Entrance Part2

心を解き放て

僕といとことたのしいラーメンやさん

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今年は色々あった。その“色々”のせいで学校に通うのが困難になったから厄介である。今となっては「あ…もう留年ほぼ確定やんけ…」って諦めるレベルに追い込まれてるんだけれど、少し前の段階では一握りほどの希望はあった。

うちの両親もなんとかしようと必死になり、当の本人も必死になった。けれど、それ以上に祖父母が必死になった。

「じいちゃんばあちゃんの最後のお願いだから学校卒業してくれ」

***


高校受験の際、絶対合格すると思った私立高校の不合格をきっかけになんだかやる気をなくした僕は、受験する公立高校のレベルを落としてもともとの滑り止めだった高校を第一志望にした。しかしやっぱりやる気のなさは色々結果に響いて来るらしく、そのさらに下の滑り止めに通うことになった。なんだか手応えのない受験で、当日点がその高校の合格点を大幅に超えたことで、塾の先生には怒られ友人に馬鹿にされたのを覚えている。8割を超えたなら、初めの段階の第一志望を受けておくべきだったと。

そんなわけでズルズルと滑るように落ちて行った僕は、高校では簡単に1位を狙えた。それが当たり前だったし、レベルの差に色々と考えさせられた。僕は何をやっているんだろう。なんかすごくめんどくさいことを前に卑屈になってしまってしまう自分が好きではなかった。

センター試験が近い。高校に入学した頃は、普通にみんなとセンターを受けて、みんなの中ではまぁいいラインの点数を取って、みんなと同じタイミングで大学を受けると思っていた。実際はどうか。冬休み前の面談で、もう浪人することを決めてしまった。最後の追い込みをしているみんなが机に向かっているなら、僕の目の前には6歳になったばかりのいとこがいる。ああ言えばこう言う年頃らしい。ちょうど僕もああ言えばこう言う性格なので、なんだか懐かれた。


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話を戻す。両親と祖父母は気が参って朝布団から出なくなった僕を心配して、いろんな選択肢を用意してくれた。その一つが祖父母の家でしばらく生活することだった。僕は実際にそうした。

祖父母の家にはいとこがいた。この子はだいぶ訳ありで、色々と大変な人生を送っていくように思えた。このブログに書けないくらいには訳ありなので、第三者のサポートが絶対的に必要になって来る。

そんな彼女の面倒はほとんど祖父母が見ている。祖父母と、彼女と生活してしばらく経つけれど、「ティッシュ」といえば機械的にばあちゃんが運んで来るし、スーパーで「これが欲しい」といえば僕がいくら「今日は我慢だよ」と反対しようと「ばあちゃん呼んで来る」で解決する。なるほど、彼女は相当甘やかされて育ってきたみたいだ。

いとこと二人で留守番をしている時、机の上の紙くずをゴミ箱に捨てさせようと「ゴミはゴミ箱に捨てるんだよ」と教えた。当然のように聞く耳を持たないので「一緒にやろうか」と持ち出す。結局ゴミを捨てさせるのに20分ほどかかった。実際にゴミ箱にティッシュをシュートした時、彼女をひたすらに褒めてやった。「ほら、できるじゃない」と頭をガシガシ撫でてやった。すると彼女は、言葉ではない「うーえーあー」みたいなことを言い出す。ああそうか、彼女はまともに怒られることもなければ、まともに褒められることもないのだ。


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僕は、自分が鬱になった原因がさっぱりわからない。でも、予兆みたいな元はあったのを覚えている。毎朝、登校する際に「なんで君は毎朝学校に通うためにバイクを漕ぐのか」と友人に毎日のように聞いていた。なぜみんなは毎日学校に通えているのか、常に疑問だった。そんな僕も、実のところ1・2年の頃は遅刻ゼロだったのだ。疑問に思いつつも、みんなも大変だろうし、なんて思っていた。

2年生の終わり頃、部活をバックれ始めた。なんだかめんどくさくなった。顧問の先生には「こんな夢があるので部活やってる場合じゃない」みたいなことを言ったけれど、そんなことはどうでもよかったのかもしれない。とにかく、休みが必要だった。部活なんてバックれてもいいでしょう。

そうやってズルズルと休むうちに、幽霊部員みたいなものになった。そのままズルズルと引退した。いや、正確には引退試合なんかをやっていないので現役なのかもしれない。別にこれでもよかった。変に後悔することもなく、そのまま学校も休み始めた。

今でも鮮明に覚えている。学校をバックレる前日、深夜、弁当箱を洗っていたら自然と涙が流れてきた。ああ、ダメかもしれない。本当に次の日、登校中に「帰ろう」と思ってUターンして自宅に戻った。小心者の僕がグレた。勇気がいったでしょうに。

心療内科では、両親の暴力と怒鳴りつけみたいなのが原因でうつ状態であると言われた。カウンセリングではだいぶ泣いた。先述した、「なんとなくズルズル落ちていくような生活を続ける中で、両親の家庭のピリッとした空気がアクセントになって鬱になった」らしい。なんだか何をする気もわかない。ああ、失敗した。今でも後悔する。あの時の、Uターン、あの時の、あのちょっとした“勇気”がなければ、ここまで落ちて来ることはなかったんじゃないか。

***


いとこは怒られることもなければ褒められることもない。羨ましいけれど、なんだか可哀想だ。僕が面倒を見よう、そう思った。

祖父母の家で生活してみると、彼女がどんな環境で育っているのかがよくわかった。まずテレビ。うちの祖父はギャンブル癖があり、競馬実況かパチンコ攻略のチャンネルが四六時中垂れ流されていた。途中、「ビンビンになりました!」みたいな精力剤のCMが流れたりする。夜はまた別。6時になったらBSでドラえもんがやるから、といっていとこはリモコンを探そうとする。そこで彼女は毎度祖父とチャンネル権を争う。最終的には祖母が「大人が何をやってるんだ情けない」といってTVにはドラえもんが映るのだけど。

ただし、BSで毎日放送されているだけあって、過去に放送された内容を何度も繰り返しているため、この後のび太がどうするだとかドラえもんがこうなるだとか、いとこはあらすじをペチャクチャ喋る機械と化す。

そんなわけで、しばらく普通のバラエティー番組すら観られなくなった僕は辟易した。ああつまらないな、と思って家に戻りたくなった。同時に、彼女を心配した。ああ、ダメじゃないか。遊んであげないと。

それでも僕は一度家に帰ることになった。生活環境を変えて、リフレッシュを目的にこちらに来たのに、テレビごときに辟易しているようじゃ元も子もないと思った。

***

そして今日、祖父母の家に戻って来た。多分僕には行ったり来たりするくらいがちょうどいい。年末年始はいずれにせよこちらに来るわけだし、悪くないと思った。ここにはいとこがいる。遊んであげよう。

そういうわけで、縄跳びを一緒にした。それから、「たのしいラーメンやさん」というねるねるねるね的な感じでラーメンを作ろう、みたいないわゆる知育菓子を一緒に作ってあげた。

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一緒に作っていて思ったのだけれど、作る手順とか作る工程とか、全部わかりづらいし普通に難しい。僕ですらスープを作る容器を間違えた。ああ、これは僕の失態かもしればいけれど、とにかくわかりづらい。彼女一人ではなかなか作れないな、と思った。

少し難しい工程を前にすると、彼女は「にいちゃんやって」と言って来る。僕が断ると「ねぇ、ばあちゃーん」とぐずって来る。君はドラえもんに助けを求めるのび太くんですか。

それじゃあダメだよ。面倒臭く感じても、ちょっとだけやってみなきゃあダメなんだよ。それを僕に任せたら、それから逃げたら、ダメなんだよ。知育菓子ごときで感情が高ぶってしまってアホらしいけれど、本気なんだ。

パッケージに記載されている工程を、全て読み上げさせた。時々、理解しているかチェックしたりした。彼女はだるそうな顔をしていたけれど、これでいいと思った。何度か説明を読み飛ばして作業を進めだしたのでなんで知っているのか、と問うたら「〇〇ちゃんと〇〇くんがやってたから」と言う。保育園の友達かな、と思ったらyoutubeチャンネルで活動している子供だった。そういえば、彼女は保育園から帰って来たら親から与えられたiPhone5sでひたすらyoutubeを見ていた。何度か注意したけれど、注意するたびに怒って2階へ上がって行ってしまった。

少し前では「子供にそう言う端末を与えるのは育児放棄だ」なんて問題になっていたけれど、今となっては普及しすぎて「あの子も持ってるから」理論で買い与えてしまうケースは多いだろう。それが育児放棄かどうか、僕に語る権利がないのは分かってる。だけど、よくないよ。

 

***

 

難しい工程も、基本的にやらせる。「早く食べたいからにいちゃんがやってよ」と言うから「いやいや、これはね?知育菓子なんだよ?知を育むお菓子なんだよ?勉強なんだよ?」とあやした。彼女は怒った。僕がスープを作る容器を間違えた時はさらに怒った。だから僕はペコペコ謝った。なんだか楽しかった。

完成してから10分経つと麺が硬くなるらしいので、タイマーの存在を知っているか確認した。どうやら知っているらしい。僕の持っているiPhone5sを取り出してsiriの使い方を教えてやった。「10分タイマー」をまともに言わせるのは大変で、彼女は何度もふざけるのでなかなか聞き取ってくれなかったけれど、それでも最終的には「10:00」がディスプレイに表示された。

そういえばこの間読んだ本に、あの手の音声認識技術はコストの割に微々たる進化しかしないため、これからめまぐるしい発展はしていかないだろう、とあったんだよ。ああ、この子に言ってもしょうがないな。彼女はタイマーを凝視していた。なんだか僕のiPhone5sが最新の端末みたいに誇らしく思えた。

***


完成したラーメンはぶっちゃけ不味かった。だけど、君はちゃんとバックれなかったんだよ。偉いじゃないか。そんな風には褒めなかった。けれども確かな進歩はあったよ。そうだな、僕も3学期頑張ってみようかな。政治経済なんかは1コマか2コマ欠席するだけで留年が決まるらしいけど、えへへ。

最後に聞いてみる。「ねぇ、学校を卒業するにはどうすればいい?」「学校にいけばいいじゃん。簡単じゃん」今の僕にとってそんなのはトートロジーだよ、と笑い飛ばせた。2017が終わる。ダサいけれど最後に足掻いてみようかな。来年もこんな僕だけどよろしくね 

fin-