ギャル向けアパレル福袋は「サービス残業」で生み出される
ギャル向けアパレルショップの初売りといえば、新年の恒例行事だ。参加したことはなくても、十代の少女たちがお年玉を握りしめて全力疾走し、目当てのショップの福袋をゲット、袋の中身を交換する光景を知る人は多いだろう。彼女たちが憧れるブランドで働く人たちは、きらきらしい見た目と裏腹に、年々、過酷な労働環境に追いやられている。ライターの森鷹久氏が、華やかなギャルファッションに身を包み働く彼女たちの実態に迫った。
* * *
年末の慌ただしい日々の隙間にできた時間にお願いして、東京・渋谷にある、いわゆる「ギャル向けショップ」と呼ばれるアパレルブランドのマネージャー・真理亜さん(仮名)に会った。彼女は専門学校を卒業して以降、およそ10年間、現在の会社に勤務してきた。
近年では、安い海外製の製品やファストブランドの台頭により”ギャル向けブランド”の売れ行きは良いところでも横ばい、ほとんどは下がる一方だ。そんな状況の中、真理亜さん達を取り巻く就労環境もどんどん悪化している。
「元々”憧れて”来る人たちが多い世界です。時給は千円未満、サービス残業の雨あらし。売れ行きが悪いと買い取りを暗に迫られ、パワハラ、セクハラが少なくなかったのに、ここに来てさらに上から色々と要求される」
都市圏のフラッグシップショップならさておき、地方の店舗は近隣のコンビニと同程度、ほとんど最低賃金に迫るような低待遇。せめて残業代が支払われれば収入を上げられるが、賃金なしで強いられるサービス残業ではそれもままならない。お金がないのに、自社ブランドの服の買い取りを迫られる。
劣悪な環境なのは間違いないが、「おしゃれ」「かっこいい」というイメージが先行し、スタッフが辞めてもすぐに新しい人が入ってきて、人材が常に供給されるという状況。若い女性が頻繁に入れ替わるという特殊な環境だからだろうか、働きたいと集まる女性たちの間で過酷な実態が共有されるより前に新しい世代がやってくるという特殊な構図だ。求人に困らないからか、就職時に提示される労働条件が守られることはほぼない。
いざ働き始めると、営業1時間まえの出社もザラで、ポップを書いたり打ち合わせをしたり、営業時間後も棚の入れ替えやミーティング、時には反省文を書かされることもあり、膨大な時間外業務も強いられ、帰宅が終電近くになることもある。この時間外労働に対して賃金が発生することは、ほぼない。頑張って準備しても、売れ行きが悪ければ品物の買い取りを迫られ、普段着る服もショップのものばかりになってしまう。まさに、いつの間にか、生活の全てが”ショップ”を中心に回っている状況に陥ってしまうのだ。
年末年始は特に地獄だ。
「年末は冬のセールで声を枯らして接客をし終えると、そのままサービス残業で福袋作り。本社からダンボールで届くアイテムを、スタッフが仕分けし、時には数百個の福袋を準備する。初売りでも同じように声を枯らして接客し、客引きまがいのことまでやらないといけません。すぐに春夏モノの入れ替えが始まり、自分が着るための服も買わされる。私はマネージャーだから各店舗への応援に行かなければならず、繁忙期にはほぼ休みがありません」
少女たちが喉から手が出るほどほしがる福袋は、スタッフたちに強いられるサービス残業によって生み出されている。先日、有名アパレル商品の数々が、驚きの低賃金と休みがない外国人技能実習生によって製造されていることが明るみに出て、ネット上でも話題になったが、それらの品々を詰めて生み出される福袋も、日本人の若い女性らによる過酷な労働の産物だったのだ。
とはいえ、マネージャー職にある真理亜さんなら、ある程度は余裕がある収入ではないかとたずねると、なんと月に二十万円ジャスト。休みもなく働いてもこの金額はほとんど変わらない。そしてショップ店員だった時代のことを聞くと、十五万円に届くか届かないかといった具合だったという。
この収入から店のアイテムを買い、定まらない時間帯の勤務をこなす。起きている限り仕事をしているようなことも珍しくなく、自炊をする余裕も、節約のために生活必需品を安売りで手に入れる時間もない。慌ただしく三食をコンビニで済ませ……となると、手元にはたいした現金が残らない。化粧品や美容室代、ネイル代も「ブランドの顔」である真理亜さん達には必須で、切り詰められない。
「極端な低賃金で休みもなく働く縫製工場の外国人技能実習生も気の毒だと思いますが、彼らが作ったものを売っている日本人の私たちだって同じだと思います。奴隷だと感じます」
真理亜さんたちには、辞めるという選択肢はないのか。夢は破れたとしても、もっとまともな就労環境の下で、健康的、人間的に生活出来るはずではないのか。
「頑張れば、昇進すればもっと楽になると言われ続けてきました。そして少しは昇進したはずなのですが……。服飾系の専門を出て10年。転職するにも接客以外のスキルはなく、高級店への転職も難しい。マーケティングなどの業種を希望しても、上が詰まっている状況では、私たちに機会、順番が来ることはない。また、あまりにも近しいブランドやメーカーへの転職がタブーという雰囲気もある。正直、どうしていいかわかりません」
こう漏らす真理亜さんは、筆者のインタビューを終えるとすぐに本社のある新宿に向かった。正月の初売り対応シフトで、年明け7日までまったく休みがないという。これほどの激務にもかかわらず、アパレル関係者だからか、頭の先から指の先まで、ファッションには隙なく見えた真理亜さん。その出で立ちは立派な大人で、立場からも部下を束ねる責任感のようなものが感じ取れた。
きらびやかなギャル向けアパレル業界にいるためからか、そこで働く彼女たちの見た目は華やかで苦労とは無縁で、華麗にすら見える。だが、実際にはパワハラをともなった過酷な労働を強いられており、転職もままならない。そして低賃金、重労働に日々身体と精神を削られながら、さらに未来も見えていない。そこで働く彼女たちは、ほとんどが「ブランドが好き」「アパレル業界に憧れている」といったことにつけ込まれ、悪条件でも働くことを選択させられている。彼女たちから、あからさまにズバリと会社を恨むような言葉はないが、サービス残業を断れない状態にあることは誰もが吐露している。筆者にはまさしく、やりがいの搾取そのものという風に見える。
しかし、真理亜さんのような若い日本人が不満の声をあげると「若いからだ」「努力が足りない」と罵られる環境もあろう。まして、職場が販売する商品やブランドへの愛情につけこまれ、サービス残業や長時間労働が常態化しては、夢見る暇どころか具体的な未来へのプランも立てられないまま、今日の労働に時間を費やすばかりだ。
彼女たちが「弱者」でなければ、一体誰が弱者なのか。バブル景気を超えたという2017年が過ぎたが、真理亜さんたち、そして私ですら、その実感を得られることはほとんどなかった。2018年には、彼女たちの仕事への愛情が、せめて搾取されない環境へと向かってもらいたい。