(cache)山本貴光・服部徹也 対談 来たるべき文学のために 『文学問題(F+f)+』(幻戯書房)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 特集
2018年1月1日

山本貴光・服部徹也 対談
来たるべき文学のために
『文学問題(F+f)+』(幻戯書房)刊行を機に

文学問題(F+f)+ (山本 貴光)幻戯書房
文学問題(F+f)+
山本 貴光
幻戯書房
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今から一一〇年程前、「文学とはなにか?」という素朴にして根源的な問題に取り組んだ夏目漱石。
その漱石が『文学論』で提起した大きな問いを受け取り、現代の観点から更新する新たな文学論、山本貴光著『文学問題(F+f)+』(幻戯書房)が上梓された。 
本書は『文学論』を現代語訳と解説で完全読解、文学の定義(F+f)を文学を読み解く道具として再生し、人文学の見地から多様な学術領域と連関して「文学とはなにか?」に迫る。漱石が打ち立てた文学の定義(F+f)は本当に有効だったのか、現代にも通用するのか、そもそも文学のなにが問題なのか。
『文学論』との出会いから四半世紀をかけて本書を刊行した、著者の山本貴光さんと、夏目漱石『文学論』の研究者である服部徹也さん(慶應義塾大学大学院)に、二〇一七年九月に開館した新宿区立漱石山房記念館で対談していただいた。
(編集部)
目 次
第1回
漱石の『文学論』をアップデートする
2018年1月1日
第2回
F(認識すること)f(認識に伴って生じる情緒)
2018年1月2日
第3回
この時代に『文学論』を読む意義
2018年1月3日に公開

第4回
漱石の見立てはいまも有効か
2018年1月4日に公開
第5回
批評のチカラ、欲望の感染力
2018年1月5日に公開
第6回
感情のハッキング、置き土産のように
2018年1月6日に公開
第1回
漱石の『文学論』をアップデートする

服部 徹也氏
服部 
 『文学問題(F+f)+』(幻戯書房/以降『文学問題』)を読んだ感想からお話したいと思います。現代語訳とわかりやすい解説で漱石の理論が読めることがまず何より素晴らしい。『英文学形式論』から始めてくださったのも画期的です。本になった『文学論』がすべてだと思っている方が結構多いのですが、もともと両者は講義でつながっていたものです。文学の形式を論じたあとに文学の内容論に入っていくのだという流れがわかるように構成なさっていますね。個人的に面白かったのは、図がたくさん入っていることです。まず本の帯に図がある。気になって開いてみると、ふんだんに図解が用いられている。八六頁で図への愛を感じる(笑)。そして第三部の「来たるべき『文学論』へ向けて」で圧巻の「文学論全域マップ」(図二八/五二六―五二七頁)に至る。本文を読む前にこの図を見て、「六〇〇頁近い本を読み通した頃には、この図がわかるようになるんだ!」とワクワクしました。
山本 
 ありがとうございます。私はものを考えるときにいつも図を描くんですよ。とりわけゲームやプログラムのように複数の要素が関係しあうような物事について考えるような場合、頭の中だけではなかなか捉えきれないので図にしてみる。そうすると、構造と変化を想像しやすくなります。この本を書くあいだもノートにたくさんの図を描きました。そこから読者の理解の助けになりそうなものを選んで入れてみたわけです。特にいま触れてくださった図は執筆の過程を通じて何度も描き直しながらその形に至ったものです。お話を伺って、巻頭に置けばよかったかなと思いました(笑)。
服部 
 「文学論全域マップ」は文学をとりまく大きな動きや広がりを可視化した図だと思います。「コンピュータサイエンスが入ってるぞ」とか、意外な入口がたくさんあって、『文学問題』は色んな人が入っていける本なんだと一目で解る。本書を読んでいくと、図が頭の中で動き出すような瞬間が楽しくて、読み進むエネルギーになりました。それと脚注が圧巻で、本文と脚注は別の人格が書いているのではないかという気さえしました。というのも本文はかなり抑制的に、ユーザーフレンドリーに書かれている感じがするのですが、脚註・文献註ではリミッターを外して、まるで「人文学」が語っている印象です。まさに新しい「百学連環」、文学を考えるならこんな広がりの中で考えてごらんよと、天窓を開かれたような清々しさを覚えました。
山本 
 そのように読んでいただけたら、本当に冥利に尽きます。脚注は映画の副音声で解説をするようなノリで、ご指摘のように遠慮せずに、最初は五万字くらい書きました。ゲラにしてもらったらあちこちでページから溢れるものだから、泣きながら削りに削ってようやく収めたのです(笑)。なぜそんなことをしたかというと、この本のもう一つの隠れたテーマに関わります。つまり、文学という営みを捉えてみようと思ったら、まさに漱石がそう考えたように、文学だけで捉えることはできません。文学は孤立した真空中のような場所で行われているわけではなく、世界の中、社会の中、生活の中、その他いろいろな営みの中にある。しかも文学の面白いところは、言葉によって、それらすべてを作品の材料にもできる。そうした文学という巨大な器のことをもっとよく考えようと思ったら、百学の力を借りるにしくはないし、創造的だと考えたのですね。そんなふうにして、脚註ではともかく分野を問わず、文学からつながっているものをあらわし、ハイパーリンクのつもりで貼っていった。そんなわけで、認知科学の本もあれば、社会学の本も自然科学の本も脚註に入っているわけです。その結果、文学とはそれら全てとつながっているし、なんならそれら全てを扱えてしまうすごいものだということを裏側から照らし出せたらいっそう楽しいかなと。註釈はそんなふうに読んでいただければ面白いのではないかと思います。

この記事の中でご紹介した本
文学問題(F+f)+ /幻戯書房
文学問題(F+f)+
著 者:山本 貴光
出版社:幻戯書房
以下のオンライン書店でご購入できます
2018年1月5日 新聞掲載(第3221号)
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