「配信は金曜日」第1回 J・ティンバーレイク「Filthy」+『DEVILMAN crybaby』
J・ティンバーレイク「Filthy」、『DEVILMAN crybaby』
スーパースターの帰還
ジャスティン・ティンバーレイクの存在がどれほど特別なのか。それは、彼がアメリカのエンターテインメント界において誰もが夢見る音楽界での成功とハリウッドでの成功を同時に実現してみせた、フランク・シナトラ、エルヴィス・プレスリー以来の白人スターであることが何よりもの証だ。
2010年代に入ってから、ジャスティン・ティンバーレイクは『TIME/タイム』『ステイ・フレンズ』『ランナーランナー』などの主演作はもちろんのこと、Napster設立者ショーン・パーカーを演じたデヴィッド・フィンチャー監督作品『ソーシャル・ネットワーク』、親子役を演じたクリント・イーストウッド&エイミー・アダムスと堂々わたりあった『人生の特等席』、フォークシンガーの主人公のミュージシャン仲間を演じたコーエン兄弟監督作品『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』などで役者としてのキャリアを確固たるものとしてきた。
ジャスティン・ティンバーレイクの本格的なハリウッド進出は、ミュージシャンとしてトップに上りつめた先の新しい挑戦であったが、必然的にそれまでと比べて音楽活動のペースは落ちていった。また、『SMAP×SMAP』に出演してSMAPと一緒に「Sexyback」や「Rock Your Body」を歌って踊るなど、2006年頃まではソロ・アーティストとしての日本での知名度もそれなりに高かったが、日本以外の国における圧倒的な動員力とのアンバランスさから当時のワールドツアーでは日本公演を組むことができず(この頃から海外のスーパースターのワールドツアーにおける「日本スルー」が常態化するようになった)、2013年にリリースされた7年ぶりのアルバム『The 20/20 Experience』が巻き起こした熱狂も日本だけはその蚊帳の外だった。
2018年の年明け早々、そんなジャスティン・ティンバーレイクが5年ぶりのアルバム『Man of the Wood』を2月2日にリリースすることを自身のTwitterで告知。
そして、1月5日金曜日にアルバムからのリード曲「Filthy」を公開した。
設定は10年後の2028年、マレーシア・クアランプールで開催されているアジア・ディープラーニング学会のカンファレンス。そこにスティーブ・ジョブズ風のヘアスタイルと髭とファッションのジャスティン・テインバーレイクが登壇し、続いて彼の動きを完璧にシミュレートするロボットがパフォーマンスを披露する。最後にはそのロボットを操っていたジャスティン・ティンバーレイク本人が……。そんなミーム(ソーシャル・メディア上で話題となること)を狙いすましたビデオを手がけているのは、長編映画『綴り字のシーズン』『わたしを離さないで』などの監督作品でも知られる、ミュージックビデオ界の巨匠マーク・ロマネクだ。
アルバム『Man of the Wood』からのリード曲「Filthy」のプロデューサーはティンバランドとダンジャ。この布陣は、まさに2006年のメガヒット・アルバム『FutureSex/LoveSounds』の再来を期待させるもの。ニューアルバムにはその2人のほか、同じく『FutureSex/LoveSounds』でも重要な役割を果たしていたファレル・ウィリアムスが共同プロデューサーとして参加、さらにアリシア・キーズやカントリーシンガーのクリス・ステイプルトンもゲスト参加しているという。

気になるのは、アルバムタイトルの『Man of the Wood』だ。「ウッド」は彼の出身地であるテネシー州の森を意味しているのかもしれないが、黒人社会において「白人」の蔑称的スラングとしても使用されてきた言葉だ。今やすっかりラップ/R&B一色となったアメリカの音楽シーンだが、その中でもジャスティン・ティンバーレイクはいち早くブラックミュージックのエッセンスを自身の音楽に取り込んできた白人のポップスターであり、そのことで白人社会、黒人社会の双方から批判の矢面にも立ってきた。Jay-Zやスヌープ・ドッグのリリックからの引用もある今回のファンクチューン「Filthy」の中で《Haters gon' say it's fake》(ヘイターたちは俺の音楽を偽物と言う)と繰り返し歌っているように、今回のアルバムでそうした批判に対しての落とし前をつけようとしているのではないか。カントリーミュージック界のスター、クリス・ステイプルトンの起用あたりに、その鍵が隠されているような予感がする。
アニメ業界激震? Netflix『DEVILMAN』の圧倒的自由度
2018年1月最初の金曜日には、Netflixからも注目すべき作品の配信がスタートした。永井豪による不朽の名作『デビルマン』を現代の日本を舞台にアップデートさせた、全10エピソードのアニメ作品『DEVILMAN crybaby』。監督は、昨年公開された2本の劇場公開長編作品『夜は短し歩けよ乙女』『夜明け告げるルーのうた』がいずれも高い評価を集めたばかりの湯浅政明。本作が画期的なのは、これまで日本でも前例があったようなストリーミングサービスによる先行配信や独占配信を謳っただけの作品ではなく、Netflixが自社配信専用作品として製作をすべて担い、それを全世界で同時配信する作品であることだ。
実際に作品を見て、きっと誰もがまず驚かされるのは、バイオレンス描写、グロテスク描写、性的描写における、その圧倒的な表現の自由さだろう。Netflixサイト内のタイトル画面にも「大人向け」と明示されているように、これまでにアニメ化、実写化(苦笑)されてきた『デビルマン』とは完全に一線を画す、というか完全に一線を超えた描写が次から次へと展開していく。思い出すのは約10年前、レイティングを度外視してアメリカのケーブル局が製作した『ブレイキング・バッド』や『ウォーキング・デッド』の大ヒットによって、アメリカのエンターテインメントの中心に、多くの人が衰退期にあると思っていた「テレビ」が再び躍り出たことだ(その現象は現在も加速している)。もしかしたら『DEVILMAN crybaby』は、アニメという日本に馴染みのあるフォーマットによって、それと同じことを日本で成し遂げようとする野心を秘めた作品なのかもしれない。
主題歌は電気グルーヴ、劇伴は電気グルーヴのサポートメンバーとしても活動している牛尾憲輔、声優としてラッパーのKEN THE 390や般若も登場し、劇中ではなんと毎エピソード唐突にフリースタイル風のラップを披露している。そのように日本のアニメ界特有のロック主題歌文化やアニソン文化を排除したことにも象徴されている、本作の新しい試みがすべて成功しているかどうかは評価が分かれるところだろうが、単純に完成度を高めることよりもたくさんのミームを仕掛けることを優先するその手法は、極めて現代的。制作時期的にその影響下にあるわけではないだろうが、昨年9月に同じNetflixオリジナルアニメとして世界配信された超異色作『ネオ・ヨキオ』ともシンクロしている。
『ネオ・ヨキオ』のショーランナー(メインクリエイター)はニューヨークのインディー・バンド、ヴァンパイア・ウィークエンドのエズラ・クーニングだが、アニメーション制作には古橋一浩、西村純二、プロダクションI.Gといった、日本のアニメーション監督や制作会社が深く関与していた。そうした「外注」ではなく、日本で制作された『DEVILMAN crybaby』が国外でどう評価されることになるのかは未知数だが、ストリーミングサービスが文化的インフラとなった国外と日本の情報感度の格差を埋める上での起爆剤となることを大いに期待したい。