高校生起業家が億単位の資金を集める時代。大学生が社長を務めるスタートアップは、さらに本格的な成長ステージに入るケースが増えてきた。その裏側でじわり目立ち始めたのが、「大学卒業より事業優先」で中退を選ぶ若者たち。授業に出る時間を惜しみ、大卒という肩書にすらこだわらない彼らの価値観を探った。
■親には事後報告。進路は自分で
【立命館アジア太平洋大中退】Nitronの満田聖也社長
「とにかく若いうちに社会で経験を積みたかった。世の中に新しい仕組みをつくりたい」。営業クラウドソーシングサービス「kakutoku」を手がけるNitlon(ニトロン、東京・渋谷)社長の満田聖也(22)は2017年春、大学をやめ事業に絞った。会社設立から2年弱、平均年齢が6歳上の社員たちを率いる満田の語り口は落ち着き払っている。
熊本商業高校時代は米アップル創業者のスティーブ・ジョブズに憧れ、地元熊本でプレゼンテーションをしあう団体「FDM」を主催。30~50歳代の中小企業経営者らと毎月、議論を交わした。
世界で活躍できる能力を得ようと、留学生が多く英語での授業が過半の立命館アジア太平洋大学(大分県別府市)に進学。だが1年生の時、縫製クラウドソーシングのシタテル(熊本市)にインターンをすると起業がぐっと身近になった。シタテル社長の河野秀和(42)から営業統括を任され、セレクトショップなどを回り自信をつけた。
その過程で「営業には前近代的な曖昧さが残る。営業プロセスにデータを活用できないか」と着想。16年2月、営業人材を効率的に求める企業と営業のプロをマッチングするサービスを開始。コロプラの投資子会社コロプラネクストから1000万円の投資も受けた。
2年間の休学の間に顧客企業は増え続け、本社は東京に移転。東京から別府まで通うわけにもいかず、17年春に中退した。「親には事後報告した。これまでも自分で進路を決めてきた」とさらり。取引先は400社に達し、手応えも感じている。
【筑波大中退】ベアテイルの黒崎賢一社長
対照的に「中退を親に話したときは絶句していた」と苦笑いするのは、クラウド経費精算サービスを手がけるベアテイル(東京・千代田)社長の黒崎賢一(26)だ。
小さい頃からのIT(情報技術)オタク。私立武蔵高校在学中の16歳からIT雑誌向けに学生ライターとして寄稿し、小遣い稼ぎをしてきた。10年に筑波大学に入学し、12年に「無駄な時間を世の中から省きたい」と学友2人と起業した。
1億円以上の資金調達も続け、順調に成長するなか17年春に大学を中退。大卒の肩書よりも事業に懸ける情熱が上回った。親も息子の会社の評価額を聞いて納得するようになったという。