ハラスメントにはセクハラ・パワハラ・マタハラなど色々な種類がありますが、これらのハラスメント行為から犯罪が成立する場合があります。そこで、ハラスメントの程度・内容や、その後の対応によっては刑事責任の追及を検討していく必要があります。
今回は、刑事責任を追求するための方法や、ハラスメント行為によってどのような犯罪が成立するのかを解説していきます。
しかし、ここで説明している犯罪や例はあくまでも一例ですので、具体的に犯罪になるかどうかは専門家に一度相談をするのがよいでしょう。
目次
被害届・告訴状で刑事責任を追及
ハラスメントで成立する犯罪を紹介する前に、ハラスメントの刑事責任を追及する方法を紹介します。
被害届と告訴の効果
被害届は被害事実を捜査機関に申告するのみのものですが、告訴は被害事実の申告だけではなく処罰を求める意思表示であるという違いがあります。また、告訴は受理されると、警察は証拠物などを検察官に送付しなければならず、検察官は起訴するかしないかの結論を告訴した者に伝えなくてはなりません。
つまり、告訴状を提出して受理されれば、捜査をしてもらい、一定の手続きを進めてもらうことができます。
他にも、名誉毀損罪や侮辱罪のような、事実が公になることで被害者に不利になるような親告罪といわれる犯罪については、起訴をして裁判で犯人を処罰するためには、告訴が必要になります。
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告訴状の提出と受理
告訴状は、どこの警察署や検察庁に提出してもよいのですが、基本的にはハラスメントが行われた場所の警察署で捜査がされるので、ハラスメント被害にあった場所の管轄の警察署に提出することをおすすめします。
ただ、告訴状を提出したとしても、内容の不足・証拠が不十分・事実確認を事前にしたいなどの理由で受理をしてもらえない場合が多くあります。
そのため、弁護士や行政書士の専門家に依頼をして、陳述書や報告書、証拠の収集・提出をすることをおすすめします。さらに、実況見分や事情聴取の日程の設定を進めることで早期の受理を促すことができます。
ハラスメントで成立する10の罪
強制性交等罪(旧 強姦罪)
暴行行為や脅迫行為によって、被害者の反抗を抑えつけて肉体関係を持った場合には「強制性交等罪」が成立します。
つまり、殴る蹴るなどの暴行をされたり、会社内の上下関係を利用して脅迫されることで、意に反して肉体関係をもってしまった場合には、強制性交等罪での告訴を検討します。
平成29年の刑法改正で、強姦罪から強制性交等罪に罪名が変更され、男性も被害者に含まれ、肉体関係の範囲も広がり、厳罰化されました。
また、強姦罪は親告罪でしたが、強制性交等罪は非親告罪となり、告訴がなくても起訴ができるようになりました。
刑法177条
13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。
準強制性交等罪(旧 準強姦罪)
強制性交等罪は、暴行や脅迫によって肉体関係をもつものでしたが、心神喪失や抗拒不能状態に乗じて肉体関係をもった場合には準強制性交等罪に該当することになります。
具体的には、睡眠中や泥酔状態、酩酊状態で、抵抗することが不可能又は極めて困難な状態にもかかわらず、性交等された場合に、準強制性交罪での告訴を検討することになります。
準強制性交等罪と、名称に「準」がついていますが、強制性交等罪と比較して罪が軽いという事ではなく、同一の重い法定刑になっています。
刑法178条2項
人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。
強制わいせつ罪
上記の(準)強制性交等罪のように性交までにいたるほど悪質なセクハラではなかったとしても、「強制わいせつ罪」で告訴を検討することができます。
強制わいせつ罪は、暴行や脅迫を用いてわいせつな行為をした場合に成立する犯罪です。
「わいせつ」とは、いたずらに性欲を興奮・刺激させ、普通の人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものとされています。つまり、わいせつな行為とは、抱きついたり、陰部をあてたり、触ったりするなどのような、一般的にわいせつと感じられるような行為をいいます。
また、暴行や脅迫の程度も、被害者の意思に反してわいせつな行為をするために必要な程度で、会社内の上下関係を利用するなど、比較的軽微なものでよいと解釈されています。
強制わいせつ罪も、強制性交等罪も同じように、平成29年の刑法改正で非親告罪となっています。
刑法176条
13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
準強制わいせつ罪
強制性交等罪と準強制性交等罪と同じように、強制わいせつ罪と準強制わいせつ罪も、行為に至るまでに差があります。つまり、準強制わいせつ罪とは、被害者の心神喪失や抗拒不能状態のときにわいせつな行為をする犯罪です。
睡眠中を利用したり、睡眠剤やお酒で泥酔させて、わいせつな行為をされたようなときには準強制わいせつ罪での告訴を検討することになります。
刑法178条
人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第176条の例による。
わいせつ物陳列罪
わいせつ物陳列罪とは、わいせつな文章や画像などを公然と陳列する犯罪です。ここまでで紹介した様な直接的な接触によるセクハラ行為だけではなく、わいせつな映像などをみせる嫌がらせ行為でも犯罪が成立する場合もあります。
例えば、職場でアダルトビデオを流したり、アダルト雑誌をみせたり、PCの壁紙をわいせつな画像にするようなセクハラ行為を受けた場合にはわいせつ物陳列罪での告訴を検討することができます。
刑法175条
わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
暴行罪
ハラスメント行為の際に、殴る蹴るなどの有形力の行使があった場合には、暴行罪での告訴を検討することができます。
例えば、セクハラでは性的関係まではいかなかったが髪を引っ張られた場合、パワハラで殴られた場合、アルコールハラスメントでは居酒屋で酔った勢いで蹴られるなどされた場合などに暴行罪での告訴を検討することになります。
刑法208条
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
傷害罪
暴行を加えたときに、怪我を負わせ傷害が生じたようなときには傷害罪が成立することになります。
さらに、暴行がなくても、ハラスメントによって精神的なストレスを与えられ、睡眠障害のような生理機能の障害が生じた場合にも傷害罪での告訴を検討することができます。
第204条
人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
脅迫罪
ハラスメント行為の一環として、被害者に対して「害を加える旨を告知して」、脅迫が行われた場合には脅迫罪が成立する場合があります。
「害を加える旨を告知」とは、加害者により引き起こせるもので、一般的に恐怖を感じる内容を伝えることです。
例えば、「殴るぞ」「今後どうなってもいいんだな?」などのように脅して、セクハラなどのさらなるハラスメント行為をしようとした場合には、脅迫罪での告訴を検討することになります。
刑法222条
生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
名誉毀損罪
言葉によるハラスメントによって、精神的なストレスから精神疾患等になった場合であれば傷害罪の検討ができますが、精神疾患が無い場合には言葉の暴力では暴行罪は成立しませんので、名誉毀損罪や侮辱罪が成立するかどうかを検討することになります。
名誉毀損とは、公然と具体的な事実を示して名誉を傷つけることで、その具体的な事実というのが嘘か本当であるかは関係がありません。
例えば、前職をやめた理由や、持病について、社内で不倫をしている、などのようなことを公然と言って名誉を傷つけられたような場合には名誉毀損罪での告訴を検討することができます。
単にバカなどと言われた場合には事実の摘示にはならず、下で説明する侮辱罪が成立する可能性があります。
また、名誉毀損罪は親告罪ですので起訴するためには告訴が必要となります。
二百三十条
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
侮辱罪
具体的な事実を公然と示して、名誉を傷つけた場合には名誉毀損罪ですが、事実を示さずに侮辱した場合には侮辱罪になる場合があります。
例えば、大人数の前で「バカ」「デブ」「無能」などのような汚い言葉で罵らたり、「男を誘ってる」「いやらしい」などのようなセクハラ発言をされた場合には侮辱罪での告訴を検討することになります。
侮辱罪も、名誉毀損罪と同様に親告罪ですので、起訴するために告訴が必要になります。
刑法231条
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
- 強制性交等罪
- 準強制性交等罪
- 強制わいせつ罪
- 準強制わいせつ罪
- わいせつ物陳列罪
- 暴行罪
- 傷害罪
- 脅迫罪
- 名誉毀損罪
- 侮辱罪
ハラスメントはこれらの犯罪での告訴を検討できます。
一度専門家に相談をするとよいでしょう。