ゲーマー日日新聞

ゲームという文化を、レビュー、攻略、考察、オピニオン、産業論、海外記事の翻訳など、複数の視点で考えるブログ。

例の映画

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ネタバレあります。結論としてあまり好きになれなかったので、その辺ご留意ください。

 

ひでぇな。全く期待してなかったけどひでぇわ。

友達と観に行ったけど、別段映画オタクでもない普通の人がブチ切れてた。やっぱ誰が観ても酷いんだなーって。

えっと、この映画が目指したところは、かの小島監督が素晴らしくまとめているので、まずそれを掲載する。

 

ディズニー映画の傾向との類似点

 革命や政治を語るのではなく、現代の観客が日常で感じ取っている社会的な問題に目を向けている。女性は救いを待っているお姫様ではなく、自ら武器を持って立ち上がる戦士なのだ(これは、近年のディズニーのプリンセスものが、王子様を待つだけではなくなったこととシンクロしているように思える)。

小島秀夫が観た『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』 | 文春オンライン

 

大変優れた批評になっており是非目を通すことをオススメする。内容は肯定的に思えるが、少なくとも目指す方向は間違っていなかった。

「既存のSWから新たなSWを描く。」本来EP7ですべきだったことだ。40年間焼きまわし続けた、ルーカスの遺産から、新たなSWを見出す必要があった。そしてEP8は、既存のSWを批判するペレストロイカから始まり、古き英雄の内省による無血開城に終わる。

と、ここまでの空書きは大変面白そうに思えるのだ。にも関わらず、とにかく粗が目立つというか、もう粗というか穴だらけになっていて、フィルムにはもう闇だけが残されている。

 

というか、最後まで観ると、結局これは昔ながらのSWなのだ。小島監督は改革とまでいかないが政権交代だと評していたが、全くそうは思えない。

散々変える変えると煽っておいて、結局は既得権益にしがみつく民主党政権みたいなことをしてる。監督ライアン・ジョンソンはゴルバチョフじゃなくて鳩山だったよ。

特にヤバいのがルーク。最初は、幾千もの戦いを切り抜けてきたと思えない憔悴ぶりで、完成された主人公ルークにどんなメスを入れるのかな?と期待したら、なんかオリキャラを勝手に殺そうとした罪でセルフ流罪になったっていう。

え?オリジナルトリロジーには不起訴なの?けど勝手に作ったエピソードで起訴すんの?町山智浩は「聖書を焼き捨てた」と言ってたけど、焼いてんのは聖書じゃなくてモルモン書じゃねえか!

この作品は全部こんな感じだ。ファンが信奉するSWにメスを入れる。で、どう変えてくれるのかとワクワクしたら、ぐちゃぐちゃにするだけして元に戻す。結局はルーカス様の作品には逆らえませんってこと?ジェダイの思想本は焼き払ってスッキリして、結局レジスタンスに加わって虐殺することは正義ですかそうですか。

結局はジジイババアの同窓会じゃねえか。未練タラタラで本当に醜い。何でレイアは空中浮遊してまで生き延びてんだよ。

町山智浩は本作を「型破り」と評した。確かにそれを目指したのだろうけど、何ら新しいビジョンを出さず、結局はルーカスの遺産に依存する。そりゃ民主党政権だろ。

 

で、まぁとにかく、「革命」だろうと、「政権交代」だろうと、とにかく既存のSWを変える路線は評価してる。けどそれ以前に、根本的に映画として出来が悪い。政府として成立してない。脚本とか演出とか撮影とか些細な問題でなく、監督の問題。

まず戦闘シーンはただでさえ少ない上に、本当にガバガバだ。昔のWW2映画のドイツ兵みたいにファーストオーダー兵にだけ弾は当たる。逆に戦艦から何発主砲を撃っても、レジスタンス側はクリープ以外ピンピンしてる。

いや確かにさ、ガバガバな戦闘シーンはep4からあったよ。けどよ、それはルーカスの娯楽として作った落とし所でもあり、落とし所があるからには強烈な新兵器やユニークな先述があるわけで。ep8はそれを変えてくれると思ったのに、こういう監督に都合の良い部分だけ据え置きかよ。

よくこの映画は「脚本だけで批判すべきじゃない」と言われるけど、実際は逆だよ。ep8は「ジェダイの在り方を再考する」という大筋の脚本だけ変革しようと試みた割に、こういう細部は全部古き良き時代のまんまなんだ。本当に「型破り」するなら、こういう細かな演出や撮影も付随して変えないと結局は元の木阿弥だろう。

 

その最たる例はこれだよな。

一番頭に来たのは「差別構造」肯定だ。スター・ウォーズは世界観のなかで基本的に「人間」中心主義がある。共和国にもあったが帝国が勃興してよりそれが強固になったわけだ。だから帝国に基本的にエイリアンはいない。(例外が映画以外のメディアでいるのは知っている)

エイリアンと人間の差別、被差別関係は作品で何度も描かれる。そしてそれよりも下の被差別階級としてドロイド。この3つの種族関係はそれぞれの立場がきちんと映画で描かれ続けてきた。ジャージャーやイウォークの存在も「スター・ウォーズ」の必須の要素だった。

それが今回はじめてまったくないがしろにされている。もっともレジスタンス側で位の高いエイリアンであるアクバー提督を雑に殺し、その代わりに人間の紫おばさんをコネ抜擢する。老齢の身でありながらレジスタンスに身を捧げた大提督は人間とエイリアンの友愛の象徴だったはずなのに。

スクリーンを切り裂きたくなるようなクソ映画 「最後のジェダイ」

そう。「古典的なお伽噺」のようなSWで意外なのは、個性豊かなエイリアンたちや数多くの惑星を含めた多様な世界観の描写だ。ところが「政権交代」するはずのep8では、こうした多様性の描写を蔑ろにして、現実の安っぽいポリコレから作業的にアジア人や黒人をねじ込んでしまった。別にルークを白痴にするのは自由だけど、そこだけは変えちゃ駄目だろと。

そして、レジスタンスによるカミカゼアタックの繰り返しと、それに伴う莫大な戦果という杜撰な戦闘描写。

これは単なる脚本の穴じゃない。そもそも、SWはルーカスが愛するコテコテの様式美がありながらも少しはリアルな戦争描写があった。カミカゼアタックは正にその戦争描写を手抜きしているだけだ。STAR WARSなのに、全然WARS部分が面白くない、真面目に作ってない。これは変革でなくただの手抜きである。

 

 

とにかく文句言いたいところは無数にあるんだけど、共通して言えるのは、「過去の良い点を破壊し、過去の悪い点を維持し続けた」民主党政権みたいな作品だってこと。

この映画は矛盾に満ちている。単に設定とか世界観の問題でなく、過去作品にメスを入れると言って、腹を引き裂いた瞬間、やっぱ面倒臭いからと腸をぐちゃぐちゃにかき混ぜるようなサイコパスの所業だ。

辛うじて本作で良かった場面を思い出したいけど、せいぜいカイロ・レンの描写ぐらいで、後はAT-ATの進撃シーンとか、ジェダイがレイをおちょくるところとか、スノークの後ろにいたプレトリアンガードとか、R2-D2はかわいいとか、あれ、これ過去作の設定じゃん。

いい加減目を覚ませってことなんだろうな。

 

 

 

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