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川崎の工場地帯出身のラッパーとHiGH AND LOWと内田彩さんが好きです

内田彩、夏川椎菜、水瀬いのり、Aqours……2017年を彩ったアニメ / 声優アーティスト楽曲12選

 2017年のアニメ音楽シーンのアンセムは「ようこそジャパリパークへ」だろう。同作は、TVアニメ『けものフレンズ』主題歌として瞬く間にミームとなり、先日は『FNS歌謡祭 第二夜』(フジテレビ系)にて、長濱ねるをはじめとする欅坂46のメンバー4名とのコラボパフォーマンスも披露された。

 そんな『けものフレンズ』には「フレンズによって得意なことは違うから」という、各“フレンズ”の得手不得手や多様性を受容する印象的なセリフが存在する。今年のアニメ / 声優音楽シーンにおいても、一見すると『けものフレンズ』一色に思われがちだが、間違いなく様々な特色の見られる楽曲が揃っている。本稿では、アニメ / 声優アーティストによる作品を全11曲紹介するとともに、私個人の感情を語るのではなく(選定は完全に趣味一色なのだが)、その作品が2017年のアニメ / 声優音楽シーンでどのような立ち位置にあるのか、J-POPをはじめとする他ジャンルの作品とはどのような関係性なのか、延いては今後の音楽シーンにどのような影響を与えるのかを綴っていきたい。

 

Aqours「“MY LIST” to you!」

作詞:畑 亜貴 作曲:原 知也 編曲:ラムシーニ

 2017年は待望の1stライブ『ラブライブ! サンシャイン!! Aqours First LoveLive! ~Step! ZERO to ONE~』の開催を皮切りに、3rdシングル『HAPPY PARTY TRAIN』のリリース、同シングルを携えた全国3都市を巡る『ラブライブ!サンシャイン!! Aqours 2nd LoveLive! HAPPY PARTY TRAIN TOUR』を開催。さらに、初のファンミーティングツアー『ラブライブ!サンシャイン!!Aqours クラブ活動 LIVE & FAN MEETING 〜 Landing action Yeah!! 〜』の開催や、先日終了したTVアニメ第2期の放送と同時発表となった劇場版の制作決定など、目白押しなイベントだらけだったAqours。そんな同グループにおける今年のリリースで、間違いなく光ったのが2期エンディング主題歌シングル収録の「“MY LIST” to you!」だろう。

 同作は、これまでの『ラブライブ!』シリーズの楽曲にはなかった、ドゥーワップコーラスを取り入れた楽曲だ。声優だからこそ表現できる甘い歌声が特徴的な同曲は、数多くの表情を演じてきた今のAqoursだからこそ“表現”として成立するのだろう。音数が少ないにも関わらず、これまでリリースされた「夜空はなんでも知ってるの?」をはじめとするバラード楽曲とは音楽的に一線を画しており、素直にAqoursの歌声を楽しめる“声優特化”ともいえる、聞いていて笑顔のこぼれる作品だ。

 また、畑亜貴が作詞を務めた歌詞は、これから出会う最愛の人へ自分を知っていてほしいといった内容で、<名前で呼んでよね 「さん」とか付けないで呼んでね 手つないで歩いて 人目気にしちゃやだよ>や<忙しいって連発しないで 大好きなキモチ 後回しされちゃったら涙でちゃうよ>といった歌詞が特徴的だ。自身のキモチを直接的な形で打ち明けない姿勢は、西野カナ「トリセツ」に通ずるような2017年の恋愛モデルに合わせてきたのだろう。なお筆者は、小宮有紗演じる黒澤ダイヤの<いつか出会う恋人よあきれないでね "MY LOVE" 出会いはどこ?>という部分が大好きだ。

 「“MY LIST” to you!」以外にも、同プロジェクト内のユニットであるAZALEAがリリースした「GALAXY HidE and SeeK」や、前述のシングル『HAPPY PARTY TRAIN』収録の全員曲「少女以上の恋がしたい」など、今回紹介できなかった良曲も多く存在する。4月に開催される『ラブライブ!』プロジェクト初のユニットライブや、今後公開が予定されている劇場版主題歌に果たしてヒットメイカー 倉内達矢が起用されるかなど、楽しみなことがたくさんある。アニメ音楽シーンで躍進を続けるAqoursの活動は、今からでも要チェックだ。

 

fhána「青空のラプソディ

作詞:林 英樹 作曲:佐藤純一 編曲:fhána

ようこそジャパリパークへ」に続く、2017年の裏アンセム。ソウル〜ポップス〜ディスコサウンドを織り交ぜた同作は、リスナーに今年最大の多幸感を味あわせたことだろう。ダンサブルでキャッチーなサウンドにfhánaらしさが溢れているのだが、何よりも言及すべきはtowna(Vo.)とトラックにおける親和性の高さだろう。towanaの歌声は非常にキーが高く、声優の持つ地声や歌声とは微妙につくりの違うものだ。そんな彼女の歌声を巧みなまでに楽曲へと組み込んできたのが佐藤純一(Key)の手腕なのだが、「青空のラプソディ」ではさらにその昇華レベルが上がったと見られる。特に、サビのメロディには2017年のどの作品にも見られないの爽快感と開放感があり、リスナーも思わず口ずさんでしまうことだろう。

 また、MVの舞台はメイドカフェとなっている。これは、実際にfhánaがメイドカフェで結成されたバンドであることに由来しており、同作がTVアニメ『小林さんちのメイドラゴン』主題歌ということもあるのだろう。メンバー全員がダンスをする、キャッチーな映像に仕上がっている。

 毎クール欠かすことなくアニメ主題歌を担当しているfhána。まさしく、“アニソン”アーティストとしての献身ぶりと、作品における完成度の高さには2018年も期待できる。

 

三森すずこ「恋はイリュージョン」

作詞:三森すずこ 作編曲:矢野博康

 Cymbals 矢野博康×三森すずこのタッグ作。筆者の「この人がクレジットに載っている曲はヤバい」リストにも名を連ねる矢野。そんな矢野の新作「恋はイリュージョン」は、花澤香菜「We Are So in Love」などと同じポスト渋谷系路線の楽曲で、三森の作品を手掛けるのは1stアルバム『好きっ』収録曲「恋のキモチは5%」以来となる。近年確かな人気を誇る、渋谷系×アキバ系の”シブアキ系”要素が詰め込まれたソウル〜ジャズ楽曲だ。サックスをはじめとするブラス隊のサウンドが最高な同曲だが、それを上手く扱う三森の落ち着いた歌声も素晴らしい。アーティストとしてのキャリアが厚い三森だからこそなせる技だろう。

 また、MVの完成度も過去に類を見ず、非常にオシャレな一作だ。ビビッドなイエローのニットの上に羽織ったパステルのコート、楽曲のイメージを引き出す南フランス〜北スイス風の街並みのセット。三森が街ゆくなかで出会った人々(=ダンサー)にアプローチし、サビではその全員が踊り出すという、2016年最大のヒット映画『ラ・ラ・ランド』の文脈を踏襲するかのような、ミュージカル的な一面にも驚かされる。音楽と映像の両方面で高い完成度を見せられるのは、やはりこれまでエンターテイメント性の高いアーティスト活動やステージをこなしてきた三森だからこそできるものだろう。2018年も、三森からは目が離せなそうだ。

 

Trysailadrenaline!!!

作詞 / 作編曲:中野領太(onetrap)

 今年Trysailがリリースした名盤『TAILWIND』より、TVアニメ『エロマンガ先生』主題歌にも起用された収録曲「adrenaline!!!」は、軽快なスカコアサウンドのアッパーなナンバー。作曲は、今年JUJU「いいわけ」などを担当した、Onetrap所属の中野領太。裏拍で鳴るギターや、ホーンスウィングなどの爽快感あるサウンドのほか、盛り上がり重視のコール&レスポンスも楽しい一曲だ。MVでは、海軍服を着用したり、オモチャのトランペットを使ってみたりと見応え満点である。

 Trysailは今年、同ユニットでは過去最高規模のライブ『LAWSON presents TrySail Live 2017 Harbor × Arena』を開催したほか、メンバーの雨宮天麻倉ももに続き、夏川椎菜が遂にソロアーティスト活動を開始。なかでも、夏川のソロ楽曲はEDMの流れを吸収した楽曲も見られ、音楽的にもレベルの高い作品展開を行なっている。メンバー個人としても、ユニットとしても成長を重ねた2017年のTrysail。2018年も新たな船出が見られることに期待したい。



夏川椎菜「gravity」

作詞:深川琴美 作編曲:Kon-K

 前述の夏川椎菜のソロアーティスト活動初シングル『グレープフルーツムーン』より、カップリング曲「gravity」は、ガールズロックにダンスミュージックの要素を織り交ぜた快作。ギターカッティングが非常に光る、聴き心地の良い四つ打ちナンバーだ。少年少女が仲良く惹かれ合う様子を“引力(=gravity)”に例えた作品で、<疲れすぎてバグる脳みそ><ミクロ マクロ もっと知りたい エクボのあな 君というグラビテーション>という歌詞も幼さを感じられ大変可愛らしい(しかもちゃっかり韻を踏んでいる)。一方、トラックでは要所要所でスクリューなどのダンスミュージック的なエフェクトが見られたり、エッジの効いたキックに驚かされたりと、しっかりとしたダンスナンバーに仕上がっている。

 同曲以外にも、夏川のリリース作品はTrysailメンバーのなかで一番完成度が高いと言っても過言ではなく、2018年の展開にも期待できる。今回紹介した「gravity」以外にも、2017年カワイイEDM代表曲「フワリ、コロリ、カラン、コロン」など必聴のナンバーがあるほか、夏川がシングルタイトル『グレープフルーツムーン』の月になぞらえた、1枚のレコードを持っているジャケットも非常に素晴らしい。夏川の髪色も、アーティスト活動の輝きとともに明るくなっていくことだろう。 

gravity

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大橋彩香ワガママMIRROR HEART

作詞:真崎エリカ 作曲:加藤裕介 編曲:酒井拓也(ArteRefact)

 TVアニメ『政宗くんのリベンジ』主題歌。とにかく疾走感のあるドラムが、楽曲全体を通して冴え渡る一曲。アニソンに多く見られるキメの多さがありながら、近年のダンスミュージックに見られるドラムパターンの流れを汲んでいる。<だから強制!>以降のサビが2構成になっているなど、プログレッシブな姿勢も感じられる。楽曲として非常に大振りながらも、2サビではサビを1段構成にして間奏に入り、大サビで再び2段構成に戻すという、聞き手を飽きさせない手法や、大サビでこれまで用いらなかったブレイクを取り入れるなど、細かいギミックも見られる作り込まれた作品だ。

 トラックの力強さがある分、歌唱する大橋にもレベルの高い技術が要求され、レコーディングが非常に難しかったとインタビューにおいて語っている。しかしながら、この曲を歌いきったことで、自身のアーティストとしての能力を知らしめたともいえるだろう。

  

花澤香菜「滞空時間」

作詞 / 作編曲:宮川弾

 2017年にリリースされた声優アーティスト作品のなかで、とりわけ評価の高いアルバム『Oppotunity』。前作『Blue Avenue』ではアメリカ・ニューヨークをテーマとした一方、今作ではUKロックをテーマにしており、豪華クリエイター陣が揃った珠玉の一枚に仕上がっている。同作に関し、音楽情報サイト「音楽ナタリー」内のインタビューにて<ひと口にUKと言っても、いろんなアーティストがいて、いろんな表現の仕方があるので。できあがったアルバムも、ひと言では表せない、いろんな刺激のある作品になったなと思います。>と語っている(参考:花澤香菜「Opportunity」インタビュー (1/3) - 音楽ナタリー 特集・インタビュー)。

 そんな同作より、「滞空時間」をピックアップ。同曲は、良い意味でチープなシンセ音が特徴的なエレクトロ〜ニューウェーブ楽曲で、アルバム収録曲でも異なった雰囲気を纏っている。「滞空時間」というタイトルのとおり、浮遊感のある花澤のボーカルが特徴的で、ポジティブな意味でつかみどころのない、落ち着きのある一曲だ。また、懐かしさの感じられるサウンドながら、その一方でBメロ〜サビのブリッジに2017年らしさが担保されているほか、2サビ後にはモールス信号による「好き」というメッセージが隠されているなど、宮川弾の遊びごころも込められている。2017年の数少ないエレクトロ〜ニューウェーブ楽曲として紹介した。

 余談だが、<ベイビーベイビー 見つめてよ one more time>という歌詞で、筆者はJustin Bieber「Baby」をイメージした。厳密には、Justin Bieberの方で歌われている“Baby”は、“赤ん坊”という意味なのだが、同じフレーズでも日本人の花澤が歌うことにより、一気に少女性に由来するような温かみを感じてしまう。あわせて、2017年リリースではないものの、「滞空時間」と同じくニューウェーブサウンドが特徴の楽曲である村川梨衣Baby, My First Kiss」と4to6(Pile / 飯田里穂)「Yume-Yume-Wai-Wai ROOM」も聞いていただきたい。

 

宮野真守「恋されガール」

作詞:marhy 作曲:FURUTA / サイトウ リョースケ 編曲:サイトウ リョースケ

 声優アーティストである宮野真守の特徴は、トレンドをキャッチする早さにある。星野源「恋」やSuchmos「STAY TUNE」、さらにはBruno Mars「24K Magic」を機に、ブラックミュージックが本格的に国内ポップスへと浸透した。今年11月には、向井太一がメジャーデビューアルバム『Blue』をリリースし、早耳リスナーを驚かせたのも記憶に新しい。

 ブラックミュージックの波は、声優音楽シーンにも影響を及ぼし、その流れを巧みに昇華したのが宮野が今年リリースしたアルバム『THE LOVE』だ。なかでも、収録曲「恋されガール」は、Bメロの譜割りとメロディが気持ちよく、日本語詞と英語詞が上手く織り交ぜられており、ギターのサウンドも心地いい。大サビの<So you are super lovely more than you would think>という部分では、歌唱の際に外国語話者の発音を意識した、口を大きく使う発声方法を用いていると考えられる点も評価できる。

 あわせて、今回のアルバムタイトルが『THE LOVE』ということで、恋愛を歌った歌詞にも言及したい。星野源「恋」をはじめとする楽曲との共通点として、歌詞が非常に身近な内容を歌っていることも、近年のトレンドかもしれない。「恋」において、星野はパートナーとの生活における普遍性を歌っているが、宮野は同曲において、実際にありそうなパターンの恋愛を歌っている。

 音楽情報サイト「OKMusic」でのインタビューにおいて、宮野は<今作のコンセプトに合うように、未来の恋人たちのロマンチックなデート風景という世界観を構築して、そういった歌詞をAmon(Hayashi)さんに付けていただきました。もう1曲デモから選んだのが「恋されガール」。こっちは曲のかわいらしさの中に物語が引き立つような歌詞がいいなぁと、少女マンガのような世界観を提案させてもらって。クラスでは目立たない子を好きになって、周りから“なんであの娘なの?”って言われても、自分は彼女の素敵なところを知っているんだ!というような、愛の芽生えみたいなところをmarhyさんに表現してもらいました。>と語っている(参考:【宮野真守】ファンのみなさんや仲間からもらった“愛”への感謝 | OKMusic)。

 サウンドだけでなく、歌詞においてもトレンドを追求する宮野。2018年リリースの際は、是非ともディスコナンバーなどを詰め込んだアルバムを制作していただきたい。

恋されガール

恋されガール

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every♥ing!「ちゅるちゅるちゅちゅちゅ」

作詞作曲:IMAKISASA(Wee's Inc.)編曲:小川裕太郎(Wee's Inc.) 

 2017年は、every♥ing!にとって激動の1年だった。活動史上初のアルバム『Colorful Shining Dream First Date♥』のリリースにはじまり、20歳を迎える山崎エリイ木戸衣吹のevery♥ing!からの「卒業」発表、卒業旅行ツアー『every♥ing! Graduation Trip with Y♡U!!』、そして11月26日に中野サンプラザでの卒業公演『every♥ing! Final Fantasia-Show 2017 〜Lesson3 輝く未来へ〜』の開催まで、目を離せないひと時だった。

 そんな2017年に発表された同アルバムの表題曲が「ちゅるちゅるちゅちゅちゅ」である。同曲は、これまでのシングル曲「カラフルストーリー」や「Shining Sky」とはかわり、モータウンビート調の落ち着いた作品だ。小洒落たミドルテンポのベースラインに、いじらしい恋を表現する山崎と木戸の少し幼い歌声がのったポップな楽曲に仕上がっている。

 楽曲としての完成度、<ちゅるちゅるちゅちゅちゅ>と声に出したくなるような歌詞、MVの成長した山崎と木戸の可愛らしさ、そして真似したくなるような振り付けで数多くのリスナーを魅了した。たしかにevery♥ing!は活動を終えてしまったのだが、そんなキャリア最後の年に、このような楽曲を残してくれたことは、彼女たちの“紡いだ物語”が素敵なものだったことをいつまでも思い出させてくれることだろう。貴重な10代の時間をevery♥ing!に捧げてくれたことに、深い感謝を送りたい。

 

水瀬いのりReady Steady Go!

作詞:藤林聖子 作編曲:藤永龍太郎(ElementsGarden)

 2017年、声優アーティストとしてもっとも大成したのが、水瀬いのりだ。2015年12月に1stシングル『夢のつぼみ』でデビューを果たし、その後『リスアニ!LIVE 2017』や『Animelo Summer Live 2017 -THE CARD-』などの大型アニソンフェスにも参加。確実にアーティストとしての変貌を遂げた水瀬だったが、ひとつだけその大成に欠けていた要素があった。それは、ワンマンライブだった。

 そんな水瀬は、今年4月に1stアルバム『Innocent flower』をリリース。さらに、自身の誕生日でありアーティストデビューを果たした日でもある12月2日に東京国際フォーラムホールAにて、『水瀬いのり 1st LIVE Ready Steady Go!』を開催した。そして、同公演のタイトルを冠した5枚目のシングル表題曲が「Ready Steady Go! 」である。まさに、水瀬のアーティスト活動の本当のスタートを歌ったかのようなタイトルで、水瀬の声優アーティストとしての勢いを表現したかのような、疾走感のあるアッパーなロックサウンドに仕上がっている。

 また、2年間のアーティスト活動を経て、さらにパワフルに仕上がった歌声は、後ろで鳴るギターサウンドにも負けず、他の声優アーティストのそれとは一線を画するまでに至る。さらに、水瀬は地声に近いキーとファルセットのどちらにも柔軟に対応できるアーティストなのだが、サビのメロディはその両方の良さを存分に表すことのできる構成となっている。ライブ開催のタイミングでリリースされたこともあり、曲中のロックテイストなコール&レスポンスも楽しい、今後のアーティスト活動を担っていく一曲となることだろう。

 

内田彩「Yellow Sweet」

作詞:hisakuni 作編曲:hisakuni

 2017年の声優音楽シーンを語る上で、今年9月にリリースされた内田彩の3rdアルバム『ICECREAM GIRL』だけは外すことができない。同アルバムは、間違いなく今年のマスターピースであり、今後の声優音楽シーン、延いてはJ-POPへも影響を及ぼす一枚だ。

 その素晴らしさは、1stアルバム『アップルミント』リリース時より変わらない、内田彩、制作スタッフの工藤智美と井上哲也による自由かつ綿密な制作スタイルと、内田のアーティストとしての器用さにある。同アルバムにおいても、今年のトレンドともいえるミドルテンポなR&Bの「Close to you」を優しく歌い上げると思えば、シンフォニックなロックチューン「EARNEST WISH」を歌いこなし、50’sなピアノロックでBen Folds Fiveを想起させる「Holiday」があると思えば、声優フューチャーベースの最高峰である、今作のキラーチューン「Yellow Sweet」も存在する。内田が2016年8月に開催した武道館公演の名を借りれば、まさに色とりどりな1枚を毎度のごとくリリースするのだ。

 声優アーティストによる音楽活動の良さは、ひとつの音楽ジャンルに縛られることのない自由な表現にあるのだが、内田のそれは他のアーティストと比べるとはるかにずば抜けている。音楽情報サイト「Real Sound」内の記事では、『ICECREAM GIRL』で取り扱っている音楽ジャンルの豊富さは、<「もしかしたらJポップにはこういう感じの未来があったのかもしれない」という気分になる>と語られているほどである(参考:内田彩、チャートアクション好調の意義 声優アーティストの存在感さらに高まるか?)。

 そんな「Yellow Sweet」は、2ndアルバム『Blooming!』収録の「with you」にはじまる、内田×hisakuni(SUPALOVE)タッグの第5作で(うち一作は『Bitter Kiss』収録の「絶望アンバランス」)、内田のアーティスト活動を語る上で欠かすことのできない“フューチャーベース”サウンドを取り入れた楽曲だ。

 同作は、煌びやかなシンセ音とメロディーラインが独特な太いベースサウンドのうねりが特徴な一曲。なかでも、Dメロでのシンコペーションではトラックが変拍子となる一方、大サビ前ではキーボードとハイハットを用いたメロディで落ち着きを見せる、緩急のついたサウンドに仕上がっている。BPMが前作「Everlasting Parade」の128から113まで落とされ、サウンドとしても新たな試みが見られる今作だが、歌詞においてもその変化は見られる。これまでとは異なり、「Yellow Sweet」では内田自身の年齢に近い20〜30代の女性に焦点が当てられており、少々大胆な行動に走る一面も。

 初のフルアルバムのリードトラックとなり、歌詞とサウンドの両側面で新境地へと辿り着いた内田×hisakuniタッグの「Yellow Sweet」。本稿を機に、是非とも耳にして2017年の総まとめとしていただきたい。

 

内田彩「Close to you」

作詞作曲:金子麻友美 編曲:佐藤清喜

 最後に紹介するのは、同じく『ICECREAM GIRL』収録曲である「Close to you」。「Yellow Sweet」と同じく、他のコンペで選ばれた楽曲とは別に、アルバムでも決め打ち曲として制作され、もっともレコーディングに時間が掛かったと語られている。

 そんな同曲は、内田のアーティストとしての真価を問う、ミドルテンポなR&B。アーバン〜メロウなメロディーに、ホーンのサウンドが乗った心地よい一曲で、Suchmos「STAY TUNE」などがリリースされた2016年以降の音楽シーンへのひとつのアンサーソングとも捉えられる。落ち着いたサウンドからは、アニメ / 声優音楽特有の“らしさ”を感じることはなく、まさしくアーティストとして歌うにふさわしい作品だ。

 “永遠の愛”が描かれた歌詞に、当初の内田は大人っぽく歌うなどの趣向を凝らしたそうだが、最終的には、30歳を迎えた等身大の内田彩として歌うことで、一番曲の持つイメージを形にできたとのこと。まさしく、2017年の総まとめ的な楽曲であり、毎年のことではあるが、内田のアーティスト活動における今後の展望がさらに楽しみになった一曲だった。

 

 本年も大きな盛り上がりを見せたアニメ / 声優音楽シーンだが、個人的にはソウル、ジャズ、ファンクなどのサウンドを聞く機会が多かった気がする。本稿を機に、同シーンの大きな流れを感じていただければありがたい。個人的な反省として、アニメ主題歌やキャラクターソングを聞く機会が設けられなかったことが挙げられる。来年こそは『温泉むすめ』や『ウマ娘』の作品、延いてはJ-POPや日本語ラップK-POPや海外音楽シーンにも目を向けたいと強く思う。そんな思いを抱きつつ、まずは今年アーティスト活動にピリオドを打ったevery♥ing!やRayに敬意を評したい。そして最後に、筆者が先日まとめた2017年のJ-POP(一部声優音楽や洋楽も…)年間ベスト一覧を添えつつ、2018年に出会うことのできる音楽作品へと臨みたい。

 

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(上段左より)

ポルカドットスティングレイ『全知全能』

Special Favorite Music『Royal Blue』

三浦大知『HIT』

向井太一『Blue』

内田彩『ICECREAM GIRL』

tofubeats『FANTASY CLUB』(一番聴いた)

花澤香菜『Oppotunity』

every♥ing!『Colorful Shining Dream First Date♥』

w-inds.『INVISIBLE』

SALU『INDIGO』

欅坂46『真っ白なものは汚したくなる』

Brasstracks『For Those Who Know, Pt.1』