YouTubeの配信をめぐり、Googleと熾烈な戦いを繰り広げているAmazonだが、2018年はデジタル広告事業の拡大を狙っているようだ。特に広告検索・動画分野の強化を計画しており、スタートアップの提携などを通し積極的な動きが見られる。

2018年、2370億ドルに成長すると予想されている広告市場において、「膨大な顧客データ」という最強の武器をにぎるAmazonは、GoogleやFacebookにとって脅威的なライバルとなり得るだろう。

Eコマース向けの検索、広告事業強化に向け、スタートアップとも提携

Amazon,Google,Facebook
(画像=Thinkstock/Getty Images)

CNBCが事情に詳しい広告およびテクノロジー関連の関係者に取材 を行ったところ、Amazonは2018年の本始動に向け、水面下で数々のプロジェクトを実験的に進めていることなどが明らかになっている。中でもEコマース向けの検索・動画商品に力を入れているほか、広告市場での勢力拡大も予定しているという。

第2四半期の決算報告ではブライアン・オルスヴァキーCFO自ら、特にニューヨーク周辺で広告部門用の人材を物色中であることを明らかにしていたほか、現在はニューヨークのモバイル広告スタートアップ、カーゴ(Kargo) と提携し、自社サイトの枠組みを超えた広告セールスを準備中だ。

Amazonはすでに、検索結果と関連性をもったスポンサー商品を表示する広告サービスを提供している。この既存サービスを進化させ、商品を関連性が高い顧客に推奨することでセールスチャンスの拡大を意図している。ほかに動画を組み込んだ広告サービスなども検討している。

2018年、デジタル広告市場は2370億ドルに成長?

2017年、2090億ドル市場に成長を遂げたデジタル広告市場は、2018年さらに2370億ドルへ拡大すると予想されている。(調査企業マグナリサーチ)。こうした動きを予想するかのように、2017年に入ってからAmazonの広告事業加速が目立ち始めた。

Amazonは広告収益額を公表していないが、デジタル市場調査会社eマーケターは 今年の広告収益を16.5億ドル(前年から5.3億ドル増)と予想。Google(350億ドル)、Facebook(173.7億ドル)、MicrosoftとOath(各36億ドル)に続く、「国内で5番目に広告収益の高い企業」と推測している。

つまり現状はGoogleとFacebookが広告市場の大部分(70%以上)を占めているのに対し、Amazonはわずか2%ということになるものの、GoogleやFacebook以外の新たな広告先に興味を示している点がAmazonにとっての強みとなりそうだ。

例えば低コストやより多くの顧客データ共有を前面に押しだし、GoogleやFacebookの広告顧客にアピールすることも可能だろう。

検索エンジン分野でもGoogleが絶大な支持率を維持しているが、広告代理店ヒュージ(Huge)のアーロン・シャピロCEOも指摘している通り、「広告収益で最も重要なのはコンバージョンやセールス、あるいは消費者に影響をあたえる自社コンテンツ」 である。Amazonはこうした必要条件を十分に満たしているといえる。

商品に見合った動画広告コンテンツ制作も検討中

またカスタムメイドの動画広告も検討している。これは広告商品やブランドに見合った独自の広告コンテンツを制作するというもので、現時点ではセレブレティが商品について紹介するといったアイデアも生まれているようだ。

デジタル広告を通してAmazonプライムの動画サービスを最大限に活用する」というコンセプトの元、ニューヨークを拠点とするハバナ・メディア・グループと構想を練っていることも確認されている。

Amazonはほかにも、「トランスパレント・アド・マーケットプレイス (Transparent Ad Marketplace)」を通し、クラウドベースのヘッダー・ビディング・ソリューションも提供している。ヘッダー・ビディングとは簡単に説明すると、広告リクエストの中から入札額の高い広告を配信する「競り」のことだ。Googleなどでもおなじみの広告システムである。

効果的な広告配信を実現するうえで、最も重要なデータをにぎるAmazon

こうした動きが本格化すればするほど、長年FacebookとGoogleが支配してきたデジタル広告市場に変化をもたらすと予想される。

前述したようにAmazonはすでに検索・広告分野で成功する実力を備えているだけではなく、小売業者として膨大な顧客データを所有している。このデータには消費動向やクレジットカード情報など、効果的な広告配信に重要な情報が含まれているという点で、FacebookやGoogleよりも優位に立っているといえなくもない。

メディアエージェンシー、マインドシェア(Mindshare)のシニアパートナー、ダイアナ・ゴードン氏曰く、米国のAmazon顧客の56%が、購入に至るまでの第1ステップを商品検索から始めるという。消費者が実際にどのような商品を購入しているのか―というデータをにぎっているのは、GoogleやFacebookではなくAmazonだ。

YouTube配信をめぐるAmazon、Googleの激戦 有利なのはどちら?

AmazonはYouTubeの利用をめぐり、2017年後半からGoogleと激戦を繰り広げている。Googleが「Echo Show」向けのAmazonアプリが利用規約に違反しているとして、「Echo Show」でのYouTubeの配信を停止したことが発端だ。Amazonは即座に、Google傘下のスマートホーム・スタートアップ、ネストラボ(NestLab) の一部製品販売停止で応戦した。

そこでGoogleはAmazonの「Fire TV」および「Echo Show」から、完全にYouTubeを撤退させるという非常手段にでた。実際にはGoogleが「Fire TV」への配信を停止する数日前に、Amazon自らYouTubeを締めだすことで、挑戦状を叩き返したという裏話付きだ(ニューヨークポスト紙より )。 この激戦の行方は今のところ不明だが、Amazonにとっては大した痛手にならないのではないか―との見方が強いようだ。ひと昔前であればGoogleの検索ランキングへの影響に冷や冷やしていただろうが、AmazonはすでにGoogleに引けをとらないほど勢力を拡大している。検索・広告市場への本格参入が加速すればなおさら、Amazonが優位に立つ可能性は高い。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)