に出す、ささやかな奥ゆかしさみたいなものが、ギリギリムカつかない良いラインを突いているんですよね。友情だのなんだの関係なく、ただただ惚気けられる恋愛模様を楽しみたい方にオススメです。

アイデンティティからコンプレックスに変わるとき -ななじ眺「ふつうの恋子ちゃん」5巻
猛チャージの恋心 -ななじ眺「ふつうの恋子ちゃん」2巻
普通を願う女の子の普通じゃない恋 -ななじ眺「ふつうの恋子ちゃん」1巻



6.ヤマシタトモコ「違国日記」(既刊1巻)

……
35歳の少女小説家が、姉の15歳の遺児をひょんなことから引き取り、一緒に暮らしはじめるというお話。互いによく出来た人間というわけではなく、色々と欠けたところのある二人が、共に暮らし、ご飯と会話を重ねることで、徐々に信頼を寄せていくようになる過程が描かれます。淡々と日々を描くタイプの物語で、何か大きな事件や出来事が起きたりはしません。そもそも動きが少ないのですが、その中で交わされる会話や思考の一つ一つにしっかりと輪郭と質量がある印象で、めちゃめちゃ面白いんですよ。会話の噛み合わなさとか、間の合わない感じが実にリアル。独特の台詞回しであったり、言葉足らずで詰まったり、そのスムーズでない感じも含めて全て巧妙にデザインされている感がひしひしと伝わってきて、この上なくワクワクさせてくれる一作です。

女王と子犬は2人暮らし -ヤマシタトモコ「違国日記」



7.岩本ナオ「マロニエ王国の七人の騎士」(既刊1巻)

……「このマンガがすごい!2018」オンナ編で1位になった作品ですね。中世ヨーロッパの雰囲気を感じさせるマロニエ王国を舞台に、女将軍の息子7人が、隣接する国へと派遣され、あれやこれやと出来事が起こるというお話。
 まだ刊行は1巻のみで、また1巻の内容も実に入念な土台作りという印象。今年の新作で、将来一番おもしろくなるのはどれかと問われれば、まず間違いなく本作なんですよ。期待感が段違い。ただ、1巻だけを抜き取って面白いかと問われれば、「このマンガがすごい!」で1位取るほどなのか?というのが個人的な感覚なんですよね。先述の通り、間違いなく面白くなってくるはずなんですが、それって岩本ナオという実績のある先生の作品という前提があるからこそであって、無名の漫画家さんが同じ内容で作品を描いた時に、この時点で本当にすごいって言えるのか?という想いがあります。なので、「このマンガがすごい!」で票を入れた人に、「なんで入れたの?」と純粋に聴いてみたいという気持ちが。なんだか推したいのか貶めたいのかよくわからない文章になりましたが、間違いなくチェックしておいて間違いは無い作品ですので!

岩本ナオがおくる、中世騎士ものがたり -「マロニエ王国の七人の騎士」



8.縞あさと「君は春に目を醒ます」(既刊1巻)

……完結作編で『魔女くんと私』をピックしていましたが、継続作編ではこちら。完結作編でも書いていますが、2017年は縞あさとという漫画家さんに出会えたことが、何よりの収穫でした。
 小学生の時の憧れの高校生のお兄ちゃんが、病気の治療のためにコールドスリープをすることに。時は流れて7年後、そのお兄ちゃんは目を醒まし、同い年となって再び姿を現して……というお話。見た目や人生経験は全く同じなのに、過去があるから年下扱いをしてくるし、手が届きそうだから変に期待もしてしまう。ヒロインに密かに想いを寄せる幼なじみは、強力なライバルの登場に大いに焦り……と、どこを取ってもコンセプトの時点で勝ちが決まっているような、ワクワクさせる設定のラブストーリー。淡い絵柄も相まって、青春ならではの繊細な心模様をじっくりと堪能することが出来ます。まだまだ始まったばかりですが、2018年、間違いなく話題を集める作品となることでしょう。

年の差、同級生、どっちの恋もあなたとする。 -縞あさと「君は春に目を醒ます」



9.おざわゆき「傘寿まり子」(既刊5巻)

……80歳の小説家・まり子が、同居している家族達から邪魔者のように扱われたことをきっかけに、家出してネットカフェ暮らしをはじめるところからスタート。そこから、この歳で猫を飼いはじめたり、恋愛をしてみたり、さらにはネットゲームをきっかけに同年代の友人を見つけたりと、バイタリティの塊のような行動を次々と見せていきます。
 昨年、入れようか迷って結局見送った記憶があるのですが、今年はもう入れざるを得ないです。だって段違いににパワーアップしてるんですもの。巻を追うごとにそのバイタリティは向上しており、序盤は家出してみたり、恋愛してみたりとある程度想像の範疇だったのが、今年はネットゲームに興じたり、若者と仲良くなって動画配信(Youtuber的な)してみたり、スナックの女性スタッフをやってみたり、さらにはネット上に小説誌を創刊しようとしたりと、進む先はいつも想像の何段も上。その足取りの力強さに、圧倒されっぱなしです。単純に物語として面白いのですが、同時に年を取ることへの恐怖心みたいなものが和らぐというか、こんなお年寄りになれたら楽しいだろうなぁという、謎の勇気を貰えたりもするのがありがたい。読み終わると、とても元気になれる一作です。

80歳からはじめる独り立ち -おざわゆき「傘寿まり子」1巻



10. 穂積「僕のジョバンニ」(既刊2巻)

……昨年、+αでピックしていた本作。
 田舎町で孤独にチェロを弾いていた少年・鉄雄が出会ったのは、海難事故で奇跡的に生き延びた同い年くらいの少年・郁未。命の恩人だと鉄雄を慕う郁未にチェロを教え、唯一無二の親友になる二人ですが、やがて郁未のチェロの腕前は、鉄雄を圧倒的に凌ぐようになり…という、天才と凡人を描いた音楽もの。
 2巻では物語が一気に進み、鉄雄が海外留学を終え日本に帰国するところまで時が流れます。その間に郁未はその才能を開花させ、一躍有名人になっているワケですが、そんな圧倒的な才能を前に打ちひしがれ挫折するのではなく、そんな怪物相手に果敢にも鉄雄は挑んでいくという構図。もちろん無策で突っ込んでいく訳はなく、実にユニークなアプローチで戦う糸口を見出していくのですが、そこは本編を読んでのお楽しみ。才能の差を目の当たりにして打ちひしがれる人間ドラマを描くのかと思いきや、意外にも前向きスポ根ものという雰囲気になり、良い意味で期待を裏切ってくれました。物語の進むスピードには一抹の不安を覚えるものの、スケール感は失っておらず、非常に続きが楽しみな一作であります。

そう来るか!と思わずニヤニヤ -穂積「僕のジョバンニ」2巻
チェロの音が紡ぐ、二人の少年の魂の物語。 -穂積「僕のジョバンニ」1巻



11.河内遙「リクエストをよろしく」(既刊3巻)

……『夏雪ランデブー』の河内遙先生のフィール連載作です。売れないピン芸人・朝日屋颯太が、放送作家に転身した元相方に導かれるように、ラジオの世界に足を踏み入れ、そこで活路を見出していくというお話。2巻まではさほど物語にも進展が見られず、よくあるラジオものの一つという印象だったのですが、3巻にして、それまで登場してきた脇役達の存在が急に噛み合いはじめ、物語の輪郭がハッキリを見えるようになりました。キーパーソンは、いずれも売れない・選ばれないという挫折を経験した者たちで、そんな彼らの逆転物語的な様相を帯びているのが、心をくすぐるのですよ。作中では、「もしかしたらものすごく面白くなるかもしれない」と颯太を起用しているわけですが、この作品をピックする私も同じような心境だったりするわけです。

売れない芸人が歩み出す爽快ラジオ道! -河内遙「リクエストをよろしく」1巻




12.咲坂伊緒「思い、思われ、ふり、ふられ」(既刊7巻)

……安定の咲坂先生。夢みがちな由奈と、現実的に恋する朱里、正反対な性格の二人が友達になり、朱里の義弟・理央と、由奈の幼馴染・和臣を交えての四角関係を形成するという青春ストーリー。タイトルの通り、4人が思い、思われ、ふり、ふられするのですが、2017年は好意の矢印がしっかりと定まった上で、色々と関係が動いたので、充実の1年だったと言えるでしょう。前作『アオハライド』ではあまり感じることの出来なかった、リア充感すごすぎて、読んでいてめちゃめちゃ面白いのに、何故か自分はやたらダメージ食らっているという、咲坂伊緒作品ならではのアノ感覚をしっかりと味わうことが出来ます。2018年は、あれこれと動いている関係を決めにかかるフェーズへと移っていきそうで、引き続きリア充感たっぷりな恋模様を楽しむことができそうです。

恋心募り、想い溢れる。 -咲坂伊緒「思い、思われ、ふり、ふられ」5巻
恋がもたらした変化とご褒美の”照れ” -咲坂伊緒「思い、思われ、ふり、ふられ」3巻
女子ふたり、恋ふたつ。 -咲坂伊緒「思い、思われ、ふり、ふられ」1巻



13.吉田ばな「矢野くんに推し変はできない!」(既刊1巻)

……毎年柔らかめの作品を1作品はピックしているイメージがあるのですが、今年のその枠はこちら。ドルヲタであることをひた隠しにしている美少女・松田慧。いつものごとくライブへと出向くと、隣にいたのはクラスメイトの男子・矢野くん。まさかの矢野くんも同じアイドルのファンをしており、よくよく聞くと自分より古参という、筋金入り……。しかもよく見ると、推しメンにちょっと似ているから、なんだか不思議な感情を抱き……という、ドルヲタあるあるコメディ。
 私はドルヲタでないので、たぶん半分ぐらいしか理解出来ていないのだと思うのですが、それでも普通に面白い。ヲタク作品ならではのテキストの多さと、テンションの上げ下げの極端っぷりがよく作品に落とし込まれており、単行本1冊ながらものすごいボリューム感に大満足でした。ドルヲタネタだけでなく、サイドストーリーとして女子高生の恋というエッセンスも含まれていることから、意外と飽きも来ないんじゃないかと思っているんですよね。次巻が楽しみな一作です(pixivで都度更新チェックしちゃってますが)。

あるある満載ドルオタJKコメディ -吉田ばな「矢野くんに推し変はできない!」



14.麻生みこと「アレンとドラン」(既刊1巻)

……映画が大好きなサブカル女子大生・林田は、ひょんなことからお隣さんのバー店員・江戸川と知り合い、バーに通ってはあれこれと思いを吐き出すように。典型的なサブカル女の林田と、そんなサブカル女を見下し嫌っている江戸川という、水と油な組合せの2人でしたが、いつしか互いに……というラブコメディ。
 どんな題材を扱っても、飄々と世間を嗤う軽妙なトーキングコメディに仕上がるのはさすがの一言。サブカル女子の痛さはしっかりと描き、笑いを生みつつ、その背後でしっかりと恋愛の種は蒔いておき、気づけばしっかり育っている。この両建てのお得感は一個前の『矢野くんに推し変はできない!』にも通ずるものがありますが、こちらの方がこなれており、よりストーリー性に長けているという感じでしょうか。どちらもオススメです。

サブカル×イケメン、恋は走り出す……のか? -麻生みこと「アレンとドラン」1巻



15.KUJIRA「さくちゃんとのぞみくん」(既刊1巻)

……物語の主人公は、まるで男の子のようにふるまう少女・朔。兄が交通事故で亡くなり、母の悲しみようが尋常で無かったことから、死んだ兄の代わりに自分が男の子になろうと決め、以来そんな振る舞いをしているのでした。そんな彼女が初めて興味を持った異性が、同じクラスの西岡希。男の子なのに、長い髪の毛をしていてまるで女の子のような希。見た目こそ女の子のようですが、中身は大人っぽく落ち着いていて、自分の意思をしっかり持った「男の子」。初潮の訪れや、中学入学に向けて制服の採寸をしたりと、ずっと男の子ではいられないことを目の当たりにして戸惑うなか、女の子としての朔を「自然」だと受け入れてくれた希に、いつしか朔は恋して……という、思春期と第二次性徴真っ只中で描かれる、片恋物語。
 KUJIRA先生らしく、その雰囲気は常に切なげで、素直に感情を出すことの出来ないヒロインが愛おしくてたまらない。恐らく次巻で完結を迎えるかと思うのですが、幸せな結末になるイメージが湧かない。いや、だからこそ良いんです。それでこそKUJIRA作品なんです。

第二次性徴期を迎える少年少女の甘酸っぱい恋と成長 -KUJIRA「さくちゃんとのぞみくん」1巻



16.藤もも「恋わずらいのエリー」(既刊5巻)

……昨年1位に挙げさせてもらったのがこちらでした。新刊が出るたびに、ニヤニヤしながら楽しんでおります。相変わらずエリーは変態で、オミくんの承認力は健在なのですが、付き合う前のなんにもない状態で発揮される承認力と、両想いになってから発揮されるそれは、やっぱりありがたみの面で差が出るなぁというのが、極めて個人的な所感。もちろんやっていることは変わらず、むしろ関係が進展しているからこそ生まれる素敵なエピソードもあるわけで、作品的な面白さには拍車がかかっているのですが(むしろ一番油乗ってる感すらある)。それでもこの順位にしているのは、先のとても独りよがりな認識があるからで、あの時の愛に溢れたオミくんはもういないんだ……という一抹の寂しさみたいなものを感じているわけであります(迷惑な感想)。

相変わらずのオミくんの承認力 -藤もも「恋わずらいのエリー」4巻
変態地味女子×ウラオモテ男子 -藤もも「恋わずらいのエリー」1巻



17.茜田千「さらば、佳き日」(既刊4巻)

……結構前から追っかけてる印象があったのですが、一昨年に1巻発売なんですね。ある地方都市に“新婚夫婦”として引っ越してきた、圭一と晃。しかし二人は兄と妹という秘密を抱えていて……。そんな二人の日常と過去を、繊細な絵柄によって描き出す作品。2巻、3巻と土台作り的エピソードが続き少し中だるみ感があったのですが、最近刊行された4巻は物語の大きな転換点を描き、「ああー、やっぱり面白いわ」と再認識させてくれました。昨年も書いた気がするのですが、「ここがこう面白い」と具体的に表現しづらい作品なんですよね。有り体に言えば雰囲気系という表現になってしまうのですが、この儚げな線描と物語背景が相まって、なんとも言えない切なさを醸し出しています。読むならば断然冬。一人静かに噛み締めながら読みたい一作です。

僕の妻は妹でした -茜田千「さらば、佳き日」1巻



18.鴨居まさね「にれこスケッチ」(既刊1巻)

……28歳、独身で実家ぐらしのアラサー女子・にれこが主人公。幼い頃から大好きな傘職人・清田くんの工房でアルバイトをしているのですが、彼は既に既婚。正社員にするつもりも無いと通告され、人生手詰まりに。そんな中、祖母と母がやっているブラシ屋の跡継ぎに指名され……というお話。鴨居まさね先生の久々の新刊ということでとても楽しみにしていたのですが、期待を裏切らない出来。冴えないアラサー女子が、やる気のないままにブラシ屋の跡継ぎ候補として、ちょっとお店を手伝ってみたり、職人修業をしてみたりといった、取り立てて特徴の無い日常を描くのですが、これが普通に面白いんだから困ってしまいます。これといって大きく変わることのない日常も、なんだか悪くない。そんな風に思わせてくれる、明るく小気味よい物語です。

28歳、恋も仕事も見込みゼロ。職人修業はじめます! -鴨居まさね「にれこスケッチ」1巻



19.西炯子「初恋の世界」(既刊3巻)

……東京でオシャレなカフェの店長を務めていた40歳独身の薫。ある日突然、故郷の支店への異動を命ぜられて出向いてみると、その店は謎のアルバイトの男が実質的に切り盛りする、元の店舗とは似ても似つかない店になっており……というお話。40歳の独身女と、地方都市という組合せは『姉の結婚』なんかと同じですね。物語は2軸で進みます。1つはカフェの経営を軸にした、謎のイケメンアルバイトとの関係。食えない性格の彼を相手に、恋愛がはじまるのかはじまらないのか。そしてもう1つは、地元の同級生達との関係。巻を重ねるごとに彼女たちが抱える問題が浮き彫りになってくるのですが、誰一人としてパーフェクトな幸せを手に入れている人はおらず、絶妙に隣の芝が青く見える関係性というところが面白い。主軸は恋愛の方なのかもしれませんが、個人的にはこの友達たちの人間模様がたまらなく面白い。最近、続きが俄然気になるようになった一作です。

気がつけば40、初恋もまだかもしれません。 -西炯子「初恋の世界」



20.ろびこ「君と僕の大切な話」(既刊3巻)

……昨年も20番目にピックしていたのですが、今年もこの位置。未だに『となりの怪物くん』の幻影に囚われており、今ひとつ本作を掴みきれていないというのが正直なところ。もちろん作品単体で見ると非常に面白いし、アプローチの仕方も興味深いのですが、「ろびこ先生のことだから、さらに何かしてくるんじゃないか?」という余計な期待感を抱きつつ読んでしまうため、比較的平穏に進む物語に若干の物足りなさを感じているのも正直なところ。最近は専ら部長の可愛らしさにニヤニヤしながら読んでいるワケですが、今後一層フィーチャーされそうで、とても楽しみですね。また今回作品をピックするにあたって、本作より面白い・続きが楽しみかを基準に選定しました。

何はともあれ部長が可愛いという話 -ろびこ「僕と君の大切な話」3巻
笑いとニヤニヤ止まらぬ新感覚トーキングラブコメ -ろびこ「僕と君の大切な話」



+α.麻生みこと「そこをなんとか」(既刊14巻)

……気がつけばもう14巻まで発売されているんですね。お気楽弁護士・楽子が主人公の、弁護士事務所コメディ。基本、案件ごとに物語を完結させていくスタイルなので、登場人物たちの関係がなかなか進展しないのですが、13巻にしてついに大きな動きが。しかも予想外の方向に進んだものだから驚きました!噛ませ犬ポジションである赤星くんと、相手本線ながら動きに乏しそうな東海林の、静かなる戦いが一層激化しそうではあるのですが、14巻は案外動かず。うーん、こうなってもやっぱりそれなりに時間はかかるのか。もしかしたら20巻ぐらいまで待たないと動かないのかもしれませんが、ともあれ最近の動向が非常に気になる作品なのであります。巻数も多いので、プラスアルファでのピックとしました。




以上、21作品をピックしています。完結作編でも書いた気がするのですが、つくづく「このマンガがすごい!」との乖離が激しい……。別にあちらに寄せたいということではないのですが、過去はどちらかというと一致率が高かった印象だったので、何かしらの嗜好の変化はあるのだろうなぁ、と。

 また泣く泣く見送った作品も多数あり、かなり選定にあたっては悩みました。『高嶺の蘭さん』『日に流れて橋に行く』『ボンクラボンボンハウス』『うたかたダイアログ』『恋する仏像』『恋とヒミツの学生寮』『真昼のポルボロン』『ふしぎの国の有栖川さん』『王国の子』『中学聖日記』『世界で一番悪い魔女』『こいいじ』『SSB』あたりは入れても良かったかなぁ、と振り返って思います。