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【社会】

<憲法を見つめて 九条の周辺>(中)沖縄 海兵隊 同盟の要なのか

米海兵隊普天間飛行場には、オスプレイなど多数の航空機が配備されている=沖縄県宜野湾市で

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 「みんな肝っ玉がきれるほどワジワジしている」

 沖縄県宜野湾(ぎのわん)市の普天間(ふてんま)第二小学校。米海兵隊普天間飛行場所属のCH53Eヘリコプターの窓が校庭に落ちた昨年十二月十三日、徒歩数分の自宅から学校に駆けつけた桃原(とうばる)隆(80)がいまいましげにつぶやいた。沖縄言葉で「はらわたが煮えくり返る」。日常的に危険にさらされているいら立ちが伝わってきた。

 その一週間前に現場から約一キロ離れた緑ケ丘保育園の屋根で、同型機の円筒形の部品が見つかった問題をちょうど取材していた。この日、園長の神谷武宏(55)を訪ねたところ「小学校でまた部品が落ちたようだ」と知らされ現場に向かった。

 学校前は報道陣や近隣住民らで騒然としていた。「本当にやめてほしい。嫌やわ」。窓が落ちてきたとき、校庭で体育の授業を受けていた二年生の呉屋実海(ごやみう)(8つ)の母巻絵(39)はまな娘を抱き寄せた。実海はぎゅっと母の腰に顔を押し付け、小さくうなずいた。

 問題が起きるたびに反発とやり切れなさが繰り返す沖縄で、基地負担軽減へのヒントを唱える人物に会った。沖縄タイムスの元記者で、米軍基地問題に詳しい沖縄国際大非常勤講師の屋良朝博(やらともひろ)(55)。「沖縄に海兵隊がいなければ日米同盟の枠組みが壊れるのだろうか」と異を唱え、海兵隊の県外移転を訴えていた。

 在沖縄海兵隊は在日米軍再編に伴い縮小予定だ。「現在は一万九千人とされるが、再編で実戦部隊は二千二百人程度になる。単独で紛争に対処できる規模ではなく、もはや沖縄に駐留する必要はない」。さらに再編を進めて、拠点を沖縄から移してはどうかと提案する。

 内容は昨年二月、屋良が参加する民間シンクタンク「新外交イニシアティブ」がまとめた。米側にもメリットとなるよう、アジア太平洋地域に展開する海兵隊を、日本が財政的に支援する仕組みを組み込む。「政治的に追求すればできないことはない」と力説した。

 「人道支援・災害救援」を目的に、海兵隊と自衛隊の「合同部隊」をつくることも提言の大きなポイントだ。

 「アジアでは大規模自然災害と、それに伴う政情不安などが課題になっている。一国で対応できない」と屋良。米軍はこうした活動を重視、自衛隊もこの分野で数々の実績があり、各国のお手本となっている。沖縄の基地負担軽減と同時に、日米同盟を深め、地域の安定に貢献する構想だ。

 屋良は北朝鮮の核・ミサイル開発問題や中国脅威論で、安保論議が「国防」に偏り、改憲論が先走ることを危惧する。

 「安全保障の概念は経済、文化、人的交流など幅広い。憲法九条を変えずにできることはたくさんある。安保論をもう一度、再構築するべきではないか」

 屋良と待ち合わせたのは、かつての琉球米軍司令部の跡地につくられた大型ショッピングモールだった。「ここには米国人も中国、台湾、韓国の人も集まる。司令部当時、こんなことが想像できただろうか。時代は変わっている」。そう言葉に力を込めた。 (文中敬称略、原昌志)

◆民間シンクタンク 「人道・災害支援で自衛隊と連携を」

アジアでの災害救援活動などに米海兵隊と自衛隊をより活用する案を語る屋良さん=沖縄県北谷町の米海兵隊施設前で

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 民間シンクタンク「新外交イニシアティブ」は昨年二月、普天間飛行場の名護市辺野古への移転が不要となるように、海兵隊部隊の県外移転を提言した。あわせて日米合同の人道支援・災害救援活動部隊の設立を提案、日本側が米側に高速輸送船を提供し、海兵隊部隊の駐留経費の一部を現行通り負担するなどの内容を盛り込んだ。

 自衛隊はこれまで、フィリピンの台風災害(二〇一三年)やネパール地震(一五年)など数々の国際緊急援助活動をしてきた。捜索や衛生、輸送などの能力に評価は高く、途上国を指導する事業も実施している。また陸自は〇二年から毎年、アジア太平洋地域諸国の軍関係者が意見交換する多国間会議を主催。災害救援活動時に連携の基盤となる関係構築を図っている。

 

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