2018年、今年は人生狂わせたいな(稀有)というあなたへ名著8本

あけましておめでとうございます。京大院生の書店スタッフが「正直、これ読んだら人生狂っちゃうよね」と思う名著を選んでみた。新年特別編です。どれも私の大好きな本たちです。どれか一冊でも、あなたの今年をがんばるエネルギーになってくれるといいなぁ。【3刷出来!】『人生を狂わす名著50』より特別連載。作家、有川浩も推薦! →公開は毎週木・金です。

あなたの2018年を狂わせる名著

 あけましておめでとうございます! 2018年。平成ももう30年目ですよ。びっくりしますね。
 そんな年始めに私がおすすめしたいのは……「今年、こうなったらいいな~と思う本を読むこと」!
 こんなふうに生きたいな、こんな人になりたいな……そんな価値観や登場人物や作者に出会えたら、あなたの今年はきっともっと素敵なものになるはず。
 今年のあなたのエンジンになる本と出会ってみませんか? ラインアップは以下の通りです。

①2018年、些細な日常をちゃんと大事にしたいあなたへ
②2018年、笑って過ごしたいあなたへ
③2018年、仕事を頑張りたいあなたへ
④2018年、夫婦円満にすごしたいあなたへ
⑤2018年、贅沢にすごしたいあなたへ
⑥2018年、いい小説を読みたいあなたへ
⑦2018年、自分と向き合いたいあなたへ
⑧2018年、いいことが起こってほしいあなたへ


①2018年、些細な日常をちゃんと大事にしたいあなたへ
『ニューヨークで考え中』近藤聡乃(亜紀書房)

 お正月に読みたいものって何かなーと考えたら、いちばんにこれが浮かびました。人気漫画家の作者がニューヨークに滞在している日常を描いたエッセイ漫画。ドラマティックな事件はないのですが、たとえばニューヨークで初めて使った仮病、田舎臭いスターバックス、近所のコインランドリーに行ったときに降る雪、「T・J」という名前の猫…… エピソードの1つひとつが、軽やかでやわらかな手紙のよう。読んでいると、自分の日常もふいに楽しく思える不思議な作品なのです。
 こう、なんとなく誰か大切な人にプレゼントしたくなる本なんですよね。プレゼントしたことないけど。
 今年も1つひとつの日常を大切に、生きてる実感をすくいとって。そんなことを思い出させてくれる、素敵な漫画です。2018年の始まりに、ぜひ。


②2018年、笑って過ごしたいあなたへ
『オスとメス=性の不思議』長谷川真理子(講談社)

 2018年、めちゃくちゃ笑いたい方におすすめ!
 地球上の様々な生殖について語った本書。まー笑う笑う。ほとんどオスのいないギンブナ(そしてなけなしの精子のために他種の雄を誘うメスギンブナ)、オスがメスの体の一部になる「究極のヒモ」ことチョウチンアンコウ、死にかけるバクテリアのセックス……動物たちの性事情っつーか男と女の溝は深かったです、案外。本当におもしろすぎる。読むと「性」への価値観が変わっちゃいます!
 人間の惚れた腫れたもまぁおもしろいですが、動物たちの性はもっとおもしろい。人間なんてかわいいもんだ。人間も、今年も明るく楽しく生きましょうね。


③2018年、仕事を頑張りたいあなたへ
『走ることについて語るときに僕の語ること』村上春樹(文藝春秋社)

“ただ僕は思うのだが、本当に若い時期を別にすれば、人生にはどうしても優先順位というものが必要になってくる。時間とエネルギーをどのように振り分けていくかという順番作りだ。ある年齢までに、そのようなシステムを自分の中にきっちりこしらえておかないと、人生は焦点を欠いた、めりはりのないものになってしまう。まわりの人々との具体的な交遊よりは、小説の執筆に専念できる落ち着いた生活の確立を優先したかった。”

 世界的作家の村上春樹が趣味であるランニングについて綴ったエッセイ、かと思いきや、いかに小説という生産物をコンスタントかつ高品質に生み出すか? ということについて語っているすぐれた職業論。読むと「今年もこつこつがんばろう」と思うこと間違いなし。
 私はこの本を研究室の机にいつも立てかけているのですが、やる気が出ないときに読むと「がんばろう……」としみじみ思えます。2018年、何かをがんばりたい方におすすめ。


④2018年、夫婦円満にすごしたいあなたへ
『長い道』こうの史代(双葉社)

 突然ですが、夫婦ってすごいですよね。まったくもって偶然みたいに知り合った2人が、ずっと一緒に暮らしていく、っていったい、何?? 私は心から謎だったのですが、初めてこの漫画を読んだとき、「これが夫婦……か……」と思わずうなってしまいました。「夫婦」という概念を漫画にしたものがこれだと思う。
『この世界の片隅に』で有名なこうの史代さんによる、賭け・酒・女を愛するダメ人間の夫と、ひょんなことから結婚することになったボケボケ娘の妻。ふたりの間にあるのは、愛なのかはたして。世の夫婦観を狂わせるために天才こうの先生が生み出した、珠玉の一冊です。夫婦円満の秘訣がここに描かれてます! マジで。


⑤2018年、贅沢にすごしたいあなたへ
『細雪』谷崎潤一郎(角川書店ほか)

「いとせめて花見ごろもに花びらを秘めておかまし春のなごりに」
 ーお正月が暇な人にだけおすすめしたいのが、こちらっ。
 この小説を読むのに時期とか季節とか関係ないのですが、ひとつだけ提示したい条件は、「時間がたっぷりある時に読んで」!!!
『細雪』には、現代にはもうほとんど残ってないような贅沢な時間が流れていて、それは関西弁によるものなのかこの小説の長さなのか谷崎の筆致なのか、何なのかわからないけれど、とにかくたっぷりと余裕をもってこそ楽しめる小説なんですよ。だからこそ余裕のある時に読んでほしい。
 もう、失われた贅沢。取り戻すことのできない愉楽。―戦時中の谷崎が書きたかった、追憶の関西。縁談と四姉妹と上流階級をめぐる、日本文学史上最上級の贅沢を召し上がれ。


⑥2018年、いい小説を読みたいあなたへ
『海』小川洋子(新潮社)

 実は「世界でいちばん好きな短編小説を選べ」って言われたら、私はこれを選ぶんです。小川洋子先生による、短編集『海』の表題作「海」。なんで好きなのかって言われるとけっこう困るんですけど、しかも文庫本にして21ページぶんという異様に短い小説なんですけれど。
 結婚を申し込みに行った彼女の実家で出会う、彼女の弟―読者も主人公もとても実際的な場所から連れていかれるのは、ふわりとした海の風が聴こえてくる、理知的で静かな遠くの世界。この小説に描かれている「現実」と「向こう」のあわいをさまよう感覚が好きだから、そしてそれこそが小説という芸術の醍醐味だと思うから、私はこの「海」を愛するのかもしれません。
 1つひとつの短編が短くて、素敵な音ばかりが鳴っている小説たち。ぜひ新年に読んでほしい短編集です。


⑦2018年、自分と向き合いたいあなたへ
『放課後保健室』①~⑩(水城せとな、秋田書店)

 やー、それにしてもこの世は地獄ですよね。え、突然何だって? この世は地獄ですよ。何が地獄って、自分がもって生まれるカードがどんなものであれ―それが「男」とか「女」とか「美形」とか関係なく―ほとんどどんなカードにも、苦しみは付き物ってとこ。男だから女だから生きやすいなんてことはなく、この世は、誰にとってもすべからく地獄なんですよね。
 ……地獄なんですけど、それでも人は生まれてきちゃうもんだから大変です。そんなかわいそーな人間の私たちに対して、水城せとなは言います。「この世は地獄だからこそ、自分で自分を肯定して生きてくしかないでしょう」と。
 一見ばりばりの少女漫画に見える本書、中身はかなり深い作品。人はトラウマと、コンプレックスと、どう向き合っていくのか?―最終巻の伏線回収がまた秀逸なので、ぜひお正月に一気に読みましょう!
 ……しかしこの漫画をこれから読むなんて、あなたの人生天国ですね?


⑧2018年、いいことが起こってほしいあなたへ
『ティファニーで朝食を』カポーティ(新潮社ほか)

 年が明ける、って結局人間の決めた暦上の出来事にすぎないのに、それでもどこか空気がすがすがしい気がするんですよね。今年こそもっと善きことができたらいいな、正直に生きられたらいいな、という祈りに近い気分を、勝手に空気に投影してしまうんだと思うのですけど。そんな気分に読みたい小説が、こちら。

“要するに『あなたが善きことをしているときだけ、善きことが起こる』ってことなのよ。いや善きことというより、むしろ正直なことって言うべきかな。規律をしっかり守りましょう、みたいな正直さのことじゃないのよ。”(新潮社、村上春樹訳版より引用)

 同名の映画が有名ですが、この小説の素敵な文章に触れると、心のどこかが切なくてきらきらしてきて、誰かの幸せを祈る気分になります。
 あなたの一年に、どうか、たくさんの善きことが降ってきますように。


 並べてみると、結局私の偏愛本特集みたいになってしまいました。
 だって新年一発目、そりゃおもしろい本を読んでほしいんだもの……!!
 どれも私の大好きな本たちです。どれか一冊でも、あなたの今年をがんばるエネルギーになってくれるといいなぁ。
 今年も、あなたと私に、どうか素敵な本と人との出会いがありますように。

 2018年もどうぞよろしくお願いいたします!

重版3刷出来!知らない本が知れる。知っている本は、もっとおもしろくなるブックガイドです。

この連載について

初回を読む
京大院生が選んだ「人生を狂わす」名著50

三宅香帆

京大院生の書店スタッフが「正直、これ読んだら人生狂っちゃうよね」 と思う本を選んでみた。2016年「はてなブックマーク数年間第2位」となり大きな話題を呼んだ記事を元ネタに、現役の京大院生で、天狼院書店で働く文学マニアの23歳が、「世界...もっと読む

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