こうして、歯を削ったことにより虫歯が悪化したり、歯が割れたりすると、歯科医が選択肢として提示してくるのが、「神経を抜く」という処置だ。しかし、神経を抜くことになれば、状況は悪化の一途をたどることになる。前出の天野氏が解説する。
「私は、治療において『神経を抜く』ということはほとんど選択肢に入れていません。それだけ大変なことなのです。
歯のなかには、『歯髄』という組織があります。神経や血管、細胞が詰まった部分ですが、『神経を抜く』とは、この部分を器具で掻き出し、取り除いてしまうということ。
歯髄は、ミネラルなどを運ぶことで歯の健康状態を守っています。歯髄の細胞が残っていると、虫歯ができても歯の組織を変化させたり、修復したりする働きをするのです。
いわば自然治癒力がある。神経(=歯髄)を取り除いてしまうと、当然そうした働きは完全に失われ、歯は死んだ状態になってしまいます。そのため、虫歯は進行する一方になるのです」
また、歯髄があることによって、歯に水分が供給され、歯は、弾力性があり、割れにくく、欠けにくい状態に保たれている。神経を抜くと、それも失われてしまう。
「神経を抜いてしまえば、歯に栄養が行きわたらなくなるわけですから、もはや抜歯へのカウントダウンは始まっていると言えます」(小峰氏)
そして1本歯を抜くことになると、ほかの歯にも影響が及ぶ。小峰氏が続ける。
「抜歯をすると、歯を支える『歯槽骨』という骨が、『もうここに歯はない』と認識し、崩れ始めるのです。抜いた歯の周囲の歯もグラグラになってしまう。
1本くらいならなくなっても大丈夫、と思ってはいけません。次々と歯を失っていくことになりかねない」