「男に対するパワハラは、男の尊厳を踏みにじるもので、女がセクハラを訴えるのとはまた違った種類のハードルがある」。経験者として表面化しにくい構造を語る元部長。
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岸勇希氏によるセクハラ事件は、発生時の責任者(ライン長)が現在の社長である山本敏博CDC長だった点からも深刻だ。山本社長の足下で起きた事件につき現実を直視できない電通に、長年染み着いているセクハラ・パワハラ体質の改善は見込めそうにない。パワハラ被害体験手記を寄せた電通元部長は、局長補以上の人たちの半数以上が『自己愛性人格障害』を発症している、と分析。「どの部署に行っても体質が同じだから辞めるしかなかった」と、絶望的な心境を語る。クラッシャー上司のもとで部下のモチベーション破壊が進みつつあるという電通は、どういう体質を持った組織なのか。電通のみならず他社の取材経験も豊富な編集長・渡邉が、詳細を聞いた。
【Digest】
◇「上」に対しては丁寧なので気づきにくい構図
◇責任者はCDC長の山本社長
◇加害者に自覚なく「熱血指導してやった」感まで
◇「局長補以上で半分以上が自己愛性人格障害を発症している」
◇対策はすべて形式的、辞めるしか逃げ道がない
◇局長・局長補にまっとうな人間がいなくなった
◇社内セクハラは「黙認」「もみ消し」「社内示談」
◇「上」に対しては丁寧なので気づきにくい構図
――このタイミングでパワハラ体験をお話になろうと思ったきっかけは、例のセクハラ告発でしょうか?
「岸氏、はあちゅう共によく知る私としては、電通のセクハラ・パワハラ体質の根深さを改めて痛感し、改善に向かわせるためにも、この機会に自分の体験について、きっちり文章に残して伝えるべきだと思いました。岸は花形部署であるCDC(コミュニケーション・デザイン・センター)のエース的存在で、私も当時、CDCに所属し、岸を含む数人で飲みに行ったこともありますし、はあちゅうは、名古屋から東京に異動してきた時、『先輩に指導して貰え』という岸からの指示で、私のところに挨拶に来ています」
――同じ部署にいて、当時は、セクハラに気づいていましたか?
「それが、全く気づきませんでした。噂も耳にしませんでした。今おもえば、最初の印象が、不自然におどおどしていたので、すでにセクハラを受けていたのかもしれません。プランナーとして成功していた岸に対して、はあちゅうは新米の弟子。徒弟制度なので、上司には逆らえない関係でした。一方で、私を含む目上の人に対しては、丁寧に接していました。体育会カルチャーだからです。上に対しては丁寧なので、気づきにくいのです」
◇責任者はCDC長の山本社長
――岸氏の上司、つまりこの事件について管理責任を負うライン長は誰でしょうか?
「当時で100人弱の組織だったと思いますが、その時期(はあちゅうが東京に異動してから辞めるまで、2009~2011年)のコミュニケーション・デザイン・センター長は山本敏博、つまり現在の社長です。岸は、山本社長と仲がよくて、今年の春に独立して刻キタル社を設立する際には電通も出資し、協力関係を続けると発表しています」
※山本敏博プロフィール:2009年4月、コミュニケーション・デザイン・センター長に就任。2010年4月、MCプランニング局長も兼務。2011年4月、執行役員兼同センター長。2014年6月、取締役執行役員。2016年1月、常務。2017年1月、社長。
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山本敏博社長経歴(電通公式サイトより) |
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――深刻なセクハラ事件の責任者、当時のライン長が、その後、社長にまで昇進しちゃって、加害者の会社に出資まで決めているあたり、電通のヤバい体質を象徴していますね。仕事さえデキれば、セクハラ・パワハラは容認、という体質なのでしょうか?
「岸は、連日、夜中まで、仕事はすごくやっていました。典型的な電通マン、つまり、『自分こそ一番デキる男だ』とマウンティングし合うマッチョ体質を持っていて、社内で張り合っていました。机に足をあげるなど普段の態度が尊大で、派遣社員からは嫌われていましたが、上司への対応は丁寧なので、問題社員とは誰も思っていなかった。トヨタ『AQUA』キャンペーンのほか、百貨店のブランディングや、生姜という食材の可能性に着目した『永谷園生姜部』などニッチなマーケティングも手掛けていました。
30代で局長クラスの待遇にまで出世していますし、そういうデキる上司によるパワハラ・セクハラは、『厳しい指導』の一環として当然あるもの、という空気でした。
電通は、日本相撲協会の体質と似ています。白鵬が、横綱の品格とは勝つ事だ、と言ったそうですが、その強者を戒める構造を持たないところが似ています」
――ご自身のパワハラ被害は、CDCの後に異動した別の局で発生したわけですが、加害者である局長も、仕事はデキる人でしたか?
「確かに、その局長も、かつては仕事がデキた人です。その局長が部長だった時代に、ヒラだった自分と同じチームで組んで仕事を成功させたこともあります。その当時は、ぜんぜん普通だったのですが、局長に昇進し、エラくなったら、急変したんです」
――周りに、暴走を止められる人がいないのも、組織として腐っていますね。
「私は、局次長(局長補)3人に対して『自分は気がふれました』というメールを送らされたわけですが、こういう明らかに常軌を逸したメールを受け取っても、局次長3人はダンマリを決め込んでいました。キチガイ集団だ、と思いました」
◇加害者に自覚なく「熱血指導してやった」感まで
――客観的にみて、学生時代からネット上で有名人だったはあちゅうに反撃されることを、岸氏は、リスクとして認識しなかったのでしょうか?実際、今回の告発を受けて社会的に抹殺されたわけですが。
「本人は、悪いことをしているとすら思っていないんです。客観的にみると、あのセクハラはひどい。私はさすがに『自宅の部屋まで来い』とまでは言われていませんから。はあちゅうは、私よりもひどいめに遭っている。それでも、本人は『夜遅くまで指導してやっている』という認識なのだと思います」
――電通では、罪の意識なく犯罪的なことが行われている?
「実際、私の場合もそうだったんです。明らかに犯罪的なことをやっているのに、本人には、『嫌われることをしている』という意識すらないようです。むしろ『熱血指導してやったのに、あいつは義理を欠いている』とすら思っているはず。その証拠に.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。
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電通のセクハラ・パワハラ対策は、すべて「仏作って魂入らず」の形式的なもので、まともに運用されていなかったという |
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ハラスメントを受けても、給料が高すぎるために7~8割の社員は転職先が見つからず、耐えながら名刺にしがみつくしかなくなる構造があるという |
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