したがって重要な課題は、比較的高い授業料を徴収しつつ、大学の進学者数やアクセス、大学の質を維持することは可能なのか、もしくは授業料はこうした目標の達成の障害となるのかというものである。我々は最近の論文(Murphy et al. 2017a)と報告書(Murphy et al. 2017b)において、イングランドの高等教育制度の文脈の中でこの疑問を検証した。イングランドは1998年までの授業料が無料で学費援助の少ない大学制度から、その後20年間で世界有数の授業料の高い(年間9000ポンド)制度へと移行した。
研究課題と研究設計
1998年の有料化とその後の改革の因果関係を厳密に評価することは容易でない。授業料の引き上げだけではなく、これに伴い返済や学費援助も変化したため、それぞれの集団が異なる影響を受けた。一部ではあるが、イングランドの改革について、特定の側面に関する研究が行われている。たとえば、格差に関する研究(Blanden and Machin 2013)や、財政への影響に関する研究(Dearden et al. 2008)などである。因果関係の研究は、1つの改革の特定の要素に焦点をあてており、たとえば生活費給付奨学金(maintenance grant)の変化に関する研究(Dearden et al. 2014)、大学独自の給付奨学金(bursaries)に関する研究(Murphy and Wyness 2015)などがあり、一般的に英国の学生は(米国の学生と同様)価格に敏感なことがわかっている。
次に、1998年の改革以後、大学進学に関する社会経済的格差が縮小したのかを検討する。この点についても肯定的な結果が得られた。我々の分析の結果、1997年から2015年の間に最低所得層家庭出身の若者の進学率は、最速ペースで上昇し(実際、2015年の進学率は1997年の2倍の20%に上昇)、各集団間の進学格差もわずかに縮小したこと(ただし依然としてかなりの格差があり、最高所得層と最低所得層の学生では約20ポイントの差がある)がわかった(図2を参照)。以上の調査結果はBlanden and Machin(2013)の研究結果と整合的である。彼らによると、1980年代と1990年代を通じて大学進学に関する社会経済的格差は拡大したものの、改革直後の数年間は安定的に推移したという。
出典:1961-2002年の統計はCarpentier(2004)、2002-2014年の統計はHigher Education Information Database for Institutionsから取得。すべての数値は筆者らの計算に基づき、2015年の不変ポンドで表示。この計算で使用されたFTE(フルタイム換算)の進学者数には、すべての学生の種類(フルタイム、パートタイム、大学院生、学部生、英国、EU、海外)が含まれている。1人あたりの資金はすべての学生を対象にしており、教育助成金と授業料収入で構成される(授業料収入については、前述の全種類の学生が対象)。
Barr, N A (ed) (2013), Shaping Higher Education: 50 years after Robbins, London School of Economics
Blanden, J and S Machin (2013), "Educational Inequality and The Expansion of United Kingdom Higher Education," Scottish Journal of Political Economy 60: 597-598.
Dearden, L, E Fitzsimons, A Goodman and G Kaplan (2008), "Higher Education Funding Policy," Economic Journal 118(526): F100-F125,
Dearden, L, E Fitzsimons and G Wyness (2014), "Money for nothing: Estimating the impact of student aid on participation in higher education," Economics of Education Review 43: 66-78