この日記には更新がとまるとネコが増えるという法則があるんだが、案の定、この半年のあいだに杉松宅のネコは7匹まで増えていた。すでに私は家を出た身だが、たまにネコたちを見に行っているので状況は把握しているわけだ。
もともとの4匹にくわえて、知り合いから3匹の子ネコを預かっていた。それで7匹になっていた。預かることと飼うことはちがう、と杉松は言った。だからネコは増えていない、という理屈のようだった。しかし足元をみれば7匹が走り回っている。なんだか高度な記号操作によってズルをしてる感じだ。
これが預かっていた3匹のネコたち。
いちおう名前を付けていた。黒い子ネコはネネとトト、白黒のネコは菊千代である。ちなみに右下の白ネコはセツシで、これは前からいる。セツシはそれまで最年少だったんだが、突然3匹も年下が増えたからだろう、笑ってしまうほどに先輩風を吹かせていた。この写真でも得意げである。子分を紹介しているつもりなのかもしれない。
はじめのうち、子ネコは小部屋に隔離して飼育していたんだが、セツシは毎日足しげく通い、いっしょに遊んでやっていた。いちおう書いておくと、大きなネコが小さなネコと遊んでやる姿というのは、破壊的にかわいいものである。
その後、子ネコたちも普通に家のあちこちで活動するようになった。セツシは自慢げに連れて歩いていた。それでまた笑ってしまった。ここまで先輩風を吹かせる生きものをはじめて見た。セツシの吹かせた先輩風にほほをなでられた気がした。
その後、ネネとトトは2匹セットでもらい手が決まった。なのでもう杉松の家にはいない。いまは市内某所の豪邸に住んでいるらしい。杉松がネコを渡すために家を見に行ったのである。飼育環境を確認して飼い主を査定するという趣旨だったんだが、査定もくそもない、お釣りがくるほどの大豪邸だったという。
「上田の住んでた小部屋、あの家のトイレくらいしかなかったよ!」と杉松は言った。
「ていうかもう、この家自体、あの家のオマケみたいなもんだよ! たいへんだよ、ああいう家に住んでる人がいるんだよ!」
妙にうれしそうに、身振り手振りをまじえて語っていた。たしかに、豪邸を身体で体験することは問答無用でテンションを上げる。巨大なものはそれだけで人を興奮させるということか。
現在、ネネとトトは金持ちマダムのもとで元気に暮らしているようだ。たぶん美味しいものも食べていることだろう。杉松は「あたしも一緒にもらわれたかった!」と言っていたが、これは少々無理のある考え。一人だけ二足歩行だし、人類だし。
そして3匹目の菊千代だが、これは今も家にいる。杉松はまだ飼い主を探しているようだが、はたして見つかるんだろうか。それに、他のネコたちとも完全に仲良くなっている。
私は家を出た身分だから、もう飼っちゃえばいいじゃんと気楽なことを言うが、正式な飼いネコは4匹で止めておきたいらしい。ネコたちの老後を考えると、4匹が限界とのこと。しかし「ネコたちの老後」というのも、なかなかすごい言葉ですね。
ということで、杉松の家には現在、5匹のネコがいる。初音、影千代、セツシ、ミケシ、菊千代である。ネネとトトはしばらく滞在して去り、唯一のヒト科だった上田もとうとういなくなった。整理してみると、みょうに生き物の出入りする家ですね。ほぼほぼネコですが。