華倫変のデビュー作、南京錠を紹介(完全ネタバレ注意)
雑誌に掲載されたもので唯一この作品だけが単行本に収録されていない作品
ヤングサンデー94年 増刊号新人王5号に掲載
Young Sunday 8(9) (通号 439)-8(10) (通号 440) 19940500-19940500(増刊共 (9)) 東京:新館書庫 1200600993751
内容が完全なる飼育(1999)に酷似しており、華倫変が自身の先見性ににやつくと語った通り
設定はかなり近いと思うが、テーマ性は大分異なる。
完全なる飼育は女子高生を誘拐監禁こそするが、いきなり犯すのではなく、手錠をはめ自由を奪い、
完全な愛を求める犯人に対して、精神的に少しずつ弱っていく少女が
ストックホルム症候群的な衝動で犯人への感情が変化していく様子が描かれているが
南京錠は、身代金目的の誘拐であり、性的な要素は皆無である。
さらにヒロインの高市由美は、義母との折り合いが悪いらしく、身代金なんて絶対払われるはずはないだろうと思っている。
誘拐犯の男自身も電話で、あまりにも強く拒絶されたので驚いたと語る。
誘拐からまだ二日しか経っていないのに、彼らの関係性は妙に仲むつまじく不思議な空気感を生み出している。
そして彼女は目を瞑り考える。このままこの生活が一生続いたら私はどうなるのか?
手錠をしたままの生活は不便かもしれない。だけど誘拐犯は意外と優しいし、
新しい生活への不安と、僅かな期待から、少しだけ胸がドキドキしたと物語は締めくくられる。
話としてはピンクの液体にかなり近い内容だと思う。華倫変19歳時のデビュー作
絵こそへなちょこだが、終始関西弁で展開される二人の会話劇はいかにも華倫変らしさが感じられる。
またヒロインの高市由美は、漫画家、山田花子の本名であり、他の作品にも名前が使われていることから、
華倫変にとって思い入れが深い人物だったのかもしれない。1992年に自殺したので、その2年後に発表された作品である。
絵はかなり雑だが、やはり華倫変の描く女の子は妙にかわいい
国会図書館で読めるので、ファンの方は是非
国会図書館で複写コピーが出来るが、ページ中央の境目の部分のセリフがうまくコピー出来ず
ところどころセリフが読めないので、出来る限り肉眼で捉えられる部分を文章に書き起こして補完しました。
おそらくほぼ全てのセリフを再現できていると思われます。

作者コメント(友人の石田君はホモです。)
煽り文
ようこそ… ここへ… いらっしゃい……
(自宅のアパートへ帰宅した男 部屋に入ると少女が一人)
おかえりなさい。
煽り文 この二人・・・恋人・・・!?いや、どうも変だぞ!!

ただいま。

留守中何かなかった? うん、何もなかったよ。
ふ~ん 押入れとかなー 掃除しとったらなー。 う~ん。
こんな本とか出てきてなー。(制服美少女と書かれたエロ本)
せっかく見つからないように、隠しとったのにな。
うん、そらまぁ、おっちゃんが…… 隠すんへたやったんやろけど。
でもおっちゃん なんやこれ、制服着た娘とかがたくさん出てきて…
いやらしげなカッコをした娘とかも、たくさん出てくんのやけども……
そない出てけえへんやろ…… 優しめのやつなんだから。
え?いや、そらまあ…そんなん見たことないから。
よぅわからへんけど。
でも、もしおっちゃんがそういった意味あいの趣味を…
持ち合わせてるなら、私が誘拐されたのもそれでかな――とか思った。
ふーん、そうか――。そんな風に思ったか。
まぁそんな風に考えても仕方がない…
こう見えても制服ものは好きだし。
でも学校帰りの君を誘拐したのは、
そんなんが理由やないで。
もっと純粋にお金に困っとったからや。

ふーん。なんや、そうかー。
またおっちゃんがそうやからかと思って…
ちょっとドキドキさせられたわ。
でも趣味的に割合ノーマルだと思うし、
で、どう?外はどんなだった?
どんなって、別に、そんなに…
かわりばえはしてないけど。
そう…… まだ二日しかたってないものね。
でもさすがに二日も同じ服だとリボンの結びも変になるし…
嫌かなーとか思うけど。
おっちゃんあれ…… 買ってきてくれたか?
えっ?あっ、うん……ああ……
あ…買ってきたで……………
どんな風なものがいいかとか…
そんなこと、さっぱり解らなかったけど……
こんなんで……ええのんやろか。
うん、多分これで…合うと思うけど。
おっちゃん、これ買ってくんの…
恥ずかしかったか?
うん恥ずかしかったで。
こんなことしたの初めてやったから。
それに薬局の店員が…
女の人だったから、よけい恥ずかしかった。
ごめんなー。これだけは所かまわずやさかい。
えっ。あっ。そっ、そうなの?
それじゃちょっとトイレ借りるな。
あっうっ うんうん……
それでなー。う~~~ん?
教えてもらった電話番号で、また電話したんだけども。
”身代金よこせー”…って?
うん、まぁ、そんなに露骨に、言ったりはせぇへんやろうけど
現金受け渡しの方法とか、日時とかちゃんと計画してるの?
うん、そらまあ一応は考えてるけど、でも何よりも、
教えてもらった電話番号では全然つながらん
ほんま――。う~~ん。
ごめんな――。
なんか腹すいてたらと思って、パン買ってきたけど……
嫌いなんか?割合おいしいと思うんやけども。
いや、そういうことはないんやけど。近頃パンばっかり食べてたから……
別にパンが嫌だとかじゃなかったんだけど……
ちょっとおなかが重くなって…
そうかそうやなー。
近くにパン屋しかなかったからちょっとものぐさしてしまったな。
食べさせてもらってる身やから…
あまり、あれこれ言いたくはないんやけど。
うーんまぁ、ええとこの娘には……
ちょっとつらかったかもしれんな。
多分国道の方まで出たら、何かあったと思うけど……
それじゃあちょっと… 留守番しといてな。
何が何やら何を買ったらいいか……
全然わかんないな。
まともに料理…作ったことないからな。
本屋で本でも買って、ちゃんと作らなあかん
あっ!(本屋で鉢合わせる二人)
(アパートに帰り男は少女に手錠をはめる)

別に留守を見計らって、逃げ出そうって思ってたんじゃないけど。
ちょっと読みたい本の……発売日だったから。
………………
いや、まぁ別に気にしてないけど。一応誘拐されたんだし、僕も犯罪者なんだし、
あまり、留守を見計らって逃げ出したりとかしてほしくなかった。(慣れない手つきで料理を作りながら)
………… う~~~~ん。
ちょっと昔なー、ホンコンとかそのあたりの方でなー。
誘拐とか売り飛ばされた女の人ってな。

逃げ出さんようにアキレス腱を切られたりとか、手足を切られて、
ダルマの様にされたとか言うやんか、あれって男性の支配願望のあらわれなんやろか。

…………
大事なところさえあれば、まぁ手足なんてなくてもええわとか思ったんとちがうの?


そろそろ家の電話番号教えてくれへんかな。
このままここでこんなことしてても仕方ないし。
……… ………
おっちゃん、なんでお金いるの?
いろいろや。いろいろ………
おっちゃんはメッキ工場で働いてんのやけど、最近もうからないからな。
そのかわりヤクザがようやって来て、いろんな遊びを教えていくからたくさん金がかかって……
ふ~~~~~ん。
…………………
電話番号教えてくれたら、手錠も
いいよ、このままで。
このままでもそんなに不便じゃないし。
不便な所があれば、おっちゃんに手伝ってもらうわ。
でも………… (食事の中に睡眠薬らしき物を隠し入れ、彼女へ差し出す)
何?食べるの?

出来るなら食べてほしいんやけど。せっかく作ったんだし。
変な味――。
(やがて眠る彼女のスカートのポケットの中から学生証を抜き取る)
学生証(2年B組 高市由美 成年月日 昭和51年5月28日)

学生証の情報から由美の自宅に電話をかける男
………はい……(不機嫌そうな顔で電話に出る由美の母親)

男(え?………………)
実際に由美の家まで足を運ぶ男、ボロボロの長屋
アパートへ帰宅
私の家行ってきたの?
うん……ああ……
身代金なんて絶対に払えないって言ってたよ。
あまり強く言うから少し驚いたけど……

そう。義母(あのひと)のことだから……
そんなことを言うんじゃないかとは思ってた。
それ以外にも口に出せない様なことを、あの人なら言っていたと思う。
家なんかもあんまり自慢できないし、何より義母が……
社会的に恥ずかしいことを言う人だから、私はあまり知られたくなかった。
(窓から夕焼けを見つめる二人)
私、これからどうなるの?
さあ?まぁ誘拐なんだし…
身代金をもらわない限り、家に帰すわけにはいかないんだけど。
ふ―――ん。
多分義母のことなので身代金なんて
一生涯待ったとしても、払われないだろうと思った。

とすると私は一生涯、ここで過ごすことになるのだろうか?

一生ここで過ごすのってどういうことなんだろう。
もちろんあの家には戻りたくないけれども、
ここで暮らすとするとメッキの仕事を手伝ったりとか、家の家事をしたりとか、
手錠をつけたままでいろいろするのはむつかしいけど、
きっとこの手錠もすぐはずされるだろうし、
買い物に行くのにスーパーが遠いとつらいな、でも自転車があればそうでもないか、とか
そんなことが連鎖的に浮かんできて、
そう考えると、少しだけドキドキした。

■ちょっっぴり不思議な感動…!!華倫変の次回作に注目しようぜ!!
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