原監督は教え子たちの手で4連覇にちなんで4度宙を舞った(代表撮影)

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 第94回箱根駅伝は往路2位の青学大が3日の復路で東洋大を逆転し、史上6校目の4年連続総合優勝を果たした。10月の出雲駅伝、11月の全日本大学駅伝と合わせて“3冠”に輝いた昨季とは違い、今季は出雲で2位、全日本は3位に沈んだ。今大会前は東海大、神奈川大と“3強”による接戦との予想がもっぱらだったが、ふたを開けてみれば2位・東洋大に4分53秒差をつける完勝。原晋監督(50)には絶対的な自信と、勝ち続けられる根拠があった。

 “3強”の下馬評はなんだったのか。出雲を制した東海大が5位、全日本優勝の神奈川大に至っては13位に沈みシード権さえ確保できなかったのを横目に、揺るがぬ強さを発揮した。

 全6区間で1区間の距離が最短5・8-最長10・2キロに過ぎない出雲、8区間で9・5-19・7キロの全日本と、10区間20・8-23・1キロで高低差も激しい箱根とでは、必要とされる体力、選手層も、注目度もケタ違い。結局総合力に大差があったのだ。

 原監督は「勝ったら、どうしても監督の自慢話になってしまう。決して他大学の監督を批判しているわけではない」と前置きした上で、強さの秘密をあっさり明かした。

 「一番(の秘訣)はですね、やっぱり寮で夫婦が学生たちと共同生活しているチームって、青山学院だけなんですよ。派手なことをやっているわけではない。あの狭い部屋で、夫婦そろって学生たちの面倒をみさせていただいている夫婦は、私と家内だけ。そこで生活面を整え、陸上のデータを管理した上で、常に新しいものを求めることがトータルとして青学のカラーになっている」

 現役引退後、中国電力のエリート営業マンとなり空調システムを企業向けに売り歩いた。2004年4月、青学大陸上部監督就任と同時に、夫婦で東京都町田市の寮に住み込み、妻の美穂さん(50)が寮母として食事、家事から学生の相談まで請け負っていることはいまや有名。

 そんな夫婦ぐるみのきめ細かいサポート、観察があるからこそ、出雲、全日本、箱根を通じて3大駅伝初出場の林奎介(3年)が7区に抜擢され、いきなり区間記録を16秒も更新するサプライズも可能になる。

 今大会では青学が各選手の練習メニューをこなす能力を集計するなど、データ化を進めたことも特筆された。しかし、原監督は「通信教育のごとく現場も見ず、寮生活で何をしているかわからない中で、出てきたデータだけを見ていたら、采配はできないですよ。僕はこれを企業の人事担当者や管理職にも言いたい。効率化を求めて、メールで送られてきた営業日報だけを見て、出世させたり方向性を決めたりするのは大きな間違いだ。フェース・トゥ・フェースでアナログなこと、ムダなことこそ大切にすべきです」とまくしたてるように訴えた。

 参謀役の安藤弘毅コーチは、原監督の独創性と向上心を指摘する。

 「原監督は多分、ラグビーの監督をやれといわれても日本一にしてみせますよ。そのスポーツで何が大事か、何が足りないかを見抜く力がある。青学大の駅伝においてのそれは、体幹トレーニングでした。当初、他大学はどこもやっていなかった。原監督は自分の知らないことはその道のプロから教えてもらう、そのかわり自分も勉強するというやり方。ところが、駅伝に限らず、どの監督さんもたいがい、自分の知らないことは導入したがらない。そこが違う」

 一方、他大学からは「青学大とわれわれとでは使えるお金が違う」とのボヤキも漏れてくる。

 箱根駅伝で勝つためには年間5000万円以上の運営費が必要といわれる。これを捻出するのにどの大学も苦戦しているが、青学大は13年11月からアディダスジャパン社とスポンサー契約してから一気に潤った。年間数千万円といわれる契約金、シューズなどの用具提供、専門トレーナーによるトレーニング指導も大きなアシストになっている。

 もうひとつ、各大学が毎年頭を痛めているのは有力ランナーの争奪戦。「箱根駅伝に出場しなければ全国レベルのランナーはまず入学してもらえない」(出場大学関係者)。そして「“青田買い”は今や中学生の大会までに反映している」。

 青学大関係者は「はっきり言って、陸上部など体育会には、学力だけでは青学に入れなかった学生も多い。当初は駅伝には勝てなくても“推薦で青学に入れるのならいいや”という感じで入ってくる子も多かった」と明かす。

 資金力と推薦制度に裏打ちされた選手層の厚さが青学大の強み。神奈川大のエース鈴木健吾(4年)は「青学は層が厚い。正直言って最初から『総合優勝は難しい』と思っていました」と明かした。

 “山下り”の6区で区間賞を獲得した小野田勇次(3年)らが残る来年以降も、青学大の強さは揺らぎそうもない。5連覇はもちろん、史上最長の6連覇(中大=1959-64年)も十分現実味を帯びている。