SMAPはなぜ紅白歌合戦に出ないのか。

SMAPは出ないとNHKが発表した日の夕方から翌日の夕方まで、NHKのコールセンターに紅白関係の問い合わせ電話が544件あったらしいが、そのうち82件がSMAP関連で、そのほとんどが「どうして出ないのか」だった。

ホント、なんでか知りたい。だって、SMAPは去年の紅白でポップス界初の大トリだし、その場面で平和を訴えるメッセージを一人一人言ったのがずいぶん好評だったとか。さらに、今年はメンバーの香取慎吾がNHKの大河ドラマ「新撰組!」に主演している。こんな、NHK受けするグループになったのに、どうして出ないのか。

はじめてSMAPが紅白に出たのは、第42回(1991年・平成3年)の時だった。司会は堺正章に浅野ゆう子。初出場は他にも多く、バブルガムブラザーズ(Won't Be Long)、スモーキーマウンテン(TAYO NA)、前川清(そして神戸)、冠二郎(酒場)、河島英五(時代遅れ)、とんねるず(情けねえ)、X:エックス(Silent Jelousy)、KAN(愛は勝つ)、喜納昌吉(花)、槙原敬之(どんなときも)、鈴木雅之(ガラス越しに消えた夏)、西田ひかる(ときめいて)、森口博子(Eternal Wind)、永井真理子(ZUTTO)、Mi-Ke(思い出の九十九里浜)、原由子(花咲く旅路)、香西かおり(流恋草)、沢田知可子(会いたい)、トリはそれぞれ谷村新司の「昴」に和田アキ子の「あの鐘を鳴らすのはあなた」。そこで、SMAPは「Can't Stop -Loving-」を歌った。

翌年は「雪が降ってきた」、以降「$10」、「がんばりましょう」、「胸さわぎ‘96」、「SHAKE」、「ダイナマイトセロリ!」、「夜空ノムコウ」、「FLY」、「らいおんハート」、「freebird '02」、「世界に一つだけの花」と2001年に稲垣吾郎の傷害事件で辞退したとき以外は連続出場だ。なのに、なぜ出ない。

事務所を通じて出したその理由は、

「常にその年の新しいものを提供する場として紅白歌合戦に臨んできた僕たちとしては、そのため、今回の出演を辞退させていただきたい」というもの。よく分からないが、スポーツ紙では、今年はメンバーが俳優やタレント業など歌以外の活動が多く、紅白に臨むべきものがないのが理由だと書いてある。

そんなの今年に限った事じゃない。こういう理由は選ばれなかった理由としては相応しいが、断る理由じゃない。こうとんちんかんな理由を聞くと、出ない理由は、SMAP側にあるんじゃなくて、NHK側にあるんじゃないかと勘ぐってしまう。

今年はNHKにとっては大変な年だった。【サカスト】の榊原先生が常におっしゃるエビジョンイル(NHK海老沢会長の独裁制を表した呼び名)体制の崩壊まで騒がれた事件が、今年7月週刊文春の「NHK内部告発」記事が発端で起きた。紅白プロデューサーが制作費を8千万円横領していたというもの。

この一件で、現場の4人が処分された。制作プロデューサーは懲戒免職、その上司2人はセンター長解職と半年の停職に部長解職と出勤停止7日、局長は減給。役員はエビジョンイルが3ヶ月間減給30%、担当専務と担当理事が3ヶ月20%の減給だった。

ところが、これだけでは納まらなかった。NHKの受信料を徴収している地域スタッフが不払いが多すぎて困るとNHK側に会長辞任を求める文書を提出したのだった。NHK側は彼らは個人事業主の集まりで、NHKの組合ではないからとその文書を受取らなかった。

すると今度は、NHK本体の労組が受診契約者が減少している経営責任を問うとエビジョンイルの辞任を要求したのだった。今のところ経営側はこれを全く無視している。

でも、不払い運動は受信料が飲み食いに使われていたから怒った視聴者が払わなくなったもの。飲み食いしたヤツは首にしたのだからそれでいいじゃないかと思うのだが、なんでエビジョンイルを辞めさせようとするのか。

どうも、NHKにはふたつの厄介な人脈があるらしい。

首になった紅白のチーフ・プロデューサーは東洋大学を出てからNHKの長期臨時要因採用枠で入社した人だという。長期に臨時だというのだからそもそも矛盾しているのだが、要するにコネの採用枠らしい。彼は、入社後「紅白」以外に「BSジュニアのど自慢」、「青春のポップス」や「二人のビッグショー」でプロデューサーをするなど出世するが、実力以上にエビジョンイルのご加護があったと噂されている。

彼は茨城県の出身でエビジョンイルと同じ。NHKには茨城人脈という強い影響派閥があるらしい。そのルーツは、自民党郵政族のドン(放送事業は免許事業のため旧郵政省・現総務省には逆らえない)橋本登美三郎が茨城県ということらしい。

それともうひとつ、NHKには「芸能音楽グループ」という派閥があるようだ。彼もそのグループで活躍したが、そのグループを長年取り仕切っていたのが、その上司の天海修一芸能番組センター長(事件発覚当時)だった。天海氏はエビジョンイルの信頼が厚く、紅白の事実上の最高責任者と言われた男。過去の言動を調べてみてもなるほどすごい。

石川さゆりが国民銀行の不正融資疑惑に関与していたのではないかと取り沙汰されたときがあった(1999年)。その年、石川さゆりは紅白に出場するのだが、天海氏がこう語る「ファンの支持が高く、本人も疑惑を否定している」(産経新聞)。

この年の紅白は第50回記念だったが、天童よしみが美空ひばりの「川の流れのように」を歌い、人気絶頂だったSPEEDの「my graduation」を紅白用にアレンジし、三波春夫には大河ドラマの「元禄繚乱」にちなみ「赤穂浪士」ものを披露させた。その弁は、「一九九九年の最後の数時間の時が移っていくのを表現するのにふさわしい曲というコンセプトで、みなさんに快く賛同していただいた」(同)。大物歌手に持ち歌以外を歌わせる弁としてはサラリとしている。

その翌年、13回目の出演となる川中美幸は、夫が覚せい剤で逮捕された年だった。彼女は出場が決まったが、そのときの彼の弁、「紅白という場を重く受け止めて、歌で自分の“いま”を表現したいと言われたので、こちらもぜひそうしてほしいと判断した」。(同)

何か他の理由を考えて出場を止めてもらうのがNHKらしいのに、天海氏にかかるとそれが逆転する。彼がエビジョンイルとつながっているからだとする説がもっともに聞こえる。

NHKは今回の不祥事で、チーフ・プロデューサー一人を懲戒免職にし「個人の犯罪」としているが、横領はチーフ・プロデューサーの後任が発見し、上司の天海氏に報告したのが始まりだ。その時、天海氏は適切なアクションを取っていないことからもみ消そうとしたという疑惑が浮上した。そればかりか、企業ぐるみだったという声が高まった。

NHKの労組がエビジョンイルを辞任に追い込もうとする理由はここにある。こういう派閥がNHKをダメにしていると言うのだ。なにも懲戒免職にしたプロデューサー個人が横領しただけではなく、その金は上にも行っているだろうと言いたげだ。

今年の紅白歌合戦は、天海氏が外された。こうなると紅白も、芸能音楽業界を牛耳るドンがいたからなんとか息が続いた番組だったということだ。もともと番組は、制作者の意図するところで作るもの。透明性が大事だからって、国民にアンケートをとってその上位から出演依頼するんだったら、誰でもできる。そんな依頼されたって嬉しくない。人気投票の1位は意味があるかもしれないが、2位以下は上位より劣る理由がついて回ってしまう。

SMAPは人気投票1位の氷川きよしの下であることに不満で出場を辞退したか、エビジョンイルの芸能音楽界を恐怖に陥れている独裁体制がひび割れ始めたこの時に崩壊に手を貸したか、どちらかだ。

2004年11月26日(金)

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参考資料:

産経新聞

参考サイト:

紅白歌合戦データベース

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