「笑ってはいけない」浜田の黒塗りメイクが日本で許容されている理由について

www.huffingtonpost.jp

この記事のことなんですけど。

なぜここまでブックマークコメントで反発されているのか、と考えた場合、日本人は差別表現の歴史的経緯を無視する傾向があるからじゃないでしょうか?

 

例えば、アニメや漫画には現実では見聞きしたことのない訛りの外国人が登場します。これが中国人だと語尾は「~アルヨ」とか、「~ヨ」が定番ですよね?

さすがにステレオタイプすぎる表現のためか最近では見かけることが減りましたが、今でもスポーツ新聞では見かけます。*1

僕の記憶だと、サッカー日本代表の元監督である岡田さんが中国のサッカークラブの監督に就任したとき、現地での評価を聞く流れの中で現地人のインタビューコメントの語尾が全部「~ヨ」だったと思います。*2

スポーツ新聞は思想的な右左関係なく大手新聞社と資本関係があることが多いですから、そんなスポーツ新聞で認められている表現ということは、これはもう文化的、社会的に許容されている表現だと言っていいと思います。

そして、この日本に住んでいる中国人や、日本語を話そうとしている中国人が実際には話さない、いうなれば「~アルヨ」言葉は歴史的な起源を遡ると、当時の日中関係が影響していたことがわかります。

大阪大学の教授で、「~アルヨ」言葉についてまとめた著書もある金水 敏さんは、中国網のインタビューで答えています。

漫画で中国人キャラが慣例的に用いるようになったのは、『のらくろ』の影響があるという。

この漫画は盧溝橋事件の翌年に創作された。作者は「豚軍」を中国に、「猛犬連隊」を日本にたとえ、さらに「アルよ」をつけることで豚軍を醜くした。その後別のマンガ家も、この奇妙な日本語を使うことで、中国人キャラであることを強調するようになった。

中略

そのため金教授は、「アルよ語」の特殊性を鑑み、その歴史的な理由が現在の日本社会の「常識」になるべきだと考えている。日本人は常識を踏まえた上で、これを慎重に用いるべきだというのだ。

「笑ってはいけない」のブックマークコメントには、日本には黒塗りの歴史的経緯がないから差別表現には当たらないんだ、という旨の主張がありましたが、「~アルヨ」言葉の場合は歴史的経緯があるわけです。それでもスポーツ新聞などは使い続けているわけですから、冒頭にも書いたように、そもそも日本人は差別表現になった歴史的経緯を無視する傾向があり、それこそが黒塗り表現が許容されている理由なんだと思います。

エディ・マーフィの物真似をしたらダメなの? 」と頓珍漢なブックマークコメントが書き込まれるのは、このせいでしょう。「ミンストレル・ショーがあったから、黒塗りはダメなの」という歴史的経緯が無視されているわけです。

悪役の肌を黒人でもないのに黒くくすませて黒い肌=悪という差別表現の構図を生み出したり、つり目のアジア人しか出さなかったディズニーが、黒人が主役の作品を制作したり、ベイマックスで他のキャラクターと同じつぶらな瞳のアジア人を出してる時代です。日本でも、もう少しステレオタイプな表現について議論に割く時間があってもいいのではないでしょうか? ある表現がもし差別表現だと指摘された時、その歴史的経緯や認識について是非を下すだけの知識がないというなら、まずはそこから議論を始めてもいいと思います。「~アルヨ」言葉しかり、黒塗りしかり。残念ながら東京五輪には間に合わないでしょうが……。

 

それと、もう一つだけいいたいことがあります。

たとえ鎖国したところで、日本に黒人も暮らしている事実は変わりません。それはハーフかもしれないし、クオーターかもしれない。日本国籍を有しているのかもしれないし、ないかもしれない。あるいは、二重国籍かもしれない。外国には国籍を放棄できない国もありますから、日本で生まれ育って日本国籍を選択したけど、事実上の二重国籍なのかもしれない。現実にそういう人がいるわけです。

かつて日本経済がバブル絶頂だった頃、日本が成功した理由について単一民族社会だからだと語った中曽根という政治家がいましたが、白人も黒人も日本以外のアジア人も、はては在日のような政治的な立場に置かれた人間まで暮らしている国を単一民族社会と言い切るのは難しいと思います。

極論を語ることで論点を明確にしようとしているのかもしれませんが、単一民族社会を前提とした物言いでは、議論の輪から無意識に排除されて傷つく人が増えるだけだと思います。

 

 今日のまとめ

  • 特定の表現がなぜ差別表現になったのか、その歴史的経緯を日本人は無視する傾向にあるのではないか?
  • たとえば、日本のアニメや漫画に登場する中国人が話している~アルヨ、~ヨには歴史的な理由がある。
  • だがしかし、アニメや漫画で見かけにくくなった現在でもスポーツ新聞は普通に使っていて、社会的に許容されている。
  • 日本には日本人しか住んでいない前提で、外国で放送しなければいい、鎖国しろと主張する人がいるけど、日本に住んでいる黒人だっていることを忘れちゃいけないよ。

納得のいかないブックマークコメントがついていたので、一部加筆しました。

*1:例えば、この間まで放送されていたTVアニメ「アニメガタリズ」にはコミケに参戦する中国人が登場するが、~アルヨという語尾では喋らない。

*2:日本語が話せる現地人へのインタビューだったのか、中国語のインタビューを訳したのかはわかりませんが、後者ならなおのこと酷い話です。

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  • id:mmm143

    歴史的経緯が有るからダメなのなら、ドイツのハーケンクロイツは卍と源流が同じなので、卍も批判されるのでは?

    これは思考実験だけど
    「白人と黒人の立場が逆で、白人が差別されていた世界」だったとしたら。「日本のおしろい文化」はどのように解釈されてしまうの? 白人が肌の色で差別されていた経緯があるので、やはり日本のおしろい文化もタブーになるのですか?

    また、「黒人が肌の色で差別されたという歴史がない」世界で、今回のように黒塗りをして黒人のモノマネをやったとしたら。
    歴史的経緯がないので、それは差別ではないのでしょうか?

  • id:hatebureport

    >>id:mmm143
    1僕は人種差別についての問題は議論の余地がないと考えています。つまり、人種差別を肯定することは間違っているということです。
    2人種差別に関しては、歴史的経緯の有無は関係ありません。
    3今回問題になっている黒塗りは、ある国では歴史的経緯から人種差別表現なんだけど、別の国では人種差別表現ではないと思われている問題だと認識しています。

    ハフポストの記事についたはてなブックマークコメントでは、日本において人種差別表現としての歴史的経緯がないから人種差別ではないんだ、という主張が書き込まれていました。
    記事中以下のように指摘されていたのに、です。

    『《ブラックフェイスが、なぜ悪いかって?
    それは、これが、多くの日本人が海外の歴史を知らないだけでなく、自分自身の歴史も知らないことを示しているからです。
    多くの日本人は、日本人が顔を黒く塗ったとしても、日本にはアメリカの人種差別の文脈や歴史がないので、問題ない、害がないのだと言うでしょう。
    しかし、実はアメリカの歴史とは別に、日本でもブラックフェイスの歴史はありました》
    遡れば1854年、来航したペリー提督が当時アメリカで流行していた「ミンストレル・ショー」を幕府の役人に披露している。
    《それ以来、現在に至るまで、エノケン(榎本健一・日本の喜劇王)ら、多くの日本人コメディアンやミュージシャンがブラックフェイスをしてきました。シャネルズ(※1980年代に活躍)やゴスペラッツ(※2005年〜06年、2015年夏に再始動)のずっとずっと前からのことです。だから、知らなかったという言い訳、日本にはブラックフェイスの歴史がないという言い訳は通用しない。ダメなのです》』

    そこで僕は、黒塗りが許容されている理由について「日本人は差別表現の歴史的経緯を無視する傾向があるからじゃないでしょうか?」と問題提起し、実例としてアニメや漫画に登場する中国人の「~アルヨ」言葉を挙げたうえで、日本には日本人しか住んでいないという認識の人に対しては、実際は黒人や黒人にルーツを持つ人達も住んでいるんだから、当事者をないがしろにして議論を進めてはいけないよね?と書いています。

    ですから、あなたの思考実験に付き合った場合、「白人と黒人の立場が逆で、白人が差別されていた世界」でのおしろい文化も、人種差別表現になった歴史的経緯があるなら当然問題になるだろうし、「黒人が肌の色で差別されたという歴史がない世界」で黒塗りをして黒人のモノマネをやったとして、それが人種差別を目的としたものなら当然差別だし、非難されるでしょう。

    ハーケンクロイツと卍は人種差別とはまた別の問題なので、なんとも言えません。

  • ミウラス荒川 (id:miur-us)

    BBCでも報道されたようですね。
    TwitterでのBBCへのコメントを見ると様々な意見があるようです。

    この記事でおっしゃられていることはよくわかるのですが、
    黒人がかっこいい!黒人みたいになりたい!
    という気持ちから
    『黒人のような外見』になりたいのなら、肌を焼くか、黒く塗るしかなくないですかね。
    ガングロ・ギャルも差別的ですか?

    ちなみに自分は白人が目を引っ張って細くする仕草は、あぁアジア人みたく賢くなりたいんだなぁとしか思いません。


    今回のコスプレを快く思わない人がいるというのは分かりますが、
    "黒塗りが許容されている理由について「日本人は差別表現の歴史的経緯を無視する傾向があるからじゃないでしょうか?"

    と言うのはさすがに論理が飛躍しすぎではないでしょうか?

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