COLUMN:
2017年国産HIP HOP振り返り座談会(前編)
【“ラップ・ブーム”の2016年から更に拡大した日本語ラップの大衆化】
伊藤 今年も座談会にお集まり頂き、ありがとうございます(MC正社員は『WREP』のラジオ生放送があったため、途中から参加)。さて、昨年は、主にMCバトル/フリースタイル・シーンから派生したラップ・ブーム』というのが2016年の大きなキーワードだったと思いますが、今年はどうだったでしょうか?シーンが盛り下がってる感じは個人的にはしないですね。
高木 ただ、個人的には、いわゆる一般誌/一般メディアからの日本語ラップ/バトル・ブームについての依頼は減りましたね。もちろん、別のライターにそういった仕事が移ったりという部分もあると思いますが、個人的な感触からすると、去年はやっぱり“ブーム”だったのかなと、逆算的に感じましたね
伊藤 昨年と比べると、今年はそういった企画の話はあまりなかったかな?
荏開津 同じ企画を同じメディアで何度も出来ないのは当然だし、編集者として正しい判断ですよね。その意味でも、去年の段階で、一度「日本語ラップとは何か?」「何故、いま流行ってるのか?」ということをいろんなメディアが取り上げて、既に周知させた部分はあると思いますね。
伊藤 一方で、web上ではHIP HOPアーティストやHIP HOPの現状を紹介する記事が増えてるような気がします。
高木 確かに、FNMNLとかCINRA、NeoLみたいな、先端を追っかけたり『イケてる』媒体でHIP HOPは定番になりましたね。だから、表現は難しいけど、『オシャレなモノ』『先進的なモノ』としてHIP HOPが認識されることが多くなってると思う。だから、“恐い”“ヤンキー”みたいな文脈では捉えられることが以前より少なくなってるし、『チェケラッチョ』『親に感謝』みたいにネタとして捉える方がダサいってことになってる気がする。
DJ NOBU シティ・ポップが注目された年だったから、その辺の流れは大きい気がする。
伊藤 HIP HOPがスタイリッシュなモノとして捉えられてきてるんでしょうね。だから、去年がMCバトルやフリースタイルっていう『熱いモノ』として盛り上がったんだとしたら、もう少し音楽自体にフォーカスされたり、スタイリッシュなモノを体感するための手段として、日本のHIP HOPが求められてるようにも感じますね。
荏開津 そうなってると思うし、やはり日本のHIP HOPが広がったということだと思います。ファッション層も含めて、ありとあらゆる人がラップを楽しめるようになったし、それは海外のラップと同じことが起きていると思います。
DJ NOBU 若い世代の子たちが「コレを聴いてればイケてる」っていう音楽の中に、日本のHIP HOPが入ってたらいいよね。
【“ストリーミング時代”の国産HIP HOPの消費のされ方】
伊藤 「2017年の日本語ラップ」という話題とはちょっと離れてしまうかもしれないけど、非常に重要な点だと思うので、字数を割いてディスカッションしたいです。HIP HOPに限らず他のジャンル全体に言える話ですが、そういった音楽的な体験をするための術が、レコード/CDといったフィジカルなモノからダウンロード配信に移り、近年は定額配信制のストリーミング・サービスに移り変わりつつありますよね。で、今年はそういった視聴方法が一気に定着してきた印象があります。また、「YouTubeで音楽を聴く」という意味でのストリーミング視聴者も相変わらず多いでしょうし。
DJ NOBU そういった動きが加速することによって「バズる速度」が早くなった印象はある。JP THE WAVYやAwichが良い例で、いきなりサっと彗星の如く登場して、楽曲も(リリース後)すぐにクラブでも盛り上がる、っていう。
伊藤 「コレが今、ヤバイらしい」と注目され始めると、現場でもすぐ盛り上がるようになった、ということですね。
DJ NOBU DJでいろんな土地に行く機会が多いんだけど、全国的にそのタイムラグが少なくなってきてるな、と感じる。
SEX山口 確かに、作品のリリース直後にかけても盛り上がりますね。「コレ、リリースされたの3日前なのに!」みたいなことが多かった。
高木 それにはYouTubeが果たした功績が本当に大きいと思う。
DJ NOBU 俺もそう思う。
伊藤 日本のHIP HOP曲のMVで見ても、数年前よりYouTubeの再生回数が全体的に増えてる印象があります。
DJ CELORY そうなんだ。
伊藤 これまでは100万再生行ったら相当凄い!って感じだったのが、今は当たり前のように見るようになった。
DJ NOBU そうだね。“クラシック”だけじゃなくて、“ヴァイラル・ヒット”という概念が追加された感じ。
荏開津 パンチラインですね(笑)。
DJ NOBU 良い悪いじゃなくて、そういう時代だよね。ヴァイラル・ヒットの土台も広がってるよね。JP THE WAVY“超WAVYでごめんね”だったら、いろんな人が替え歌を作って、それをMVとしてアップしたり。
高木 ニック&ぶらっくさむらい“超外人でごめんね”や明日花キララ“cho erode gomenne”とか、かなり面白い動きですよね。いわゆる“ビート・ジャック”とは違う広がり方をしてる。
DJ NOBU 芸人やオタク、ポルノ・スターまで幅広いし、それによって更に広がりが生まれてヴァイラル・ヒットが生まれる、みたいな感じですかね。
伊藤 僕に関しては、音楽のメインのチェック方法は、今年でほぼ完全にストリーミングに移行しました。洋モノのHIP HOPに関しては、去年ぐらいから完全にストリーミングに移行してたんですが、日本語ラップ作品でも今年はそうなりましたね。まあ、これまでもCDで買った作品はすぐにiTunesに読み込んで管理してたから、何年も前からデータ主体の聴き方だったんですけど。
高木 ストリーミング・サービスが日本で始まった頃は日本語ラップ作品があまり入ってなかったけど、今は何箇所かのサービスを併用すれば、新譜はほぼ聴けるようになってますね。
荏開津 「ストリーミングに入ってない」というストレスが、どんどん解消されてきてますよね。
高木 だから、リリース情報を見たりSNSで話題になってるのを見ても、それがストリーミングに入ってないと、聴くまでにすごく億劫になってしまう。
荏開津 すぐにその場で楽曲を確認できるから、個人的にもストリーミング・サービスがなかったら仕事にならないと思う。新譜だったら、まずストリーミングで聴いてみて、それが良い作品だったらCDを買って改めてクレジットを確認したり、レコードになってるんだったら買って、DJで使ったりしてますね。ネット全体も含めて、こういうサービスがなかったら書くこともDJも出来てないと思います。僕が若い頃は、本当に経済的に恵まれた人がレコードを買えた時代だったので、今の格差が大変なのはもちろん知っているけど、絶対的に接することが出来る情報量が、今は格段に多い。
伊藤 荏開津さんは、それぞれのメディアの特徴を踏まえて、それぞれの形態で楽しんでるということですね。
DJ NOBU 俺も、普段聴きはストリーミングだね。
SEX山口 ですね。僕の場合はまずはストリーミングでチェックして、欲しいと思ったら配信やCDで買う、って感じです。
DJ NOBU 周りの若い世代の子たちは大体ストリーミングですね。既に、「バズ作り」をするためにどのプレイリストに入るかも重要になってきてるし、これから日本でも売り方やプロモーション方法は変わっていくような気がしますね。
伊藤 ストリーミング・サービスが台頭して、よりプレイリスト主体の聴き方になってきましたね。日本のHIP HOPリスナーでも、そういう聴き方の人が増えてるんじゃないですかね?
SEX山口 プレイリストを通して曲単位で聴いて、気になったらアルバムを聴く、っていう流れでしょうね。
高木 ただ、全ての時代の楽曲が並列になるから、「今っぽい」が分からなくなるんですよね。その状況が良い悪いは抜きにしても、そこに少し留意しないと、気が付いたら完全に取り残されたりしそうで恐い。
伊藤 某HIP HOPレーベルの人に訊いたら、今年はストリーミングで聴かれる割合が大幅に増えた、って言ってました。アーティストのスタイルによってストリーミングとフィジカル/ダウンロードの比率は変わってくるだろうけど、全体としてストリーミング率が高くなってきてるのは間違いないかと。
高木 ストリーミングに入ってないとリリースされてないモノと思われちゃう、ぐらいだと思う。
伊藤 ストリーミングに入っていないとシーンからは外れてる感じに思われてしまうような状況もあるし、一方でそうじゃないところでフィジカル作品を通してのリリースを続けている人もいる。とは言え、この流れが大幅に以前に戻るということは想像しにくいわけで、ミュージシャン/レーベルとしては既に様々な決断を迫られているタイミングですよね。
DJ NOBU 「ラップが上手ければ大丈夫」みたいな時代ではないからね。個人的には、カッコ良い勝ち上がり美学を持ってるアーティストやレーベルがもっと増えれば、いろいろ変わると思う。そういうアーティストはいっぱいいるけど、もっと増えてほしい。
伊藤 売り方とか見せ方のセンスの良さも含めた上での巧みさが必要だ、と。
DJ NOBU そうそう。
荏開津 ファッションもそうでしょ。女の子たちも、YouTubeやInstagramでラッパーのファッションを見てるだろうし、それもアピールとして必要なポイントで。
DJ NOBU “素人プロ”みたいなインフルエンサーの役割もすごく大きそうですよね。
伊藤 そういう風にリスニング環境が確実に変わってきてて、それがHIP HOPの聴き方や流行の傾向にも影響してると思いますね。
DJ CELORY ……今までの話を聞いてて「ヤバイ」と思ったんだけど、俺はどのサービスも使ってないんだよね。「30日間トライアル」すらしてない(笑)。
伊藤 それはストリーミングに対するアレルギー的な意味で、ですか?
DJ CELORY じゃなくて、“所有欲”かも。だから、いまだに全部買う。
荏開津 セロリさん、部屋キレイそうだもん。
DJ CELORY そうですね(笑)。
高木 それは意外と重要かも。俺は片付けられないからストリーミングにしてる部分もある(笑)。
DJ CELORY レコードもCDも全部データ化して整理してるから。だから、ストリーミングは一切分からないし、今のところ必要ないんだよね。
DJ NOBU でも、プレイリストを掘ると忘れてた曲がいっぱい出てくるから、DJ的にはそれも結構大きくて。
SEX山口 それ、めちゃくちゃありますね。プレイリストで聴いて「コレ、忘れてたな」とか、発見は多いです。基本、流しっぱなしだから1日に何回も発見があったりして。脳内掘り起こし作業としても結構重要。
高木 全然関係ないリストを掘ってて、急にネタにぶち当たったり。
伊藤 曲の発見の仕方とか、見つけるプロセスが変わってきてるし、そこでの広がりはあると思うんですよね。
DJ CELORY そうなのか〜。
荏開津 セロリさんにみんなでストリーミングを勧める会みたいになってる(笑)。
DJ CELORY おじいちゃんになった気持ちだもん(笑)。
伊藤 でも、セロリさんのチャートを見ると現行モノを追えてるし、時代に付いていけてない感じはしないですね。
DJ CELORY 新譜は常にちゃんと追ってるよ。『WREP』のお昼の番組『Lunchtime Breaks』でも、ホットな曲なら前日リリースされたばっかりの曲でも紹介してるんだよね。