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30 社会人
言い返す言葉は沢山あった。
「あー坊はあの暴力を良しと考えてるわけじゃな」この言葉をを皮切りにあー坊を追い詰め、口を開けなくすることはできる。
だが、それは正義に酔った自己満足だ。
あー坊は正義ではないかもしれない。
でも、あー坊は正しい。
「……悪かった」
「わしの考えが、足りんかったの」
つまりは彼らは子供でも『社会人』と同じなのだ
どんなに上司が理不尽であったとしても仕事を失わないように文句をいわずに堪える社会人と。
確かに外野がとやかく口出しすることではない。
わしが折れたことで、あー坊は心底ホッとした顔をした。
「分かってくれたならいいんだ」
正義に酔ったわしの口から何が言い返されるか全部分かっていたのだろう。
そのまま、わしの手を引き買い物を再開するため歩きだす。
引かれる手を見ながら歩を進める。
わしは、あの時
理不尽な大人の一方的な暴力を、大人が止めてやらないとと思ったのだ。
彼はまだ力のない子供なのだから。
正義面してたように見えたかの
「……そんなつもりじゃ、なかったんじゃ」
ポツリと言い訳のようにつぶやく。
「わかってるよ!」
前を歩くあー坊の耳に届いたらしく、背中を向けたままぶっきらぼうな返事があった。
手を握る力が強まった
「……泣くなよ」
あー坊がちらりと振り返り困った顔をした
俯いて歩く姿が泣いているように見えたらしい。
別に泣いちゃおらんよ。
ただ、モヤモヤは残る
子供は宝なのだ。
子供が笑うだけで、幸せになれるというのに。
子供は単純で素直だから
ひねくれた大人を笑わせるより、子供を笑わせた方が楽なのだぞ
こんな手短に幸せを感じれる方法は他にはないぞ?
その子供を蹴ってどうするのじゃ。
虐げてどうするのじゃ。
今はまだ大人には敵わないかもしれないが、その小さな体には可能性が沢山詰まっておるのじゃぞ。
大人がつぶすような真似してどうするのじゃ。
「ここの、リンゴジュース美味しいって評判なんだぜ」
唐突にあー坊が明るい声を出した。
指を指す先になにやら列をなしている屋台がある
普段言わないような話の振り方に、あー坊が落ち込んでる自分を元気づけようとしてくれているのが分かる
「飲んでみようかの」
二人分のお金を取り出してあー坊に渡す
「そうこなくっちゃ」
買って来るから適当に席とって待ってろと言われ、椅子に座りため息を一つ吐き出す。
子供に気を使わせてしまった。
はやく元気をださんとな。
だがモヤモヤをどうにか払おうとすればするほど、モヤモヤが積もっていく。
ため息をまた一つ。
すると隣に座った男が、わしと同じように深いため息をついた。
「どうしたんじゃ?」
わしは顔を上げ男に声をかけた。
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