消えた終活資金追う 会費で葬儀保証組合破産 会員2000人「詐欺では」 あなたの特命取材班

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「終身の葬祭保証」とPRしていた福岡県ゴールド事業協同組合のパンフレット。会員にはカードを発行し、会費納入を求めるはがきが毎年送られていた
「終身の葬祭保証」とPRしていた福岡県ゴールド事業協同組合のパンフレット。会員にはカードを発行し、会費納入を求めるはがきが毎年送られていた
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組合の事務所は施錠され、数カ月前からの新聞がたまったままだった=昨年12月22日、福岡市西区
組合の事務所は施錠され、数カ月前からの新聞がたまったままだった=昨年12月22日、福岡市西区
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 「これって詐欺じゃないですか」

 昨年12月中旬、憤るファクスが西日本新聞社に届いた。送り主は福岡県中間市の男性(77)。詳しく聞いてみると、18年前に加入して以来、毎年会費を払ってきた福岡市の葬儀保証組合が突然、破産手続きを開始したのだという。

 死亡した際に提供されるはずだった葬儀サービスはもう受けられない。「文句も言えず、泣き寝入りするしかないのでしょうか」

 破産した組合は「福岡県ゴールド事業協同組合」(福岡市西区)。パンフレットによると、「終身の葬祭保証」をうたう「FGカード」の場合、毎年1万1千円の会費(掛け捨て)を払うと、満75歳以上は35万円、74歳までは60万円相当の葬儀サービスを提供する。男性は知人の紹介で1999年5月、夫婦で加入。毎年送られてくる「会費納入のお願い」のはがきに従い、昨年までに計41万8千円を支払っていた。

 この組合を巡っては、ほかにも同様の内容を訴える匿名の手紙が本社に届いた。《子どもに心配させたくないために、わずかな年金から払ったお金が何の説明もなく消えてしまった》

 特命取材班は組合事務所を訪ねた。看板が残っているものの扉は閉じられ、人けはない。法務局で入手した登記簿を頼りに、組合の代表理事の住所である同県筑後市を訪れると、そこは葬儀業者の事務所だった。

 不在の代表理事に代わって、共に葬儀業を営む妻が取材に応じた。「組合事務を取り仕切っていた男性が7月に亡くなり、財務を調べたところ、ほとんどお金が残っていなかったのです」。現時点の会員数は、2千人程度に上る。どうしてこんな事態になったのか。

 取材を進めると、日本社会が直面する人口構造の急激な変化が背景に見えてきた。

   ◇    ◇

 死亡後の葬儀サービスを約束して会員を集め、昨年12月に破産手続きを開始した「福岡県ゴールド事業協同組合」(福岡市西区)。代表理事の妻によると、組合は1983年、四つの中小葬儀業者で設立された。業界では当時、冠婚葬祭に備えて現金を積み立てる互助会を持つ大手業者が勢力を拡大しており、顧客の囲い込みが主な目的だった。

 各業者が地区ごとに代理店をつくり、個別に会員を募集した。会員はその地区の業者で葬儀を行えば、サービスを受けられる。

 その後、日本はバブル景気に突入する。事業は急成長し、会員数は3千人近くに伸びた。構成する業者同士で海外旅行に行くなど羽振りは良かったという。

 一時の活況はバブル崩壊で一変。家族葬など、葬儀のあり方も変わり始めた。

 高齢社会から「多死社会」に向かう人口構造の急激な変化も直撃した。厚生労働省の統計によると、組合を設立した83年、日本の死亡数は約74万人、出生数は約150万人。これに対し、2016年の死亡数は戦後初めて130万人を突破し、出生数は90万人台に落ち込んだ。

 人口は減少し、亡くなる人は増える。会員数は伸びず、葬儀サービスは増えていく。詳しい運営実態は不明だが、組合の財務状況は急速に悪化し、15年ごろから各業者への支払いも滞るようになったという。「時代の変化についていけなかった。高齢化した会員の死亡が増え、支払いが回らなくなったのだと思います」と代表理事の妻は語った。

 組合会員約2千人のうち、代表理事を務める福岡県筑後市の葬儀業者が集めた会員は約400人。組合と同じ水準のサービスは約束できないが、この業者に葬儀を依頼することを条件に、掛け金総額分を葬儀代から差し引くと説明したという。「地元からの信頼でやっている商売。逃げも隠れもできません」

     ■

 死亡数がピークを迎える40年ごろには、斎場や火葬場の不足が予想されている。業界関係者によると、成長産業である葬儀業界は今、大手を軸にした再編、淘汰(とうた)のさなかにある。

 組合とは仕組みが異なるが、冠婚葬祭費用を積み立てる互助会を巡っては、全国的にトラブルが相次いでいる。国民生活センターによると、互助会に関する相談は15年度まで年間3千件超で推移。ここ2年は減少傾向だが、17年度も12月下旬までに、解約料などを巡る1432件の相談が寄せられた。

 行政による監督はないのか。中小企業庁によると、組合による葬儀サービスの提供は中小企業等協同組合法が定める「共済」事業に当たらず、規制対象ではなかったという。

 組合はパンフレットで「(福岡)県認可の協同組合だから安心です」とPRしていた。特命取材班が情報公開請求して入手した県の文書によると、1987年に認可され、事業報告書を毎年提出していたが、法律には県の監査を求める規定はない。組合は、法の網からこぼれた存在だった。

     ■

 18年前から会員だった同県中間市の男性(77)が加入した組合の代理店は、北九州市にあった。代理店を営んでいた葬儀業者の斎場は12年、経営難から別会社に譲渡され、サービスは受けられない状態だった。男性は知らぬまま5年間、会費を払い続けていたことになる。「悔しいが裁判を起こす力はない。割の良い話を信じたのがばかだった」

 この葬儀業者の元社長は亡くなっていた。妻は取材に話した。「勧誘した会員さんには気の毒だと思います。私自身も会員として年会費を払ってきました。譲渡後もサービスは受けられると信じていたのに」

 組合の破産管財人の弁護士は取材に応じていない。会員に「資産の配当の見込みはない」と伝えている。

 葬儀や墓の準備を含めた「終活」がブームの今日。葬儀を巡る組合事業の破綻は、成長神話を信じて疑わなかったバブル経済の負の遺産でもある。子どもたちに迷惑を掛けたくないという高齢者たちの思いは翻弄(ほんろう)され、宙に浮いたままだ。

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=2018/01/01付 西日本新聞朝刊=

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