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2017年
年間ベスト・アルバム 50
by YOSHIHARU KOBAYASHI
SOICHIRO TANAKA
December 30, 2017
2017年<br />
年間ベスト・アルバム 50

世界がポピュリズムの波に飲まれ、人々の分断が更に深刻化した2017年。その問題解決の糸口は一向に見つからない。我々が数十年来のゴールデン・イヤーと呼んだ「栄光の2016年」を経て、この混迷を極める時代にポップ音楽は如何に向き合ったのか?

2016年のトランプ大統領誕生とブレグジットを経て、この2017年、世界の分断と対立は一層深刻さを増した。人種や国家から個人のテイストに至るまで、あらゆる場面において敵と味方が線引きされ、衝突と争いが後を絶たなかった。これは決して海の向こうだけの問題ではない。少しだけ立ち止まり、思考と対話を積み重ねるという行為は、誰もが結果を急ぐあまり、目の前の決断によってかき消され、慌ただしい日常の中に埋もれつつある。

思い出してみよう。2015年にケンドリック・ラマーが送り出した輝かしいアンセム“オールライト”は、当時のブラック・ライヴス・マター運動のシンボルとなった。しかし、今やブラックの同胞だけに語りかける行為は、人種間の緊張を高める結果に繋がってしまうことに誰もが気付いている。特定のコミュニティに語りかける行為は、そこから疎外された人たちとの摩擦を生む。分断は分断を呼ぶ。だからと言ってすべての人たちに語りかけようとしても、物事はそう簡単ではない。あらゆる利害関係と思想信条と趣味嗜好は複雑に入り組んでいて、安易に答えは出せない。しかし、それでも諦めず、声を上げ続けなくてはならない。では、どんな方法で?

2017年の音楽を考える上では、こんな視点も不可欠だろう。〈ビルボード〉が発表した「音楽業界で影響力のある人物100人」でメジャー各社やライヴ・ネイションのトップを押さえ、当然の如くSpotifyのCEOが1位に選ばれたように、今やストリーミング・サーヴィス抜きに音楽は語れない。現在、海外の音楽マーケティングの最優先事項は、〈ピッチフォーク〉や〈ガーディアン〉に高評価のアルバム・レヴューが掲載されることではなく、フォロワー数の多いSpotifyのプレイリストに曲単位で入れてもらうこと。この潮流が本格的に全面化したによって、約50年に渡って音楽文化の中心にあった「アルバム」というアートフォームはアクチュアリティを失いつつある。ストリーミング後進国である日本以外では。

Spotifyがもたらした「プレイリスト至上主義」はアルバムという単位を葬ろうとしているだけではない。ヒットの法則は人気プレイリストに入れてもらうこと。それならば、そのプレイリストに合わせた曲を最初から作ればいい――そんな風に、アーティストがポピュリズムに迎合する傾向は飛躍的に強まっている。トランプ大統領誕生とブレグジットが悩ましきポピュリズムの産物だとすれば、音楽文化が直面している問題もまた、2017年の世界が抱える問題と相似形だと捉えることも出来るはずだ。

では、2017年は険しいだけの年だったのか? そんな風に急激な変化と混迷を極める時代にあってポップ・ミュージックは力を失っていたのか? いや、むしろ逆だ。数十年来のゴールデン・イヤーだった「栄光の2016年」に勝るとも劣らない年だった。我々〈サイン・マガジン〉としては、そう断言したい。

この分断と対立の時代に向き合い、異なる立場の人々に対して何度でも根気強く、新たなアイデアで語りかけること。そして、ポピュリズムという名の大衆性には半歩足を踏み入れつつ、その緊張感の中で個々のアイデンティティを明確にした作品を作ること。アーティストにとって、そんな当たり前の公理が重要だと再認識させられたのが2017年だったのではないか。だからこそ我々は、2017年のベスト・アルバムを選出するにあたり、あらゆる分断を超え、すべての人に語りかけるという「ポップ」の定義に立ち返った。

ただ断っておかねばならないのは、2017年という年は2016年がそうであったような、「偉大なアルバム」が量産された年ではなかったということ。むしろ「偉大なソング」が何百と産み落とされた年なのだ。その理由は前述のような全世界的なストリーミング・サーヴィスの一般化という状況と分かちがたく繋がっている。実際、2017年におけるポップ・ミュージックの活況と面白さを十二分に味わい尽くすには、アルバムを追いかけているだけでは難しい。そんな年だった。

だからこそ、50枚の年間ベスト・アルバムというフォーマットで、2017年におけるポップ・ミュージックの活況を伝えることはとても難しかった。だが、ここに選んだ50枚のアルバムは、上述のような諸々の問題意識を共有した上で、それぞれの回答を聴き手一人ひとりに投げかけている。その答えの出し方はアーティストによって千差万別。しかし、それこそが、あらゆる問題が複雑に絡み合い、誰もが納得する答えを簡単には見つけられないという2017年のリアリティではないだろうか。

それでは発表しよう。これが〈サイン・マガジン〉が選んだ2017年を象徴する50枚だ。

2017年 年間ベスト・アルバム 41位~50位

2017年 年間ベスト・アルバム 31位~40位

2017年 年間ベスト・アルバム 21位~30位

2017年 年間ベスト・アルバム 11位~20位

2017年 年間ベスト・アルバム 6位~10位

2017年 年間ベスト・アルバム 1位~5位

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