月9ドラマ『コード・ブルー』監修病院の医師が語る、フライトドクターとしての使命感

写真:WakuBaマガジン

山下智久主演の人気ドラマ『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』(フジテレビ系)シリーズ。現在、第3シーズンが月9枠で放送中だが、翔陽大学附属北部病院 翔北救命救急センターに所属する、藍沢耕作(山下)や白石恵(新垣結衣)らのフライトドクターたちや、彼らの背中から“医療とは何と向き合うべきか”を学ぶフライトドクター候補生・フェローたちの活躍が描かれた作品である。

本作の医療監修を務めるのが、千葉県印西市にある日本医科大学千葉北総病院だ。作中でドクターヘリが到着する場面などで、撮影場所としても使われている。今回は、作品の舞台ともなっている同院で救急救命センターに所属し、フライトドクターとして活動する八木貴典さんに、救急医療の実態を伺った。

八木貴典プロフィール
日本医科大学千葉北総病院救急救命センター・医局長。5年間にわたる小児科医の経験後、成人医療への強い関心から救急医に。2006年からフライトドクターとなり、今年で11年目を迎える。

ドラマは刻一刻と変化するさまがリアルに反映されている

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――日本医科大学千葉北総病院は『コード・ブルー』の医療監修を手がけてらっしゃいます。作品との実際の関わりや、撮影スタッフの印象はいかがでしょうか?

八木:実際に監修へ協力しているのは他のスタッフですが、シナリオの土台作りから当院のスタッフが関わっています。医師の立場からみてもリアリティを感じられますが、ドラマ内でそれを表現しようとする、撮影スタッフのみなさんの熱意も感じられるという話を当院のスタッフから聞きます。

――あらためてフライトドクターの仕事内容についてお聞かせください。

八木:出動要請を受けてからドクターヘリで患者さんの元へ駆け付けます。役割は大きく分けて2つあり、一つは、患者さんのそばに医師がいち早く向かうことで、治療までの時間を短縮することです。

そして、もう一つは“トリアージ”と呼ばれるもので、患者さんの症状からそれぞれの重症度をみきわめて、適切な病院へ搬送するというものですね。ただ、当院の場合、通常はおおむね病院から約50km圏内のエリアを受け持っているのですが、大きな災害などがあった場合には、他の都道府県や市町村へ派遣される場合もあります。

――ドラマでも、出動要請を受けてから、緊迫した空気の中で慌ただしく現場へ向かうフライトドクターたちの姿が描かれています。実際に救急医療の現場へ立つ一人として、作中でリアリティを感じられるのはどういった部分でしょうか?

八木: 現場の状況が刻一刻と変化していくさまは、とりわけリアルに描かれている部分ではないかと思います。例えば、患者さんの容態にしても一定ということはなく、処置している間に新たな症状や原因が見つかり、搬送先の病院を変更するなどの対応を実際に求められる場合があります。

――今回の第3シーズン1話目でも、祭りの山車が民家に激突した事故では現場の負傷者数がふくれ上がっていたり、3話目では、ドクターヘリ内で容態が急変した患者の開胸に挑む場面などありましたが、現実に迫る内容となっているんですね。

八木:そうですね。臨機応変な対応を求められる場面が描かれているのは、一人の医師としてもリアリティを感じられるし、作品の魅力にも繋がっていると思います。

 

ドラマのフェロー(候補生)たちが現場でおどおどしている理由

ドクターヘリの内部にはストレッチャーや様々な機器が並んでいる。 写真:WakuBaマガジン

――現場に立つ一人として、ドラマの影響を感じられる部分はありますか?

八木:当院にもじつは、過去の『コード・ブルー』を観て実際のフライトドクターになった人間がいます。医師は誰もが常に“仲間を求めている”のですが、作品を通して若い人たちが救急医療の世界を志してくれるというのはやはりうれしいですね。

――作中では、フェロー(候補生)の3人をどう教育すべきかと藍沢や白石たちが頭を悩ませる場面もありますが、実際にフライトドクターになるにはどのような道筋があるのでしょうか?

八木:これは医師になるための流れでもあるのですが、一般的にはまず、6年間にわたる大学の医学部医学科での過程を経て医師国家試験に合格する必要があります。

その後、所属する大学病院でさまざまな診療科を経験する初期研修を2年間、自分で従事したい病院や診療科を決めて将来に向けた3年間に及ぶ後期研修を経たのち、ようやく一人の医師として独り立ちすることになるんですね。そういった流れがある中、真に医師が完成するのは大学を卒業してから“10年かかる”といわれています。

――医師としての完成が“10年かかる”となると、例えば、第3シーズンの藍沢先生はどの位置にいることになるのでしょうか?

八木:今回の第1話では、脳外科からふたたび救命救急センターへ戻ってくる過程が描かれていますね。彼は今、ちょうど“完成”に向けて実績や経験をより積もうと励んでいる段階ではないでしょうか。

医師の中には、後期研修時から特定の診療科で自分の知識や経験を積み重ねていく者もいれば、実際に担当したい診療科以外で経験を積み“サブスペシャリティ”と呼ばれる別の得意分野を持とうとする者もいます。ドラマでいえば、藍沢先生はまさにその後者に当てはまっています。

――作中では経験の少ないフェローたちが、慌ただしい現場で藍沢や白石に判断をあおいだり、おどおどした振る舞いに“イライラする”といった声もSNS上に挙がっているのですが、彼らは先ほどの流れだとどういった過程にいるのですか?

八木:ドラマのフェローたちは、後期研修として救急医療を実践的に学んでいる立場ですね。医師としての独り立ちを目指し、実際の現場で経験を積んでいる段階です。医療というのは命がかかっている以上、失敗の許されない場所でもあります。ただ、藍沢先生たちから何かを吸収しようと奮闘する姿を、個人的には見守ってあげてほしいと思います。

フライトドクターに必要な素養とは何か?

写真:WakuBaマガジン

――フライトドクターとして11年目を迎える八木さんですが、救急医療という仕事にやりがいや達成感を感じられるのはどういった部分でしょうか?

八木:患者さんの親族の方から、個人宛ではないですが「救命救急センター様」といった形で手紙をいただいたりするときはやはりうれしいです。ただ、救急医は患者さんを主治医としてずっと診るわけではなく、あくまでも今にも容態が変化しうる人たちを救う仕事なんですね。だから、達成感や仕事の区切りを感じることはあまりないかもしれません。

――最後に、八木さんの抱く救急医に必要な素養などをお聞かせください。

八木:医師として必須の医療技術や知識はもちろんですが、何かしらの専門性を持ちながらも、患者さんが今置かれている状況を、客観的かつ総合的に迅速に評価して治療できる能力が必要かと思います。そのためには、フラットな視点で物事をみきわめる目が大切です。

例えば、救命救急センターに搬送される患者さんの中には、頭部や腹部、足部などいっぺんに複数の箇所に傷を負う方々もいます。そういった状況では、一つの分野に特化したスペシャリストよりも、幅広い経験や知識を現場から吸収しようとする人が求められます。

また、出動要請をかける消防指令本部や、搬送されたあとには病院の各診療科との連携も必要となるため、柔軟にコミュニケーションができるのも救急医にとっては必要な能力だと思います。

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今回のインタビュー中も、会話中に何度も出動要請が室内に鳴り響いていた。命を繫ぎ止めるという医療の世界において、いち早く患者の元へ向かうというドクターヘリの現場は緊迫感に包まれていた。リアリティ溢れる『コード・ブルー』からもその実情を感じ取れるが、八木さんの「仲間を求めている」という意思がまた、作品を通して未来のフライトドクターたちに届けばと願いたい。

取材・文・撮影:カネコシュウヘイ

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