1754/1754
47-35 雪山での競り合い
第2集団が第1チェックポイントのマーカーを手にした頃、先頭集団は既に第2チェックポイントで黄色のマーカーを得ていた。
「山道を走るだけでこんなに差が付くんですね」
シュウは感心することしきりだ。
「そうだな。整地された道ではないから、さまざまな悪条件がある。それらにどう対処するかで随分と変わってくるぞ」
「ジン様、具体的には?」
「まずは体重だな。上り坂というだけで、筋力とのバランスが難しい」
「ああ、それはわかるわ」
ルビーナは頷いた。
「それに、足の裏だな。土、砂利道、岩場といった、刻々と変わる条件に適応していないといけない」
靴底のようなゴム貼りも一つの手だ、と仁は説明する。
「あるいはスパイクを突き出せるようにとかな。ほら」
「あっ!」
仁が指差した魔導投影窓には、山頂付近の氷雪地帯へ踏み込む先頭集団が映し出されている。
その7体のうち、ゼッケン31がスリップした。
「危ない!」
岩の上に薄く氷が張った、登山用語でいう『ベルグラ』だ。非常に滑りやすいので注意が必要である。
[ああっ、ゼッケン31、スリップした! 体勢を立て直せない! 滑落します!!]
観客席がどよめいた。
ゼッケン31はスリップした体勢のまま数メートル転げ落ちたのだ。そしてその先は谷であった。
[ああっ、危ない!]
だが。
[おおっ、後ろについていたゼッケン49が、31が谷底に落ちるのを辛うじて止めました! これは見事!!]
このフェアプレーに、観客から拍手が起きた。
だが、この氷雪地帯により、先頭集団は2つに分裂。ゼッケン1、3、51、40が順調に進んでいくのに対し、31、49、13は徐々に遅れ始めたのである。
* * *
「うーん、こういう落とし穴があるんだな」
仁はコース選定の妙に感心していた。
「だから、特化型というのは注意しないといけないんですね」
シュウも、何か思うところがあったようだ。
「ねえ、ジン様のゴーレムだったらどう?」
ルビーナがそんな質問をしてきたので、少し真面目に考えてみる仁。
「そうだなあ……基本的に俺は汎用型もしくは万能型をベースにして、付加機能を加えるというやり方をするから、そこまで適応出来ないということはないな」
ランド、マリン、スカイ、それにゴーレムメイドたちの基本的な構造は同じである。
蓬莱島勢で唯一異なるのは人魚型のマーメイドであろう。
「スリップというのは、ほとんどの場合でマイナスになるからな。俺の場合は魔獣の革を張るか、スパイクを出せるようにするか……しているかな」
氷の上を滑った方が速いというような場合を除き、素早い動きには足裏の摩擦は重要である。
まあ、競技でなければ『力場発生器』で飛んでしまえばいいのだが……。
「あとはオプションや装備の付け替えだな。……あ、ほら」
仁が指差したのは第2集団のゼッケン17。
氷雪地帯手前で、脛に装着されていたかんじきのようなものを脚に装着したのである。
その効果はなかなかのもので、ゼッケン17は第2集団を飛び出し、先頭集団へと迫る勢いで山道を駆け上がっていった。
「なるほどね、ああいうやり方もあるわけね……」
ルビーナは感心している。
「人間だってそうだろう? 雨が降れば傘を差すし、長靴を履く。寒ければ上着を着るし、戦うときは武器を持つしな」
「ゴーレムだって同じこと、というわけですね。目から鱗が落ちた思いです」
シュウが嬉しそうに言う。彼にとってもいろいろと得るものが多いようだ。
「この様子をオノゴロ島にも中継してやりたいな……」
仁がほそりというと、
「お父さま、老君が記録しているでしょうから、後で見せてあげればよろしいのでは?」
要は録画放送ということになる。
「ああ、それでもいいだろうな」
それはそれで、みんな楽しんでくれそうである、と仁は思った。
(あとで老君と相談してみよう)
* * *
[ゼッケン1、TOPで山頂に到着! 今、緑色のマーカーを手にしました!!]
山頂は吹雪いており、視界が5メートルもない。
それでも魔導監視眼はその役目を果たしていた。
[続くは3、51、40! いや、ゼッケン17が上がってきました!!]
かんじき風のアタッチメントを装着したゼッケン17の速度は速く、5位にまで順位を上げていたのである。
ゼッケン1はそのまま駆け下る。
ルートにはポールが立てられ、赤い魔導ランプの光が点灯しているので吹雪の中でも何とかルートは見えていた。
そして下るにつれ視界はよくなってくる。
山頂から100メートルも下ると、霧は晴れ、吹雪も止んだ。
駆け下りるゴーレムたちの姿もよく見えるようになっている。
そしてまた、1体がスリップした。
[ああっ! またもスリップ! ゼッケン3、滑落だ!]
駆け下りながらのスリップなのでその速度は速く、たちまちのうちに谷底目掛けて滑り落ちていく。
他のゴーレムが手を差し伸べたが、時既に遅し。
[ゼッケン3、谷底へ転落です! ダメージが少ないことを祈りましょう!]
さすがに谷底には魔導監視眼もない。
ゼッケン3がどうなったかは、今のところ不明である。
* * *
「多分、係のゴーレムが回収しているだろう」
道を外れた場所にも、不正チェックのためのゴーレムがいるのだ。破損していてもそういったゴーレムが回収してくれているはずだ、と仁は思った。
(というか、そういう手配りも必要なんだなあ)
競技運営の参考になると、仁は己に言い聞かせ、画面を見つめる。
「下りは速いな。……こういう場面では平衡感覚が重要になるんだが、他に重要なものは何かわかるか?」
仁はルビーナとシュウに聞いてみた。
「え? え、ええと……」
「……は、反応速度、でしょうか?」
突然の質問にルビーナはしどろもどろになったが、シュウは何とか己の考えを口にした。
「お、いい線だな。確かに反応速度が速いと、いろいろな事態に対処しやすくなる。もう一つくらい思いつくかな?」
「……」
しばらく待っても答えが出て来ないので、
「身体の柔軟性だな。自由度といってもいい。極端な話、人の形をした鉄の塊では、バランスを崩したらもう立て直せないだろう?」
と答えをいう仁。
「あ、そっか! 身体が軟らかいと、リカバリー動作がしやすいというか、効果が高くなるというか……」
これもまた、シュウが答えを出した。
「そういうことだ。基本的な制御は人間の身体だが、自由度が高いといろいろ有利だぞ」
「勉強になります」
「うー……」
褒められたシュウは嬉しそうに頷き、ルビーナはちょっと悔しそうに爪を噛んでいた。
「先頭集団が第4チェックポイントに差し掛かりましたよ」
ロードトスの声に、仁たちは魔導投影窓を見つめた。
そこには、青いマーカーを手にするゼッケン1が映っていた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
この小説をブックマークしている人はこんな小説も読んでいます!
レジェンド
東北の田舎町に住んでいた佐伯玲二は夏休み中に事故によりその命を散らす。……だが、気が付くと白い世界に存在しており、目の前には得体の知れない光球が。その光球は異世//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全1603部分)
- 29505 user
-
最終掲載日:2018/01/06 18:00
金色の文字使い ~勇者四人に巻き込まれたユニークチート~
『金色の文字使い』は「コンジキのワードマスター」と読んで下さい。
あらすじ ある日、主人公である丘村日色は異世界へと飛ばされた。四人の勇者に巻き込まれて召喚//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全824部分)
- 28035 user
-
最終掲載日:2017/12/24 00:00
転生したらスライムだった件
突然路上で通り魔に刺されて死んでしまった、37歳のナイスガイ。意識が戻って自分の身体を確かめたら、スライムになっていた!
え?…え?何でスライムなんだよ!!!な//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
完結済(全303部分)
- 30042 user
-
最終掲載日:2016/01/01 00:00
異世界はスマートフォンとともに。
神様の手違いで死んでしまった主人公は、異世界で第二の人生をスタートさせる。彼にあるのは神様から底上げしてもらった身体と、異世界でも使用可能にしてもらったスマー//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全459部分)
- 23169 user
-
最終掲載日:2017/12/31 12:32
進化の実~知らないうちに勝ち組人生~
柊誠一は、不細工・気持ち悪い・汚い・臭い・デブといった、罵倒する言葉が次々と浮かんでくるほどの容姿の持ち主だった。そんな誠一が何時も通りに学校で虐められ、何とか//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全115部分)
- 21328 user
-
最終掲載日:2017/12/23 19:31
境界迷宮と異界の魔術師
主人公テオドールが異母兄弟によって水路に突き落されて目を覚ました時、唐突に前世の記憶が蘇る。しかしその前世の記憶とは日本人、霧島景久の物であり、しかも「テオド//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全1345部分)
- 25413 user
-
最終掲載日:2018/01/07 00:00
Only Sense Online
センスと呼ばれる技能を成長させ、派生させ、ただ唯一のプレイをしろ。
夏休みに半強制的に始める初めてのVRMMOを体験する峻は、自分だけの冒険を始める。
【富//
- 21064 user
-
最終掲載日:2017/05/04 00:00
甘く優しい世界で生きるには
勇者や聖女、魔王や魔獣、スキルや魔法が存在する王道ファンタジーな世界に、【炎槍の勇者の孫】、【雷槍の勇者の息子】、【聖女の息子】、【公爵家継嗣】、【王太子の幼//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
完結済(全255部分)
- 20711 user
-
最終掲載日:2017/12/22 12:00
聖者無双 ~サラリーマン、異世界で生き残るために歩む道~
地球の運命神と異世界ガルダルディアの主神が、ある日、賭け事をした。
運命神は賭けに負け、十の凡庸な魂を見繕い、異世界ガルダルディアの主神へ渡した。
その凡庸な魂//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全362部分)
- 22630 user
-
最終掲載日:2017/09/06 20:00
魔王様の街づくり!~最強のダンジョンは近代都市~
書籍化決定しました。GAノベル様から三巻まで発売中!
魔王は自らが生み出した迷宮に人を誘い込みその絶望を食らい糧とする
だが、創造の魔王プロケルは絶望では//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全211部分)
- 21081 user
-
最終掲載日:2018/01/05 18:59
二度目の人生を異世界で
唐突に現れた神様を名乗る幼女に告げられた一言。
「功刀 蓮弥さん、貴方はお亡くなりになりました!。」
これは、どうも前の人生はきっちり大往生したらしい主人公が、//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全386部分)
- 26766 user
-
最終掲載日:2017/12/20 12:00
無職転生 - 異世界行ったら本気だす -
34歳職歴無し住所不定無職童貞のニートは、ある日家を追い出され、人生を後悔している間にトラックに轢かれて死んでしまう。目覚めた時、彼は赤ん坊になっていた。どうや//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
完結済(全286部分)
- 29101 user
-
最終掲載日:2015/04/03 23:00
デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )
◆カドカワBOOKSより、書籍版12巻、コミカライズ版6巻発売中! アニメ放送は2018年1月11日より放映開始です。
※書籍版とWEB版は順番や内容が異なる箇//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全560部分)
- 34961 user
-
最終掲載日:2017/12/31 18:55
賢者の孫
あらゆる魔法を極め、幾度も人類を災禍から救い、世界中から『賢者』と呼ばれる老人に拾われた、前世の記憶を持つ少年シン。
世俗を離れ隠居生活を送っていた賢者に孫//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全126部分)
- 27587 user
-
最終掲載日:2017/12/24 06:11
異世界食堂
しばらく不定期連載にします。活動自体は続ける予定です。
洋食のねこや。
オフィス街に程近いちんけな商店街の一角にある、雑居ビルの地下1階。
午前11時から15//
-
ローファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全119部分)
- 22179 user
-
最終掲載日:2017/06/10 00:00
ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた
◆書籍⑧巻まで、漫画版連載中です◆ ニートの山野マサル(23)は、ハロワに行って面白そうな求人を見つける。【剣と魔法のファンタジー世界でテストプレイ。長期間、//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全192部分)
- 23978 user
-
最終掲載日:2018/01/02 21:00
ありふれた職業で世界最強
クラスごと異世界に召喚され、他のクラスメイトがチートなスペックと“天職”を有する中、一人平凡を地で行く主人公南雲ハジメ。彼の“天職”は“錬成師”、言い換えればた//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全299部分)
- 33299 user
-
最終掲載日:2018/01/06 18:00
とんでもスキルで異世界放浪メシ
※タイトルが変更になります。
「とんでもスキルが本当にとんでもない威力を発揮した件について」→「とんでもスキルで異世界放浪メシ」
異世界召喚に巻き込まれた俺、向//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全398部分)
- 30583 user
-
最終掲載日:2017/12/31 23:32
フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~
※作者多忙につき、当面は三週ごとの更新とさせていただきます。
※2016年2月27日、本編完結しました。
ゲームをしていたヘタレ男と美少女は、悪質なバグに引//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全226部分)
- 26778 user
-
最終掲載日:2017/12/16 07:00
Re:ゼロから始める異世界生活
突如、コンビニ帰りに異世界へ召喚されたひきこもり学生の菜月昴。知識も技術も武力もコミュ能力もない、ないない尽くしの凡人が、チートボーナスを与えられることもなく放//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全443部分)
- 21533 user
-
最終掲載日:2017/06/13 01:00
Knight's & Magic
メカヲタ社会人が異世界に転生。
その世界に存在する巨大な魔導兵器の乗り手となるべく、彼は情熱と怨念と執念で全力疾走を開始する……。
*お知らせ*
ヒーロー文庫よ//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全135部分)
- 24162 user
-
最終掲載日:2018/01/02 01:32
異世界迷宮で奴隷ハーレムを
ゲームだと思っていたら異世界に飛び込んでしまった男の物語。迷宮のあるゲーム的な世界でチートな設定を使ってがんばります。そこは、身分差があり、奴隷もいる社会。とな//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全221部分)
- 26228 user
-
最終掲載日:2017/11/30 20:07
盾の勇者の成り上がり
盾の勇者として異世界に召還された岩谷尚文。冒険三日目にして仲間に裏切られ、信頼と金銭を一度に失ってしまう。他者を信じられなくなった尚文が取った行動は……。サブタ//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全859部分)
- 23891 user
-
最終掲載日:2018/01/02 10:00
私、能力は平均値でって言ったよね!
アスカム子爵家長女、アデル・フォン・アスカムは、10歳になったある日、強烈な頭痛と共に全てを思い出した。
自分が以前、栗原海里(くりはらみさと)という名の18//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全254部分)
- 22409 user
-
最終掲載日:2017/12/29 00:00
ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント-
世界最強のエージェントと呼ばれた男は、引退を機に後進を育てる教育者となった。
弟子を育て、六十を過ぎた頃、上の陰謀により受けた作戦によって命を落とすが、記憶を持//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全178部分)
- 25792 user
-
最終掲載日:2017/12/28 04:15
八男って、それはないでしょう!
平凡な若手商社員である一宮信吾二十五歳は、明日も仕事だと思いながらベッドに入る。だが、目が覚めるとそこは自宅マンションの寝室ではなくて……。僻地に領地を持つ貧乏//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
完結済(全205部分)
- 32895 user
-
最終掲載日:2017/03/25 10:00
蜘蛛ですが、なにか?
勇者と魔王が争い続ける世界。勇者と魔王の壮絶な魔法は、世界を超えてとある高校の教室で爆発してしまう。その爆発で死んでしまった生徒たちは、異世界で転生することにな//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全532部分)
- 25156 user
-
最終掲載日:2017/12/17 23:39