「なんでもかじりつきたい。100%覚えなくても、70%ぐらいでもいいんじゃないかなと思って、何でも挑戦します」
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そう話すのは「自撮りおばあちゃん」こと西本喜美子さん。熊本県に住む89歳のアマチュア写真家だ。
楽しそうなものすべてにかじりついて来た。美容院の開業や競輪選手、カメラ、Adobeの年賀状アートディレクター……喜美子さんの多彩な経歴は延々と続く。
72歳から始めたカメラでは、彼女が持つド直球なユーモアと独特な感性で世界を驚かせている。
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そんな喜美子さんの原動力とは。年齢関係なく人生を楽しむコツとは。写真展のために東京に訪れていた喜美子さんと長男・和民さんに話を聞いた。
喜美子さんがカメラを持ち始めたのは、長男・和民さんが開催する写真講座「遊美塾」の生徒が、家に遊びに来た時に写真を披露していたのがきっかけだった。
「『あぁ、良いですねぇ!』って言って見ていたら、『お母さん、入んなさいよ!』とお友達に言われて。翌日、迎えにおいでたんですよ(迎えにいらっしゃったんですよ)」
「迎えにおいでたんなら行かなきゃ、と思って行ったのが始まりです」
初めて持ったカメラは重たく感じたそうだ。喜美子さんは当時の感情をブログで綴っている。
半ば強引に誘われて「おばあちゃんだから皆さんに迷惑かな?」と思いながら参加してしまったのです。
長い人生でカメラなんか触った事もなく、もちろん写真がどうやって出来てくるのかも知らないのです。
主人は昔からカメラ好きでしたが、私に写真の話などしてくれた事はないので、な〜んもわからんのです。
そんな主人に「写真始める」と言ったら「何だと!」と返ってきました。
怒られる理由はないのですが、まちがいなく怒った顔だった。
しばらくして、ムスっとした顔で「これ使え」と出してくれたのは、びっくりするくらい重たいカメラでした。そのカメラはニコンF100という名前でした。
主人はすごい早口で使い方を説明して、2本のレンズと一緒にポンと私に渡しました。
ん??? な〜んも意味わからんのです。
ま〜いいか、ここ押せば写るとか言ってたからなんとかなるでしょ!
これが初めてカメラを手に入れた瞬間でした。訳のわからないまま、遊美塾の仲間にカメラ操作を教えてもらいながら、いろんなものをカメラ越しに見る生活が続きました。腰が悪いので早く歩けないのですが、皆さんに助けてもらいながら短期間で山のようにフィルムを使いました。
出来上がった写真たちは、決して上手ではないけど全部がイキイキしてて、嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
私が重いカメラを必死にささえて撮ってる姿を見たのでしょうか、主人が少しでも軽いカメラでと、ニコンF80を買ってくれました。ビシッと撮れるようにと三脚も。アップが撮れるようにとマクロレンズも。適正露出で撮れるようにと露出計も。
とてもありがたかったけど よけい重くなった。。。
ファインダーを覗くと見えたのは、無限大のアートの世界だった。
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鳥のフンも、喜美子さんとカメラを通すと、自然が生んだアートに見えるのだ。
「カメラを持つ前は、『あら、ゴミがついてる』っていうて拭いちゃっていたんですよね。でもカメラを持ったら、逆にアートに見えて綺麗なんです。すぐシャッターを押します」
「みなさんが習っているのが、とても新鮮で良く見えるんですよ」
カメラを始めてから2年後、「遊美塾」にiMacが導入された。写真加工の講座が開かれると塾生たちの間で話題になった。
「みんなが盛り上がっていて、何か新しいことが始まるらしい。私も行かなきゃ!」というノリで喜美子さんも参加し、Photoshopを学び始めた。
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「遊美塾」で開講されるものを受けてきた喜美子さん。映像講座で15秒CMも作ったり、ブログで塾の仲間とランキングを競い合ったり、クラフト講座でレザーのカバンを作ったりした。
過去にはHTMLを使って熊本弁の単語にマウスオーバーすると標準語が表示されるホームページも作った。
「何でもやってみないと、できるかどうかわからない。『面白いな』『自分もできそうだな』『難しいな』とか思いながらも、やっていけたら良いかなぁ、と入っていくんです」
喜美子さんは、周りに流されるのは悪いことだとは思っていない。
「みなさんが習っているのが、とても新鮮で良く見えるんですよ。私もその仲間に入りたいな、やってみたいなという、欲張り精神ですかね?もうやってみたいという感じだけですよ」
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「やってみないと、わかんない」。喜美子さんが繰り返すこの言葉が、彼女の原動力となっている。
初めてやってみたら「あ、面白いな」とわかる。嫌だったらやめるだけ。
「失敗を恐れていたら、何もできないです。だから失敗して、初めて覚えていくんじゃないですかね」
90歳を迎える今でも、喜美子さんは常に新しくて面白いことに挑戦し続けている。
その一つが、クラウドファンディング。写真やクリエイターが夕方から集まれるバーを遊美塾の仲間たちと作るのが夢だ。
「第三の人生」を生きる
喜美子さんは、いま、「第三の人生」を生きていると和民さんは話す。
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第一は学校や親から学んでいるとき。第二は社会人。そして、第三は老後だ。
「第三は老後、という人生があるのに、周りが『何もするな』とか『危ないことをするな』と言ってしまう。それって、来るべきXデーを、ただ待っているだけでしょ。人生じゃない」
「無理矢理でもいいから、やらせること。『第三の人生』のチャンスときっかけをあげる。そして、継続するような工夫をしてあげる。これをやるのは、家族の責任だから」
騙されても良いから、とりあえずやってみたら?と家族がアクションを取るのが大事だという。
そして、喜美子さん自身も友人や和民さんに「騙されてよかった」という。
「騙されてなかったら、家にじーっとしていますよね。そうすると、歳をとっていくだけなんです」
腰が悪く、杖がないと歩けない状態だが、それでもカメラを続けていきたいと意気込んでいる。そこまで思えるのは、周りに騙されたおかげだという。
「上手下手は別として、写真に撮る楽しみがありまして。元気なうちは、みなさんとも会えるし。みなさんの中に入らないと、いろんなことを覚えないんですよね」
「みなさんのおかげで、私は成り立っている」。共に新しい自己表現にチャレンジしている遊美塾の友達は、喜美子さんにとって大事な「仲間」だ。
タバコも好き。砂糖も好き。お酒も好き。夜遊びも好き。
喜美子さんと話していると、年齢を全然感じさせないくらいパワフルだ。それもそのはず、「自分を老人だ!と思ったことはないです」と話す。
「周りがみなさん若くて、自分の子どもみたいな年齢でしょ。そこに入っていったら、かえって自分の歳を忘れますね」
「だから自分の歳を忘れて、たまにはバーボンを飲みにいきます(笑)」
なんと喜美子さん、深夜の2、3時まで行きつけのバーでバーボンを飲みながらタバコを吸っているそうだ。
「健康食は大事という話はよく聞くんですよね。タバコは体に悪いとか。野菜は体にいいとか。だけど、あんまりそれには関心がないんです」
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「タバコも好き。砂糖も好き。お酒も好き。夜遊びも好き(笑)」
夜遊びは息子と一緒にするのが鉄板だという。
「主人がおるときも、夜遊びはよくやってました。息子が一緒だからって安心感がありますよね。黙って許してくれてました」
バーでお酒を楽しんでいると、マスターやスタッフなど喜美子さんのファンが話しかけて来るという。
「もう嬉しいことですよね。バーボンを飲みながら、いろんなお話もできるし。話の中に、たまに知らないことも出てきますので、『あ、そうかぁ』と覚えることもあります」
「夜遊びが大事。一口で言えばそうですね。知ることもたくさんありますので、その楽しさもあります。いいこと悪いこと、色々と学んでいきますんでね」
喜美子さんの人生の楽しみ方
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「今が一番楽しいですよね、人生は」と語る喜美子さん。そんな彼女に人生を最大限に楽しむコツを聞いた。
「自分でやりたいことを何でもやって、自分なりに楽しんでいくということ」
「100パーセントできなくても、70パーセントぐらいできればいいかなと思って挑戦してみることだと考えています」
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写真で自分らしさを表現する楽しみを見つけた喜美子さん。これからもずっとカメラで撮り続けるという。
「ひょっとすると、動けなくなっても、お布団の中に入ったままでも、カメラ持って家の中を写しているでしょうね」
しかし、喜美子さんは満面の笑みですぐ言い直した。
「多分そうですよ」
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西本喜美子写真展『遊ぼかね』
- 開催日時:2017年12月15日(金)~2018年1月18日(木)
- 10:30~18:30 最終日は14:00まで 。日曜休館・12月28日〜1月4日年末年始休館
- 会場:エプソンイメージングギャラリー エプサイト(東京都新宿区西新宿2-1-1 新宿三井ビル1階)
- 入場料:無料
バズフィード・ジャパン ニュース記者
Eimi Yamamitsuに連絡する メールアドレス:Eimi.Yamamitsu@buzzfeed.com.
バズフィード・ジャパン スタッフライター
Yui Kashimaに連絡する メールアドレス:Yui.Kashima@buzzfeed.com.
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