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科学

何があろうとも毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きるべきです|睡眠科学者が説く「眠りの処方箋」(中編)

From The Guardian (UK) ガーディアン(英国)
Text by Rachel Cooke

Photo: iStock / Getty Images

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大の大人が寝てばかりいる……のは、決して恥ずべきことではない。寝不足が心身に与える影響は、私たちの想像をはるかに超えているというのだから。

英国、米国で「2017年の1冊」「現代人必読の書」と話題の本、『人はなぜ眠るのか』(未邦訳)。その著者であり、睡眠学の第一人者であるマシュー・ウォーカーに聞く。

私たちはなぜ睡眠不足になったのか


1942年、睡眠時間が1日6時間以下の人の割合は8%にも満たなかった。ところが2017年には、その割合がほぼ2人に1人になっている。この75年間のあいだにいったい何が起こったというのか?

その理由は明らかだろう。マシュー・ウォーカーは言う。

「まず、電気のせいで夜も明るくなったことが挙げられます。光は睡眠を大幅に減らす要因です。次に、働き方の問題。仕事の始まりと終わりの境目が曖昧になってきており、通勤時間も長くなった。家族との時間や余暇の時間を削りたい人はいませんから、代わりに睡眠時間を削るわけです」

さらに、精神的な不安も関係する。

「現代人は孤独で落ち込みやすい。アルコールやカフェインもすぐに手に入る。これらはすべて睡眠の敵です」

先進国では、睡眠が、精神的な弱さや恥の意識と強く結びついていることも原因の一つだという。

「私たちは睡眠に“怠惰”というレッテルを貼ってきました。自分を忙しそうに見せたくて、寝てない自慢をする。それが名誉の印なんですね」

ウォーカーの講演会では、終了後、皆が帰るのを待ってから話しかけてくる人がいるという。

「小さな声で、どうも私は8〜9時間睡眠が必要なタイプのようで、と言うんです。人前でそう話すことが恥ずかしいんですね。だから45分も待ってから打ち明ける。そう言ってくる人は、自分が普通ではないと思っているのです。

ある意味、それは当然かもしれません。なにしろ、妥当な長さの睡眠をとっただけで非難され、怠け者扱いされる世の中なんですから。

眠っている赤ん坊を見て『なんてぐうたらな赤ちゃんだ!』などと言う人はいないでしょう。赤ん坊には睡眠が絶対に必要だとわかっているからです。ところが大人になると、その考えをあっさり捨ててしまう。人間は、はっきりした根拠もなく自分の睡眠時間を意図的に減らしている、唯一の種なんです」

まだ納得がいかない人のために言っておこう。5時間以下の睡眠で何の機能障害を起こすことなく生きられる人の人口比を、四捨五入して整数に直すと、なんとゼロになるのだ。

睡眠学は劇的に進歩している


いまも睡眠学の世界は比較的狭い。だが、需要の高まり(睡眠不足を原因とするさまざまな問題が増えていること)と、新たなテクノロジー(電気や磁気を使った脳刺激装置)のおかげで、急速に成長しつつある。ウォーカーいわく、新たなテクノロジーによって、研究者たちは眠っている脳に「特別に入室できる」ようになったというのだ。

現在44歳で英国リバプール出身のウォーカーは、この分野を20年以上研究しており、初めて論文を書いたのはわずか21歳のときだった。

マシュー・ウォーカー
Photo: Frederick M. Brown / Getty Images


「子供のころから人間の意識というものに魅せられていました、と言いたいところですが、実際には単なる偶然でした」

もともとウォーカーは、ノッティンガム大学で医学博士号を取得すべく勉学に励んでいた。ところが医者に向いていないとわかってからは(答えよりも疑問のほうに魅せられるタイプだったのだ)、専攻を神経科学に変更。大学卒業後は英国の医学研究会議の助成のもと、神経生理学の博士号の勉強を始めた。睡眠学と出会ったのもそのころだった。

「さまざまなタイプの認知症患者の脳波パターンを見ていても、悲しいことに、違いがまったく見つけられなかったんです」

ところが、ある晩に読んだ科学論文がすべてを変えた。その論文には認知症の種類ごとに損傷を受ける脳の部位が書かれていた。

「認知症には、睡眠の制御を司る脳の部位にダメージを与えるタイプのものもあれば、その部位にまったくダメージを与えないタイプのものもある、と。そこで、はたと自分の間違いに気づきました。それまでは、認知症患者が目覚めているときの脳波を測定していました。でも本当は、患者が眠っているときに測定すべきだったんです」

それから半年かけて、睡眠実験室の作り方を独学で学んだという。そして彼の予測どおり、のちにその実験室から得たデータからは、患者ごとの違いがはっきりと見て取れた。睡眠は、認知症の種類を把握するための新たなリトマス試験紙になりうるのではないか──。

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