メディアの収益多角化に求められる「信頼」とは:2018年、メディアのサバイバルプラン(その2)

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01/07/2018 by kaztaira

メディアサイト「ニーマンラボ」の特集「2018年のジャーナリズム予測」176本の寄稿を手がかりに、メディアの課題を考える「2018年、メディアのサバイバルプラン」。

グーグル、フェイスブックによるデジタル広告複占とメディアのネット課金への動きをまとめた前回に続き、今回はメディアの収益多角化の取り組みと、そこで求められる「信頼」と「透明性」について見ていきたい。

※参照:広告モデルの行き詰まりを課金は支えられるのか:2018年、メディアのサバイバルプラン(その1)

●「収益ファースト・ジャーナリズム」

2018年の焦点は「収益ファースト・ジャーナリズム」だ。すなわち、ニュースにおける信頼を促進し、シンプルで短尺のコンテンツ、そして配信フォーマットに、より幅広く、力強い注力を行うということだ。

米国のスペイン語テレビネットワーク「ユニビジョン」戦略コミュニケーション担当副社長、ホセ・ザモラ氏は「収益ファースト」という生々しい言葉を使ってその課題を表現する。

ザモラ氏はユニビジョンに移籍する前には、メディアへの助成活動で知られる米ナイト財団で、メディアイノベーション・プログラムの担当をしていた経歴を持つ。

メディアのイノベーションのための実験的な取り組みが、低コスト、低リスクで可能になっている現状を前提としながら、ザモラ氏は続けてこう述べる。

いかなるメディアの報道局も、経済的な持続性に向けたはっきりとしたプランなしに、新たなイニシアチブを立ち上げることなどないだろう。

ザモラ氏が「収益ファースト」の例として挙げるのは、まず前回紹介したニューヨーク・タイムズのコンテンツ課金での、メーター制の絞り込みだ。

これはタイムズが2017年12月、非課金ユーザーが無料で読める1カ月当たりの記事本数を、これまでの10本から、一気に5本へと半減させた取り組み。

無料閲読の上限を設けるメーター制の課金(ペイウォール)を導入するメディアでは、今のところ、1カ月10本という設定は一般的な水準とみられてきた。

だがタイムズは、非課金ユーザーを課金ユーザーへと転換(コンバージョン)させるファネル(漏斗)の傾斜を絞り込み、250万人いる課金ユーザーの積み増しを、さらに加速させる狙いのようだ。

●収益多角化のメニュー

さらに、ザモラ氏が挙げるのが、新興ニュースメディア「アクシオス」の収益多角化の取り組みだ。

我々の共通理解としては、(シリアスなニュースを必要とする)ユーザーの積極的な獲得が必要だ。そしてそれに対する、(コンテンツの)スポンサーシップや広告、イベントの販売を行う。さらに、コンテンツを作り出すことで築き上げた価値に対する、スケーラブルな課金ビジネスも必要だ。これらを実施できるのなら、まさに急成長するメディア企業を作ることが可能だ。もし課金のみに依存するなら、それは自ら枠をはめることになる。また、広告のみに依存するなら、それは自己規制に加えて、過大なリスクにさらされることになる。

アクシオスの立ち上げ直前、共同創業者でCEOのジム・バンデヘイ氏は、2017年1月、「ニーマンラボ」のインタビューにこう述べている。同氏は2007年、ワシントン・ポストから独立し、ニュースベンチャー「ポリティコ」を共同創業。9年にわたるその実績をひっさげての新興メディアの立ち上げだ。

そのビジネスの建て付けは、まさに「収益多角化」だ。通常のスポンサード・コンテンツ、広告、イベント、課金などの多角化で持続可能なメディアを目指す。

当初、アクシオスの収益メニューの柱の一つとして話題を呼んだのは、「年間1000ドルのハイエンド課金コンテンツ」構想だ。だが、その実施については、「当面、タイミングを見る」として時期は明言していない

収益多角化は、業界の合言葉のようにもなっている。

メディアチェーン「ガネット」の最高コンテンツ責任者(COO)兼USAトゥデー編集長、ジョアン・リップマン氏は、収益のアイディアは報道現場からも出てくる、と言う。

報道を財政的に支える新たな手法のイノベーションを探っていくと、意外かもしれないが、そのアイディアがビジネス部門ではなく、ジャーナリスト自身から寄せられても不思議はない。すでにオーディオ、シンジケーション、ライセンシング、パートナーシップ、財団の助成など、様々なアイディアが続々立ち上がってきている。

前回紹介した米バズフィードCEO、ジョナ・ペレッティ氏の社内メモ「9タイプ」も、まさに副題が「我々の収益多角化モデルの構築」とうたう事業プランを伝えていた。

横軸に「バズフィード(本体)」「バズフィード・ブランド(料理動画の「テイスティ」など)」「バズフィード・ニュース」、縦軸に「広告」「コマース」「(動画)スタジオ」の、合わせて9タイプの収益モデルを提示。

課金コンテンツにこそ否定的だが、プログラマティック広告から、物販、書籍、アフィリエイト、ライセンシング、番組制作まで、幅広い収益を描く。

●ジャーナリズムの「価値提供」とは

では、課金を含めた収益多角化を可能にするのは、何か。

「”価値”は2018年の合言葉になるかもしれない」と新興医療メディア「スタット」の編集主幹、リック・バーク氏は言う。

スタットは2015年に、ボストン・グローブのオーナー、ジョン・ヘンリー氏が立ち上げたウェブメディア。バーク氏は27年にわたりニューヨーク・タイムズで編集局次長などのキャリアを積んだのち、ポリティコの編集主幹を経て、スタットに移籍している。

読者には目もくらむほどの盛りだくさんな選択肢があるのに、メディアがあえて、課金を求めるにはどうしたらいいか? 答えはもちろん:価値だ。

バーク氏は、その”価値”は読者に押し売りするのではなく、読者が課金にどれほどの”価値”を感じているかを、閲読本数、訪問間隔、メールマガジン登録、クレジットカード登録などのデータから分析していくのだという。

その中から見えてくる、読者にとっての価値とは、大きく3つに分類できるという。

第1に「分析、分析、分析」。記者による独自の視点の洞察を、読者は求めている、という。そして、「スクープ」。さらには、職場で共有したくなる「話題もの」。

そして、バーク氏はこう述べる。

我々の報道局では、このような問いかけに益々焦点を絞っている:記者たちが閲読課金に値する一流のジャーナリズムを伝えるために、我々ができることは何か? そして日々、あらゆる記事で、読者にとっての価値を強化するためには、どうしたらいいか?

●低下する「信頼」

「価値」に加えて、収益や課金の背景として、「2018年の予測」の寄稿者が挙げたキーワードで最も多かった(16人)のが、「信頼」だ。

「報道機関や、財団にしろNPOにしろ、ジャーナリズムとニュースブランドにおける信頼の推進と強化に本格的に乗り出すだろう 」。ユニビジョンのザモラ氏も、「収益ファースト」と合わせて指摘するのが「信頼」の重要性だ。

信頼をめぐるあらゆる取り組みは、この2つに焦点を当てる:明確化とエンゲージメント。明確化は、説明書き、記者のプロフィール、報道とオピニオンの明確な区分け、倫理綱領の公開し、透明性を確保すること。エンゲージメントは、読者/コミュニティに報道のプロセスに参加してもらうこと。記事のアイディアや情報提供、コメントを寄せてもらうことにより、ジャーナリズムのインパクトをより強いものにしていく。コミュニティこそが話題を持っている、というのもその理由の一つだ。

メディアへの「信頼」は、2016年の米大統領選から新政権発足後にいたるまで続く、トランプ氏によるメディア批判と相まって、大きな注目を集めてきたトピックだ。

ギャラップの調査では、ワシントン・ポストによる調査報道の金字塔「ウォーターゲート事件」の余韻が残る1976年の72%をピークに、40年間にわたって下落傾向が続く「マスメディアへの信頼度」。

それが大統領選の最終盤、2016年9月の発表では、1972年の調査開始以来、最低を更新する32%にまで落ち込み、特に共和党支持層に限れば、その数字は14%となっていた。

ただ、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストといったメディアによるトランプ氏への数々の調査報道やファクトチェックによって、その信頼度は翌2017年9月には41%へと10ポイント近く回復する。

ただ内訳を見ると、共和党支持層では14%のままで前年と変わらず、民主党支持層が前年の51%から72%へと急上昇していることが大きく影響した。米国内の、メディアに関する分断が広がった、とも言える結果だ。

●「信頼」回復の取り組みとは

この信頼回復をさらに進めたい? ならば耳を傾けること。壊れた関係を修復したいと思う時の謙虚さを持って、耳を傾けるのです。そして、変化に前向きになること。

「予測」の中でそう述べるのは、米サンタクララ大学で「トラスト・プロジェクト」を進めるディレクターのサリー・レーマン氏だ。

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「トラスト・プロジェクト」は、サンタクララ大学を拠点に、75を超すメディアが参加して「信頼」回復に向けた取り組みを進める代表的なプロジェクト。2014年に、レーマン氏とグーグルのリチャード・ギングラス氏が立ち上げた

プロジェクトが取り組んだのは、メディアの「透明性」確保の手立て。その成果として、2017年11月にグーグル、フェイスブック、ビング、ツイッターなどのプラットフォームが採用したフォーマットが、「トラスト・インジケーター」だ。

これは、メディアの「行動規範」や「倫理綱領」といった基準、財政的背景、ジャーナリストのプロフィール、速報かオピニオンかといったコンテンツの種別、報道のもとになった資料、報道のプロセスなど、それぞれのコンテンツの背景を構成する様々なデータを8分類にまとめたものだ。

これらのデータを、クリック一つで確認できるようなフォーマットにしてあり、ユーザーは、コンテンツごとのバックデータを、ウィキペディアを利用する時のようにチェックできる。

このコンテンツは、どんなメディアが、どんな編集方針のもとに報じているのか――そんなメディアの文脈を、改めて構築する取り組みとも言える。

レーマン氏は、こう指摘する。

ギャラップの調査が示すように、すぐれた報道への注力は、(信頼回復の)手助けとなるようだ。透明性もそうだ。だがそれに加えて、(読者との)良好な関係は、互いの重視と敬意に基づくものだ。そのためには、ギブアンドテイクが必要だし、進んで説明責任を担い、読者とやりとりをしていく姿勢が必要だ。人々との関係を再構築することは可能だ。そのためには、自分たちのことを信用して欲しいと望む人々を、まずはこちらから信用する必要がある。そして、人々が寄せる洞察に基づく、幅広いアクションを起こす必要が。

「信頼」と「透明性」は裏表の関係にあり、それらが確立することが、「価値」へとつながる。

その先には、どんなメディアのサバイバルプランがあるのか。(続く)

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※このブログは「ハフィントン・ポスト」にも転載されています。

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