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「インターネットおじさん」を笑うな。〜”インターネットによる分断”という幻想〜

  • 文・りょかち
  • 2018年1月4日

  

 はじめまして、りょかちです。

 普段はIT企業で新卒2年目のWEBプランナーをやっている一方で、SNSカルチャーについてメディアで連載をしたり、書籍を出したりしている25歳です。この連載では、25歳の私が考える「今日からはじめたくなるインターネットの面白さ」について書いていきたいと思っています。

 2017年の流行語大賞は「インスタ映え」。この言葉からも読み解けるように、2017年もたくさんの世の中のムーブメントがインターネットから発信されました。

 また、10月には「広辞苑」に「アプリ」「自撮り」などの言葉が現代語として追加されることが発表され、記憶に残っている方もいらっしゃると思います。

 インターネットの流れは速く、若い子たちから次々と生み出されるムーブメント。それとあいまってか、新聞やネットニュースなどで「若者の驚きのSNS利用事情!」といったような内容の記事をよく見かけました。タイトルでいえば、「インスタ映えのためにだけアイスを買ってすぐに捨てる若者!」「SNOWで加工しまくる詐欺美女の是非」など。

 それらの記事の中では度々、「若者の言動は信じられない」「若者の行動は今や大人たちからは理解し難いものだ」というような風潮がよく書かれていたりします。まるで、若い子たちが宇宙人のように見えるがごとく。

新たに出てきた「インターネットおじさん」批判

 そんな中、新たなカルチャーとして生まれてきたのが「インターネットおじさん」に対する批判です。発端は、とあるツイートで、LINE上でのおじさんにありがちなトークの特徴をまとめたイラストが掲載され、バズったことでした。

 長文、謎の絵文字、過剰な褒め言葉……。そんなおじさんのLINE上でのキャラクターをネタにしたツイートがバズった次の日は、会社の先輩から「もう怖くてLINEできないどうしよう……」と相談を受けました(笑ってしまいましたが)。その日から数日間は、インターネットおじさんに関するWEBの記事やツイートが盛り上がったことを覚えています。

「信じられない行動をする最近の若者」「前時代的で遅れているオジサン」。インターネット上のプラットフォームの中で展開される、世代の離れた両者間での中傷合戦の盛り上がりは、まるで、両者のカルチャーを明確に分断してしまったように思います。

実際には存在しない「分断」

 しかし、実際わたしがインターネットに触れながら感じるのは、それらは「幻想」だということ。

 これまでに数回、「若者たちのSNS利用状況について知りたい」というお声がけをいただいて、テレビ番組などでお話したことがありますが、毎回、最初に「みなさんが思っているほど若い子たちは特異なSNSの使い方をしているわけではないです」と言っています。

 実際、私より若い子とご飯を食べに行ったり、一緒に働いたり、定量調査・定性調査を行っていても、ニュースで取りざたされるような“奇怪な”SNSの使い方をしている若者はごく一部です。そして、SNSを利用している方ならば、Facebookを開いてみればよくわかると思いますが、「インターネットおじさん」と呼ばれるような“笑える”使い方をしているおじさんもまた、ごく一部だけなのです。

 いまだにコミュニケーションの中心はLINEだし、Twitterもまだまだ使っている。Instagramを投稿していない若者だっているし、Facebookの大げさな投稿をするのもおじさんだけとは限らないのです。

 若者のSNS利用状況についてお話しする場では、特異なケースを紹介したほうが「え!ウソ!知らなかった!」と喜んでもらえることは確かです。だけど、それだと「理解できない若者像」を持ち帰ってもらうことになってしまう。そして、そんな表面をなぞっただけの若者像が、タイムライン上を音もなく滑っては消えていく最近の企業や行政のSNS施策を作ってしまうのだと思っています。

 LINEが既読にならずに、「今どこで何しているの?」と思うわたしたちの姿は、あの頃の、“ポケベルが鳴らなくて”もやもやしていた、おじさんそのままなのではないでしょうか。「会いたくて会いたくて震え」ていたのは、現代の女の子も、スーパーでお買い物をしているお母さんたちもきっと同じ。ツールがいくら進化しても、スマホやポケベルを握りしめるわたしたちの感情は何一つ変わっていないのです。

2018年、「インターネットおじさん」はきっと歓迎されている(c)gettyimages

歓迎されている「インターネットおじさん」

「インスタ映え」「インフルエンサー」などの言葉が流行した一方で、2017年後半を彩ったネット関連のニュースといえば「ビットコイン」でした。

 その他、「CASH」がDMMに買収されたり、LINEがMobikeと提携するなど、決済や交通インフラの分野で、インターネットの活用による変化が起きつつあります。2018年は、インターネットによって、本格的に実際の日常生活が変わる年になるのではないでしょうか。

 そして、経済の中心にいる「おじさん」という存在は、その変革の中心的役割を担うことを求められるに違いありません。2018年は、おじさんが「インターネットを始めなきゃ」と思う以上に、インターネット側がおじさんを求める一年になるかもしれません。

 今、目の前にあるインターネットの世界に、本当は世代間の「分断」なんてありません。そこには自分の「あの頃」と変わらない若者がいて、自分と同じ端末を使ってコミュニケーションしている。そこに何も隔たりなんてないのです。

 2018年、世代を問わず、インターネットに飛び込めば、そこには新しい世界が大きく広がっているでしょう。大きな変革の中で、歓迎ムードのインターネットワールドで楽しく泳げたなら、あなたが思っているよりもずっと遠くまでたどり着けるのではないでしょうか。

筆者プロフィール

りょかち

りょかち

 1992年生まれ。京都府出身。著書に電子書籍『インカメ越しのネット世界』(幻冬舎plus)を持つ。IT企業で働く傍ら、自撮り女子(通称:自撮ラー)として、SNSにセルフィーを投稿。自撮り以外にも若者のSNS文化に精通しており、多数メディアから取材を受ける。Twitterは@ryokachii。

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