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第478話 竜王の住処
―――デラミス・とある酒場
それからの詳細は省くが、色々あってその翌日。俺はアンジェと証人でもあるエフィルを連れて、バッケが待つデラミスの酒場へと向かった。ああ、またあの酒場だ。何でもバッケがここを気に入ってしまったようで、暇を見つけては入り浸るようになったとか。店主は泣いても良いと思う。
「たのもー」
スイングドアを両手で開き、棒読みでそう声を掛ける。前回と同じく実に静かな店内、床には男達の屍があちこちに置かれており、大変歩きにくい事になっている。こいつら、臆面もなくまたバッケに挑んで負けたのか。何がそこまで彼らを駆り立てるのか、俺には理解できないところだ。まあいいや。バッケは――― いた。こちらも同様にカウンターの席に1人座って、酒を呷っている。
「おう、来たかい。で、どうだった?」
「どうだも何も、見ての通りだよ」
アンジェが俺の腕に抱きつき、ピースサインをバッケに向ける。その表情はとてもにこやかなもので、こっちまで微笑んでしまいそうになる。が、今はバッケの前なので我慢我慢。
「約束は果たしたと、私が保証致します。しっかりとこの目で、見届けさせて頂きましたので」
「アンジェ、この娘は?」
「親友のエフィルちゃん」
「ああ、例の子かい。いや、それよりもどんな状況で事に及んだんだい、ケルヴィン? この目で見届けたって、アンタまさか……」
「色々あったんだ、色々」
詳細は省くと言った筈だ。仮にも女豹なら、アンジェとエフィルを包む空気が輝いている時点で察してほしい。
「ま、まあ、アンジェと上手くやったのは本当のようだね。鬼畜かどうかは兎も角さ」
カランとグラスに入った氷を傾けながら、バッケは怪しむようなジト目で俺を見詰める。鬼畜じゃねぇよ。
「なら約束通り、雷竜王と風竜王の居場所を教えてくれるか?」
「ああ、約束は守るさ。ファーニスの女は義理堅いからね」
バッケはグラスに残っていた酒を一気に飲み干し、カウンターにそれを置いた。彼女の一挙手一投足に店主がビクついている。見ているだけで不憫である。
「あー、どこにやったかな? 確かここに入れた筈なんだが……」
自分の豊満な胸元に手を突っ込んで弄り、何かを探すような仕草をするバッケ。ふふ、残念だったな。普通の青少年なら思わず興奮してしまうような絵面だが、そいつはプリティアちゃんで予習済みだ。獣王祭での奴の姿を思い出し、俺の気分は極寒へと落ちる。大丈夫、俺は冷静だ。だからアンジェ、腕を抓らないで。
「ああ、あったあった! アンタらの為に倒れてる奴らから金を巻き上がて、それぞれ地図を用意しておいたんだよ。感謝しておくれよ」
「待て待て! 確かにありがたいんだが、金を巻き上げたってどういう事だ!?」
「何、ちょっとした酒飲み勝負をしただけさ。アタシは体を賭けて、そいつらは金を賭けた。な、対等な勝負だろう?」
満面の笑みで何言ってんだ、この人。負けたらどうするつもりなんだ…… 手慣れているところを見るに、たぶん常習犯なんだろうな。ファーニス王、もしかして苦労されてる? しかし、これ以上その話に突っ込むのも面倒な事になりそうだ。一応のお礼を言いつつ、その地図に視線を落とす。
「まず雷竜王の居場所なんだが、こいつは獣国ガウンに巣を構えている」
「ガウンに? あそこには何度か行った事があるけど、そんな気配は感じなかったんだけどな」
「大の人間嫌いだからねぇ、滅多に人里に降りて来る事がないのさ。ガウンに住んでいる獣人でも、生涯で一度でもその姿を拝めたらラッキー、くらいの頻度だ。こっちから会いに行きなきゃ、まずお目に掛かれない奴なんだよ。獣王のレオンハルトくらいかねぇ、雷竜王と繋がりがあるのはさ」
『天雷峠』、そこが雷竜王の住処らしい。実際に向かうのはリオンなのだが、俺が行きたい気持ちが逸ってしまう。この猛りを鎮める為にも、早く風竜王の情報を聞かなくては……!
「……何かぜぇぜぇ言ってるけど、大丈夫かい?」
「大丈夫だから風竜王について教えてくれっ! 急いでくれ、頼むっ!」
「あ、ああ、分かった」
あ、ちょっと引かれた気がする。S級冒険者に引かれるとか心外なんですが。
「風竜王がいるのは西大陸だ。場所は――― ここ」
もう一枚の地図を開き、バッケがその場所は指で示した。その場所が示された時、俺は僅かに目を見開いてしまう。
「―――リゼア帝国、か」
「そう、今何かと話題になってるあのリゼアだ。空飛ぶ巨大な方舟から舞い降りた天使、奴らが全国の至る場所で確認されているってのは、ケルヴィンも知っているだろう? 普段は大人しいもんなんだが、リゼアは違った」
「ああ。首都が陥落してリゼア帝王の行方も知れないって聞いてる」
奈落の地から飛び立ったクロメルの飛空艇は、リゼア帝国へとまず向かった。第2柱の使徒であるサキエルを回収する為なんだろうが、なぜかその彼が治める首都が灰燼に帰すまで攻撃を行った。本来は近づかない限り襲われる事のない天使型モンスターが、この時ばかりは関係なしに暴れていたのだという。天使型モンスターは全国に分布されている。リゼアを襲ったのがそれとは違う種族だったのか、クロメルの命令1つで他の奴らも暴れるようになるのかは、今のところ分かっていない。だからこそ、発見次第駆逐しているのだが……
「騒動があってから、アタシも独自にリゼアの様子を見に行ったんだけどね。あれは酷い状態だった。焼け野原を通り越して、最早真っ黒に焦げていたからね。ただ幸いだったのは、首都の住民達は無事に逃げ遂せたって事かな。天使は抵抗する奴だけに反撃して、逃げるもんはまるで相手にしなかったって話だ。そのお蔭で隣国や近くの街村に、逃げた民達が押し寄せているんだけれどね」
「………」
クロメルがリゼア帝国の首都を破壊した理由は、正直よく分からない。過去の腹いせ、鬱憤を晴らす為かとも考えたが、そうであるとも思えないんだよな。
「……それで、風竜王はリゼアのどこにいるんだ?」
「襲撃があった場所からは遠いから安心しな。『狂飆の谷』、現地民が絶対に近づかない西大陸屈指の難所、S級指定のダンジョンさね」
「へー」
「ご主人様、良い笑顔です」
「うん。平静を装っているけど、良い笑顔だね!」
いやいや、だってS級のダンジョンだぞ? そんな美味しそうなご馳走をちらつかされて、平然と対応できるものだろうか? 否、それはおかしい! むしろ失礼に当たる!
「ハハッ、本当にS級冒険者は変人ばかりで飽きないねぇ!」
「バッケには言われたくないな」
「まあまあ、そう言ってくれるなって。アタシも西大陸に帰る事だし、そっちには途中まで案内してやろうか?」
「いや、まずこの情報を一度持ち帰るから、今回は遠慮させてもらうよ」
一緒に行動すると襲われそうで怖いし。ああ、プリティア的な意味でな?
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