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企業・経営 ライフ 週刊現代

若くして大金を得た成功者・社長が明かす「不安と苦悩、使い道」

稼ぐことより、稼いでからが難しい 

会社の成長が止まる恐怖

会社を成長させるために走り続けろ――。起業して上場すると、経営者は株主から至上命令として「事業拡大」を突きつけられる。

個人向け家計簿アプリと法人向けクラウド会計ソフトを提供し、フィンテック企業の旗手として注目を集めるマネーフォワード社長の辻庸介氏(41歳)の悩みは尽きない。

「経営者として、大変なことばかりですよ。最近でこそ、フィンテックという言葉で私たちに注目が集まっていますが、いずれ業界にも必ず衰退期は来ると思うんです。

たとえば、ガラケーのビジネスをやっていた人が、スマホの登場によって事業がうまくいかなくなったりとか、世の中の移り変わりは本当に早い。5年後、10年後には状況は大きく変わるので、僕も危機感を持ちつつ、生存するのに必死です。

漫然としていたら成長が止まるので、どんどんタネをまいておかなければ、と意識しています。

しかも、そういった経営者のビジョンを社員に理解してもらえなかったら、さらに辛い。一度、社内アンケートで『社長の戦略が不明瞭である』と書かれたときは、本当に落ち込みました」

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辻氏は京都大学卒業後、ソニーに入社し、マネックス証券に出向。そこから独立し、マネーフォワードを立ち上げた。辻氏の保有資産は時価総額で100億円を超える。

「そうは言ってもヴァーチャルな資産です。あえて手元に現金を置いていない部分もあります。勘違いしそうで怖いですから。おカネは自分でコントロールできる範囲で持っていないと、事業を何のためにやっているのか、本分を見失います。

IT社長はそれなりにおつきあいは多いですし、つきあったらまずい雰囲気の人が近づいてくることもある。そういう会合に行ったら楽しいのは間違いないけど、僕は意志が弱いので、あえて近づかないようにしています。

僕が飲むのはいつもおじさんばっかり(苦笑)。IT社長って、もっと華やかな世界だと思ったんですがね。

いずれどん底に落ちたら、尊敬する明石家さんまさんの言葉を思い出そうと思います。『生きてるだけで丸儲け』って、名言だと思います。落ち込んでもこの言葉を思い出せたら、なんとかなりそうな気がしますもんね」

 

アイモバイル会長の田中俊彦氏(38歳)は、恐怖心を抱きながら経営にあたっている。

「私の保有資産が100億円を超えたので、投資家の方たちから有効活用するように指摘されることも増えてきました。

でも私は怖いんです。これまで借金をしてこなかったし、極力、会社のキャッシュで仕事を回してきました。だから、自分の資産を投資に回して事業を拡大することに不安がある。『会社を率いるのが、こんな自分でいいのか』と常に自問自答しています」

経営のトップにもなると、相談相手は限られる。たとえ部下に相談しても、彼らは会社の経営に責任を持たない。最終的に決断するのは、経営者の孤独な行為だ。決断次第では、社員が離れていくこともあるだろう。

切羽詰まった時どうするか、という質問に田中氏は、「日記に書く」というIT企業らしからぬ答えを発した。

「18歳のときから、辛いことがあったら日記を書いてきているんです。高専卒業後、カルビーに勤め、その後、光通信系の会社で営業をやりました。

これが本当に辛かった。返事は『オス』『アザッス』だけの超体育会系で、契約を取れないと罵倒される。このときに書いた日記が心の支えになっています。

今どんなに辛いことがあっても、当時の手書きの日記を見れば、そのときのしんどい感情が思い出せて、今のほうがマシだと思える。勇気づけられます」