企業・経営

自動車業界の重鎮が予測した「2050年に消えるもの」 

クルマは残るだろう。しかし…

自動車業界を変える「CASE」をご存じか

自動車産業界ではいま、大きなパラダイムシフトが進んでいる。1908年に米フォード・モーターが自動車の大量生産を始めて近代のモビリティ産業が確立されて以来の地殻変動的な変化が起きているのだ。

これまでは自動車メーカー同士の戦いだったのが、IT企業などからの新規参入も相次ぎ、まさに異次元競争が始まろうとしている。単にコストが安くて使い勝手やデザインも良いクルマを造っていれば競争に勝てる時代は終わった。

特に先進国の消費者の価値観は、クルマを所有することよりも、「利用」することにシフトしている。このため、自動車メーカーは単にハードを提供するだけではなく、「モビリティー(移動手段)サービス」を提供しなければ顧客を逃がしてしまう時代に突入した。

 

こうした自動車産業の動きは「CASE」というキーワードで端的に象徴される。ドイツのダイムラーが使い始めたと言われており、Connected(つながるクルマ)、Autonomous(自動運転車)、Shared(配車サービスなど)、Eelectric(電気自動車)の頭文字を取ったものだ。

世界の自動車メーカーは、こうしたことを意識してビジネスモデルを再構築しようとしている。トヨタ自動車は新組織のモビリティ―サービス企画部を新設するほか、子会社で法人向けリース事業の「トヨタフリートリース」と、同じく子会社でレンタカー事業の「トヨタレンタリース」を2018年4月1日付で統合し、新会社「トヨタモビリティ―サービス」を設立する。

ドイツのフォルクスワーゲン(VW)も2016年秋に公表した新経営計画「トランスフォーム2025」で、モビリティーのサービス会社を目指す方向性を明確に打ち出した。その上で、注力する4分野として「コネクティビティ」「自動運転」「電動化」「カーシェア」を掲げている。まさに「CASE」だ。

この「CASE」が自動車産業で進化していくと社会にどのような変化をもたらすのか。自動車メーカーの経営者自身が「2050年に消えるものは、ガソリンスタンド、運転免許証、信号機、自宅の駐車場ではないか」と予言する。

このような未来社会の展望を披露するのは、産業革新機構会長の志賀俊之氏だ。氏は日産自動車で最高執行責任者(COO)を歴任、現在も日産取締役を兼任しており、40年近く自動車業界を見てきた経営者だ。

志賀氏の予言を補足すると、こうなる。電気自動車の普及によってガソリンスタンドは不要になる。自家用車を使わない時間はシェアカーとして貸し出す際に、インターネットに常時繋がっているので指示を受けて無人の完全自動運転によって借りたいお客のところに勝手に動いていけば、自宅の駐車場は要らなくなる。

優れた予知機能を持つAIが搭載された完全自動運転車であれば信号の指示に従わなくても事故は起こらない。そして人間が運転しないので、免許証も要らなくなるといった具合だ。

【PHOTO】iStock

「内向き志向」で勝てるわけがない

ホンダは2017年1月、米ラスベガスで毎年、開催されている世界最大の家電見本市で、提携先のソフトバンクの人工知能「感情エンジン」を搭載した世界初のコンセプトカーであるEVコミューター「ホンダNeuv(ニューヴィー)」を公開したが、そのコンセプトが端的に次世代のクルマ社会を物語っている。クルマが、所有者や家族とおしゃべりもしながら、その行動を学習して、人間に寄り添っていくというコンセプトだ。

所有者であるドライバーの表情や声の調子から、体調やストレスを判断して安全運転をサポートしたり、その家族の嗜好を学習して好みの音楽を流したりする。さらに所有者が使用していない時間は、所有者の許可を得て自動運転で移動し、ライドシェアに利用される状況も想定している。