『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話』より
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「エホバの証人の活動のなかで、最もつらかったこと」元信者が告白

私がこの漫画を描いた理由【後編】

漫画家・いしいさやさんの著作『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話』が話題だ。エホバの証人の母のもとで育った彼女の、壮絶な体験談が反響を呼んでいる。前回記事では、エホバの証人の全容を紹介した。今回は、信者時代の生活を中心に話を聞いた――

(前編はこちらから http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54011

取材・文/伊藤達也

同級生の家に勧誘しに行く

「信者の人が宗教勧誘で自宅に訪問に来る」って、みなさんも覚えがあるかと思うんです。でも、私は「来る」んじゃなくて、「行く」側の人間でした。

それも、自分で「宗教を広めたい」と思っているわけじゃなくて、母親に連れられていくだけでしたから、本当に憂鬱でした。イヤでイヤで仕方がなかった。子どもでしたから、本当は休みの日は絵を描いたり、友達と遊んだりしたかったです。

訪問して話を聞いてくれる人なんて、優しいおばあさんくらいで、ほとんどいません。「お前らは間違っている!」なんて言ってくる挑戦的な人もいるんですけれど、信者の側からすると、「真理がわからないかわいそうな人」なので、何度断られても繰り返し訪問する。嫌がらせとかじゃなくて、親切心なんです。

 

拒絶されることがほとんどだったのですが、なかには、小さい私がパンフレットを差し出せば、それだけは受け取ってくれる人もいる。だから連れて行かれている面もあったと思います。

どうすればパンフレットを受け取ってもらえるかとか、声のかけ方とか、訪問の練習をたくさんしました。嫌なんですけど、やると大人が褒めてくれるから、子供としては悪い気はしないんです。

漫画にも描きましたけれど、同級生の家に訪問した時は辛かった。ピンポンしたら同級生がいる……あれはキツいです。

信者ではない父が母にお願いして、同級生のいる地域は避けていたんですけれど、ある日「時間が余ったのでここも回りましょう」と訪問することになってしまって……。

チャイムを押して、扉が開くと、そこに同級生がいる。なにか言われるわけじゃないんです。ただ、親御さんの後ろのほうから、「なんだこいつ」という顔で見られる。

学校で何か言われたらイヤだなぁってずっと思っていて、自然と静かになりました。二世信者だからって、学校で、いじめられるわけじゃないんですよ。そもそも低学年の頃は普通じゃなくてもよくわからない。友達もいました。

けれど、自分で自分が「普通でない」と気づいてからは、友達から質問されるのが怖くて、自分から距離を取るようになりました。

いじめられてはいなかったです。クラスメートは「何かおかしいな」と思うと、いじめるんじゃなくて、距離を取るんですよね。まさに腫れ物に触る感じです。たまに仲良くなる子もいましたが、その子も別の宗教の二世で、同じような境遇でした。

競争が禁止されているので、運動会では、騎馬戦や応援合戦に参加できません。偶像崇拝や誕生を祝うことが禁止されているので、行事も休むことがある。信者の子供のなかには、「なんでやらないんだよ」といじめられる人もいたみたいです。

私は誰にも、何にも聞かれないように、一人でいるようになりました。声をかけてくれる優しい子もいましたが、自分で壁を作っていた。図書室にいりびたっていましたね。