「ウィズダム」という名の高齢のメスのアホウドリが、またもや偉業を達成した。67歳にして、巣がある米領ミッドウェー環礁で卵を産んだのだ。野生の鳥としては、知られている限りで世界最高齢となる。(参考記事:「世界最高齢アホウドリ、66歳でヒナかえす」)
ウィズダムとつがいの「アケアカマイ」は、毎年、米ハワイ州の北西ハワイ諸島周辺に広がるパパハナウモクアケア海洋ナショナル・モニュメントに帰ってきて巣を作り、1羽のひなを育てている。米国魚類野生生物局(USFWS)は、2017年12月13日に彼らが新しい卵を抱いていることを確認した。(参考記事:「2010年世界遺産:パパハナウモクアケア」、「米がハワイの海洋保護区を拡大、日本国土の約4倍に」)
長寿のウィズダムは、何度かつがいに先立たれているが、今までに30羽から35羽のひなを育てている。
しかもすごいのは、米国地質調査所によるとウィズダムは1956年以来、300万〜500万キロを旅してきたとみられること。月と地球を4〜6往復できるほどの距離だ。(参考記事:「アホウドリに学ぶ未来の航空技術」)
「67歳だとわかっている鳥が卵を産み続けている例が、これまでなかったというだけです」と海洋ナショナル・モニュメントの副責任者であるケイト・トニオロ氏は話す。「驚くべきことのように思われるでしょうが、ウィズダムの2つ向こうの巣にいる鳥は、もっと高齢かもしれないのです」
ウィズダムの物語
ウィズダムの物語が始まったのは、1956年12月10日。ミッドウェー環礁で、USFWSの生物学者チャンドラー・ロビンス氏が、1羽のごく普通のコアホウドリに足環をつけた。(参考記事:「動物大図鑑 アホウドリ」)
その46年後の2002年、ロビンス氏が偶然ウィズダムを捕まえるまで、この鳥が目撃されることはなかった。
年を重ねても元気だったことから、「知恵」を意味するウィズダムという名が与えられた(ウィズダムと同じく、ロビンス氏も高齢になっても活動を続けていた。2017年に98歳で亡くなるまで、メリーランド州のパタクセント野生生物研究所で鳥類の研究を行っていた)。
ロビンス氏は、2013年のナショナル ジオグラフィックの取材に対し、ウィズダムをとても愛していると話した。海に浮かぶプラスチック片を飲みこんだり、漁師の延縄(はえなわ)に引っかかったりするなど、アホウドリを待ち受ける危険は多いが、ウィズダムは、そういった危険を避けてきたからだ。(参考記事:「世界最高齢の野生アホウドリが産卵」、「海のプラスチックに「匂いの罠」、動物誤飲の一因」)
ニューヨーク州イサカにあるコーネル大学鳥類学研究所で、バードカメラを使った研究プロジェクトを率いているチャールズ・エルダーマイア氏は、こう語る。「この鳥は、私たちの理解を広げてくれたのです。私たちの生活や、私たちが日常的に関わる動物の99%とはまったく異なる生き物だからです」
エルダーマイア氏は、ほとんどの野鳥にとって、生き残り、つがいを見つけ、ひなを育てるのは大変なことだと話す。ウィズダムは、60年間にわたってほぼ毎年それを行ってきた。「まさに前例のないことです」
幸運な鳥
それだけではない、とエルダーマイア氏は言う。ウィズダムは、厳しいアホウドリ生活の「達人」なのだ。数十万キロにわたる広大な海でエサを求め、過酷な気象条件に耐え、ひなを育てる孤島を見つける。(参考記事:「海鳥は「匂いの地図」を持っている?」)
「とてつもなく幸運で、とてつもなく経験を積んだ鳥なのです」
トニオロ氏は、ウィズダムが育てたひなが増えるほど、種にとっては有利になると言う。コアホウドリは、国際自然保護連合(IUCN)によって「近危急種(near threatened)」に指定されている。
コアホウドリの約70%はミッドウェーに巣を作る。そのため、2011年に日本を襲った地震で発生したような津波が発生すれば、1度に多くの鳥が流されてしまう可能性もある。(参考記事:「津波の仕組み、前兆、とるべき対応」)
「このことからも、種が存続するために1羽1羽の鳥がどれだけ重要であるかがわかります」と、トニオロ氏は話している。
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