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え～本日は元旦ファーストデーで映画をはしごする予定が、最初の一本、原作・綿矢りさ／主演・松岡茉優「勝手にふるえてろ」が空前の大傑作だったためにいきなり脳みそが宇宙の彼方まで吹っ飛ばされてこの一本しか見られませんでした。松岡茉優は初主演作にして映画史に残る金字塔をブチ立ててしまった

この映画で松岡茉優が表現に成功したのは「非モテ女子の悪戦苦闘」という表層よりもっと深く普遍的な、この時代に生きる女性の一定層が確実に心に抱えてしまう、鍾乳洞のように複雑な心の構造だと思う。それは複雑でありながら相似性を持っている。同じ社会の力が別の心に削り取った構造だからである

この映画を見た女性観客の何人かは銀幕を指さして「これだ！」と叫びたい衝動にかられるのではないかと思う。「今まで色んな映画で腐女子とか非モテとかいかにもそれっぽい女性像が描かれては『あ～でもなんかちがう、でもしょうがないか』と思ってきたけど、これだ！っていうか松岡茉優、お前だ！」と

松岡茉優より年上の女性の「ある層」は「松岡テメーなんであたしと同じ時代に生まれなかった！あの時代にお前がいてくれたら世の中はもっとなあ！」と叫びながら松岡茉優の頭をバンバン叩きたい衝動にかられると思う。松岡茉優と同世代以下の「ある層」にとっては一生かけがえのない女優になると思う。

松岡茉優が『勝手にふるえてろ』で表現に成功したのはそういう社会の中の不可視な女性層、見えてはいるのに誰も名前をつけることができず、それ故に誰にも本当の名前を呼ばれたことがない人々で、それは『レインマン』でダスティン・ホフマンがサヴァン症候群を世界で始めて表現したのに似ていると思う

こればかりは言葉で「こういうシーンがあって、松岡茉優がこういう台詞を吐くのがよく表現できてる」というレベルの話じゃないんですよね。見ればわかるけど、松岡茉優の演技ってもっとはるかに深く、挙動とか声とかそういう身体の深いレベルで心の形を表現している。本当に恐ろしい女優だと思いました

松岡茉優さんが高校時代にずっと1人だった、本当に友達がいなかったというのも、ここまで見事に演じられたひとつの理由ではあると思います。でも孤独な人がカメラの前で自分の孤独を表現できるかというと、自分の孤独を再現して他人に伝えるというのは自分を客観視してないとできないんですよね。

なので松岡茉優、やっぱり天才女優だと思う。この初主演作で元々高い評価がさらに天井を突き破った。松岡茉優しかできない役、他の誰にもできない演技なのに、巨大な層がそれを必要としている。「俺は混沌の代理人だ」というのはジョーカーの台詞だけど、現代女子の心の混沌を代弁できる唯一人の女優。