1341/1341
番外577 境界公の領地視察
「よし……。今日はこんなところかな」
急ぐ必要のある物、次に古い順という優先順位で執務を進めていき、大体4分の3程の処理を終わらせたところで大きく伸びをする。
『こちらも一段落しました』
「それじゃ、片付けたら合流しようか」
『はい』
と、アシュレイとやり取りを交わす。
執務の内容としては領地内で起こった事の報告書。陳情があればそれも報告書に纏める。それらへの対処の仕方はどうするべきかを指示を出すといったものだ。
国庫と食糧庫の内訳。収支報告関係。方針と指示に対する進捗の確認。それら諸々の事柄から予想される懸念材料についての報告。
上がってきた報告に対する指示に関しては、ゲオルグの部下である文官達とやり取りして必要な時に対応しているので、改めて指示書を作る必要はない。しかし俺達が不在であるには違いないので、どういう報告に対してどういう指示を受けてその結果はどうだったかと、間違いや齟齬がないように文官達が書面に起こしてくれている。後から確認しやすいのは良い事だ。
それと……やはり、決済関係の書類が多いな。領地経営に関する内容の他に、劇場や温泉といった施設の収益、人件費や維持費といった必要経費の内訳を纏めた報告書といった内容だ。
計算に間違いがないか確認した上で、試算し、必要な予算の割り振りや承認をしたり……まあ、この辺は普通に事務仕事だな。
他には――領主だと、貴族家の誰それが、面会を希望してきたりというような申し出もあったりするものだ。大体は自身を売り込みにきたり繋がりを作る目的である。
殊更面接のような事はあまりしない。自身の陣営を強化する為。また繋がりを希望する面々の要望に応える為に宴を開催して、その席で優秀そうな人材を見出したり、有力な貴族家との繋がりを作ったりという方が一般的だ。繋がりを希望する側も、そうした宴を通して家長の人格や、家の隆盛の具合を見極めたりしているわけだな。
マルコムの父――前ブロデリック侯爵などは見栄を張り過ぎて見透かされていたようなところがあるが……あれは悪い例だな。
フォレスタニアの場合は――そうした人材発掘と募集の席は設けていない。
フォレストバードやテスディロス、ステファニアの下についていたゲオルグ達を既に雇い入れているというのもあるし、あちこちの王家や大貴族とも既に繋がりがあったりする。実際その繋がりで優秀な人材が集まったりしているので、領主としての仕事は別の形で果たしていると言えよう。
それに……フォレスタニア家で人材発掘目的の宴席を設けてしまうと、人を集めすぎて他の貴族家の不興を買ってしまいかねないという事情もあるからな。
王都タームウィルズの膝元で、迷宮の守りの要という他にはない事情もあるので、相応に信頼のおける人物でないといけない。だからそうした人材募集は暫く保留、という姿勢を明確にしておいて、丁度良いぐらいなのである。
俺自身もあちこちシリウス号で訪問しているし、魔法絡みの仕事をしているからちょくちょく不在で多忙だしな。
そんなわけで……シルン伯爵領側の執務も終えて、俺達はフォレスタニア側で合流した。
視察という事で、まずは城の一角にある、文官達の働いている職場に向かう。フォレスタニアにおける……所謂役所的な場所になるな。街中にも同様の役所的な施設があるが、これは手続きや陳情等をしやすいようにという理由による。
「これは境界公。どうなさいましたか」
と、俺達が顔を見せると文官達が立ち上がり、揃って一礼をしてくる。
「ああ、手を離せないならそのままで構わないよ。楽にして聞いてくれ」
そんな風に言いつつ、留守を預かってくれた事への礼の言葉を口にする。
「皆がしっかりと仕事を進めてくれているから、感謝している事を伝えておきたくてね。魔道具を介してのやり取りになって、慣れなところや仕事が増えているところもあるだろうに、こっちのやり方に合わせて貰ってきっちりと仕事をしてもらって、嬉しく思っている。遠隔でやり取りしてきた分、帰ってきたからには直接顔を合わせて伝えておかないと不義理かと思ってね」
「それは――勿体ないお言葉です」
と、文官の一人が少し目を見開き、やや感動したような面持ちで言った
「境界公のお考えになった魔道具や書類の様式も実に使いやすいものでしたから、我らとしても寧ろ仕事をしやすく感じておりますよ」
そうか。収支報告や予算関係はこれでやって欲しいと、地球側の記憶を参考に書式を統一してみた。見やすく考えやすいので仕事をしやすいと文官達には好評な様子で、アシュレイやステファニア、ローズマリー、クラウディアも見やすいと言ってくれているので、これに関してはやって良かったと思う。
因みに書式に関してはゴーレムに頼めばその場で様式を合わせたものを書いてくれるので手間いらずではあるが、その内コピー機的なものも開発したいところだな。
「我らとしてもこれからも仕事をしっかりとこなしていこうと身が引き締まる思いです。フォレスタニアで働ける事は、一同光栄に思っております」
と、文官達は深々とお辞儀をしてくれた。
それから街中の窓口側にいる面々のところも訪れ、同じように感謝の言葉を伝える。そうしてからみんなで街中の視察だ。
手を振る子供達に手を振ったりしながら街中を回る。注目を集めたりもするが、まあ、そこは領地内の視察中であるので挨拶以上の事はない。
視察といっても、昨日俺の帰還に合わせて訪問してくれた面々も一緒だったりして、そこまで堅苦しいものではないのだけれど。
但し、街中を巡回している武官達や詰め所にいる武官達にはきちんと声をかけていく。
「これは境界公、ご無事で何よりです」
「ああ。戻ってきたよ。留守をしっかりと預かってもらって嬉しく思っている。フォレスタニアを訪れる人がこうして笑顔なのも、皆が適切な仕事をしてくれているからだ」
と、伝えておく。彼らの仕事ぶりと街の様子。双方をしっかりと見ている事を伝えておく。治安の維持や警備は大事な事であるが、必要以上に高圧的になってしまうのも考えものだからな。
適切な仕事であるというのが最良、という匙加減が難しいところだが、ゲオルグの指揮もあって武官達もきっちりと仕事をしてくれているのが見て取れる。
そうして劇場や運動公園の人の入りを見たり、街中をいく冒険者の様子はどうか。商人や観光客の様子は等々、フォレスタニアの様子を見て行く。
「うむ……。上官がしっかりと仕事の内容を見ている。その仕事ぶりを認めていると声を掛けるというのは、士気向上に繋がるであろうな」
「武官と文官の性質の違いも考慮に入れているのね。武官からの報告書の具体的な内容に言及しすぎると、覚えを目出度くしようとやり過ぎたり、手柄をでっち上げる不心得者も出てくるかも知れないものね」
「代わりに、武官には理想とすべき指針を示したのは素晴らしいですね」
と、視察の様子を見ていたアウリアが腕組みをしながら頷き、ロゼッタとペネロープもそんな風に首肯する。それを聞いたカルセドネとシトリアが感心するように声をあげて目を輝かせていた。
ああ、うん。武官と文官は仕事の性質が違うから、確かにそこは気を付けていたけれど。
領主としての仕事、振る舞いにはまだまだ自信があるわけではないし、過信してもいけないとは思うのだが、アウリアやロゼッタ、ペネロープといった面々からそう言って貰えるのは中々自信に繋がるかも知れない。何だかんだ、アウリアもギルド長として慕われているし、ロゼッタも学舎の講師、ペネロープも巫女頭として人を指導したり、集団の長となる立場だしな。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
この小説をブックマークしている人はこんな小説も読んでいます!
奪う者 奪われる者
佐藤 優(サトウ ユウ)12歳
義父に日々、虐待される毎日、ある日
借金返済の為に保険金を掛けられ殺される。
死んだはずなのに気付くとそこは異世界。
これは異//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全240部分)
- 21458 user
-
最終掲載日:2017/12/29 18:00
Knight's & Magic
メカヲタ社会人が異世界に転生。
その世界に存在する巨大な魔導兵器の乗り手となるべく、彼は情熱と怨念と執念で全力疾走を開始する……。
*お知らせ*
ヒーロー文庫よ//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全135部分)
- 22067 user
-
最終掲載日:2018/01/02 01:32
ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント-
世界最強のエージェントと呼ばれた男は、引退を機に後進を育てる教育者となった。
弟子を育て、六十を過ぎた頃、上の陰謀により受けた作戦によって命を落とすが、記憶を持//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全178部分)
- 26112 user
-
最終掲載日:2017/12/28 04:15
蘇りの魔王
勇者に討たれ、その命を失ったはずの魔王ルルスリア=ノルド。
彼にはやり残したこと、解決できなかった問題がいくつもあったが、悪は滅びると言うお題目に従い、消滅した//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全272部分)
- 22140 user
-
最終掲載日:2017/03/23 18:00
レジェンド
東北の田舎町に住んでいた佐伯玲二は夏休み中に事故によりその命を散らす。……だが、気が付くと白い世界に存在しており、目の前には得体の知れない光球が。その光球は異世//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全1599部分)
- 30068 user
-
最終掲載日:2018/01/02 18:00
マギクラフト・マイスター
世界でただ一人のマギクラフト・マイスター。その後継者に選ばれた主人公。現代地球から異世界に召喚された主人公が趣味の工作工芸に明け暮れる話、の筈なのですがやはり//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全1751部分)
- 25386 user
-
最終掲載日:2017/12/27 12:00
金色の文字使い ~勇者四人に巻き込まれたユニークチート~
『金色の文字使い』は「コンジキのワードマスター」と読んで下さい。
あらすじ ある日、主人公である丘村日色は異世界へと飛ばされた。四人の勇者に巻き込まれて召喚//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全824部分)
- 27429 user
-
最終掲載日:2017/12/24 00:00
甘く優しい世界で生きるには
勇者や聖女、魔王や魔獣、スキルや魔法が存在する王道ファンタジーな世界に、【炎槍の勇者の孫】、【雷槍の勇者の息子】、【聖女の息子】、【公爵家継嗣】、【王太子の幼//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
完結済(全255部分)
- 22340 user
-
最終掲載日:2017/12/22 12:00
黒の召喚士 ~戦闘狂の成り上がり~
記憶を無くした主人公が召喚術を駆使し、成り上がっていく異世界転生物語。主人公は名前をケルヴィンと変えて転生し、コツコツとレベルを上げ、スキルを会得し配下を増や//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全491部分)
- 23940 user
-
最終掲載日:2018/01/01 18:00
八男って、それはないでしょう!
平凡な若手商社員である一宮信吾二十五歳は、明日も仕事だと思いながらベッドに入る。だが、目が覚めるとそこは自宅マンションの寝室ではなくて……。僻地に領地を持つ貧乏//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
完結済(全205部分)
- 32139 user
-
最終掲載日:2017/03/25 10:00
ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた
◆書籍⑧巻まで、漫画版連載中です◆ ニートの山野マサル(23)は、ハロワに行って面白そうな求人を見つける。【剣と魔法のファンタジー世界でテストプレイ。長期間、//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全192部分)
- 23624 user
-
最終掲載日:2018/01/02 21:00
蜘蛛ですが、なにか?
勇者と魔王が争い続ける世界。勇者と魔王の壮絶な魔法は、世界を超えてとある高校の教室で爆発してしまう。その爆発で死んでしまった生徒たちは、異世界で転生することにな//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全532部分)
- 24181 user
-
最終掲載日:2017/12/17 23:39
Re:ゼロから始める異世界生活
突如、コンビニ帰りに異世界へ召喚されたひきこもり学生の菜月昴。知識も技術も武力もコミュ能力もない、ないない尽くしの凡人が、チートボーナスを与えられることもなく放//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全443部分)
- 21734 user
-
最終掲載日:2017/06/13 01:00
進化の実~知らないうちに勝ち組人生~
柊誠一は、不細工・気持ち悪い・汚い・臭い・デブといった、罵倒する言葉が次々と浮かんでくるほどの容姿の持ち主だった。そんな誠一が何時も通りに学校で虐められ、何とか//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全115部分)
- 22707 user
-
最終掲載日:2017/12/23 19:31
聖者無双 ~サラリーマン、異世界で生き残るために歩む道~
地球の運命神と異世界ガルダルディアの主神が、ある日、賭け事をした。
運命神は賭けに負け、十の凡庸な魂を見繕い、異世界ガルダルディアの主神へ渡した。
その凡庸な魂//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全362部分)
- 24255 user
-
最終掲載日:2017/09/06 20:00
とんでもスキルで異世界放浪メシ
※タイトルが変更になります。
「とんでもスキルが本当にとんでもない威力を発揮した件について」→「とんでもスキルで異世界放浪メシ」
異世界召喚に巻き込まれた俺、向//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全398部分)
- 29358 user
-
最終掲載日:2017/12/31 23:32
デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )
◆カドカワBOOKSより、書籍版12巻、コミカライズ版6巻発売中! アニメ放送は2018年1月予定です。
※書籍版とWEB版は順番や内容が異なる箇所があります。//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全560部分)
- 34168 user
-
最終掲載日:2017/12/31 18:55
異世界迷宮で奴隷ハーレムを
ゲームだと思っていたら異世界に飛び込んでしまった男の物語。迷宮のあるゲーム的な世界でチートな設定を使ってがんばります。そこは、身分差があり、奴隷もいる社会。とな//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全221部分)
- 26495 user
-
最終掲載日:2017/11/30 20:07
フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~
※作者多忙につき、当面は三週ごとの更新とさせていただきます。
※2016年2月27日、本編完結しました。
ゲームをしていたヘタレ男と美少女は、悪質なバグに引//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全226部分)
- 24442 user
-
最終掲載日:2017/12/16 07:00
盾の勇者の成り上がり
盾の勇者として異世界に召還された岩谷尚文。冒険三日目にして仲間に裏切られ、信頼と金銭を一度に失ってしまう。他者を信じられなくなった尚文が取った行動は……。サブタ//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全859部分)
- 22377 user
-
最終掲載日:2018/01/02 10:00
ありふれた職業で世界最強
クラスごと異世界に召喚され、他のクラスメイトがチートなスペックと“天職”を有する中、一人平凡を地で行く主人公南雲ハジメ。彼の“天職”は“錬成師”、言い換えればた//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全298部分)
- 33882 user
-
最終掲載日:2018/01/01 16:00
二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む
魔王を倒し、世界を救えと勇者として召喚され、必死に救った主人公、宇景海人。
彼は魔王を倒し、世界を救ったが、仲間と信じていたモノたちにことごとく裏切られ、剣に貫//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全131部分)
- 21770 user
-
最終掲載日:2017/12/19 03:54
賢者の孫
あらゆる魔法を極め、幾度も人類を災禍から救い、世界中から『賢者』と呼ばれる老人に拾われた、前世の記憶を持つ少年シン。
世俗を離れ隠居生活を送っていた賢者に孫//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全126部分)
- 27809 user
-
最終掲載日:2017/12/24 06:11
異世界はスマートフォンとともに。
神様の手違いで死んでしまった主人公は、異世界で第二の人生をスタートさせる。彼にあるのは神様から底上げしてもらった身体と、異世界でも使用可能にしてもらったスマー//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全459部分)
- 22146 user
-
最終掲載日:2017/12/31 12:32
二度目の人生を異世界で
唐突に現れた神様を名乗る幼女に告げられた一言。
「功刀 蓮弥さん、貴方はお亡くなりになりました!。」
これは、どうも前の人生はきっちり大往生したらしい主人公が、//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全386部分)
- 28547 user
-
最終掲載日:2017/12/20 12:00
無職転生 - 異世界行ったら本気だす -
34歳職歴無し住所不定無職童貞のニートは、ある日家を追い出され、人生を後悔している間にトラックに轢かれて死んでしまう。目覚めた時、彼は赤ん坊になっていた。どうや//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
完結済(全286部分)
- 28394 user
-
最終掲載日:2015/04/03 23:00
転生したらスライムだった件
突然路上で通り魔に刺されて死んでしまった、37歳のナイスガイ。意識が戻って自分の身体を確かめたら、スライムになっていた!
え?…え?何でスライムなんだよ!!!な//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
完結済(全303部分)
- 28509 user
-
最終掲載日:2016/01/01 00:00