※初出2013-08-06
諸星大二郎は「妖怪ハンター」の連載当時からファンなのだよね。残念ながら妖怪ハンターの連載はわりと短期で終わってしまったが。作者はあとに「新人にいきなり週刊連載は無理だった」と述懐している。ただこのシリーズ、後に「稗田礼二郎のフィールドノート」として続編が書かれている。妖怪ハンターシリーズはヒルコがでてくる第1話「黒い探求者」がものすごく面白い。あとは「ぱらいそさいくだ」の「生命の木」かな。
んで「栞と紙魚シリーズ」。なんかよくわからない世界。第1話なんか、拾った生首を水槽で飼うというよくわからない話。腹が立つほど「面白くない!」と思った。いま読んでもやっぱこの話は面白くない。ただ単行本が6巻ぐらいでてるんだよね。
栞と紙魚子の生首事件
栞と紙魚子と青い馬
栞と紙魚子 殺戮詩集
栞と紙魚子と夜の魚
栞と紙魚子 何かが街にやって来る
栞と紙魚子の百物語
やっぱエピソードによっては面白くないものもあるのだけど、あとになるほど面白い比率がだんだん増えている。
この中に「段先生の奥さん」というキャラが出てくる。ホラー作家の段一知の奥さんで、よくわからない。少なくとも人間じゃない。最初のうちは物陰から顔だけで登場してたんだよね。ただ顔の大きさが尋常じゃない。顔だけで1メートルはあるような。
体は常に物陰とかコマの外にあるので、どうなってるのか長らく謎だった。段先生の家に訪ねて行くとお茶を出してくれるのだが、やっぱ見えるのは顔と、顔のわりに小さな手。その手が仰々しくお茶を勧めてくれる。
話が進むに従って、ときどき町を出歩くようになったけれど、やっぱ見えるのは顔だけ。作中の登場人物には体が見えてるらしくて、奥さんを見て目を丸くしてたりする。でも読者から見えない(笑)。
主人公たちは(もちろん彼女らは人間)ときどき異界に紛れ込むのだけど、その世界でもなんか巨大なものがいる。巨大すぎて手(と思われるもの)しか見えなくて、本体がどうなってるのか謎。
こういうのっていいよね。なんというか見ているものは世界の一部でしかない、というか。なまじ見えそうで見えないのがいい。ちょっとコマのアングルを変えてくれれば、全体像が見えるのに…というもどかしさ。
まあ、諸星大二郎の描く「怪物」ってのは、なんかゴツゴツした肉の塊っぽいものが多いから、きっと全体像が見えてもそんな感じなんだろうけど(笑)。
ちなみに段先生の奥さんは、第5巻ぐらいでついに全体像を表した。体は普通の人間で顔だけがでかい。ただこれが本当の姿かというと疑問で、便宜的にこのサイズになってるだけのようにも思える。ときどき奥さんの本性っぽいものが描かれるんだけど、なんか体はないんじゃなかろうか。空間と同化しててよくわからないんだよね。
ちなみに初期の顔だけの登場時はこんな感じ。
段先生と奥さんの子供がクトルーちゃんなので、なんとなく邪神っぽいのだが、奥さん自身はまったくそんなことはなくて、すごくいい人。ちょっと(人間からは)いろいろ感覚がズレてるけど。
で、なんとなくポニョを思い出すのだよね。順序が逆か。ポニョっていろいろ姿が変わるけど、その一つってインスマス顔だよね。クトゥルー神話に出てくる怪物。考えることは同じで、ポニョとクトゥルーちゃんの類似性を論じているブログ。
母親が巨大なことと父親がなんとなくとぼけた人間なのも…。そういえば段先生の奥さんって名前が出てこないんだよね。
ちなみにクトルーちゃんというのは、よくある「化物だけど愛くるしいマスコットキャラ」…という要素は微塵もなく、ただひたすらわけの分からない行動をとる子。手足が伸びたり増えたりするので少なくとも人間じゃない。
このシリーズ、もう新しい話は出ないんですかね?妖怪司書の十口木一(漢字を合成すると「古本」になる)が登場してから、比較的明るいエピソードが増えて好きなんだが…。