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第02回 「日本の労働生産性は低い」は本当か?【前編】

誰も言わない経営者が持つべき“働き方改革”の視点

株式会社ワイズエッジ
代表取締役  経営コンサルタント  清水 泰志 氏

2017年07月05日 更新

「労働生産性」を正しく理解することが第一歩

「長時間労働の是正のためには、労働生産性を向上させればよい」という意見を、特に最近よく耳にするのではないでしょうか。「長時間労働の是正」と「労働生産性の向上」は国の政策的なテーマとしても企業の戦略的課題としても、重要なキーワードになっています。
ただし、「労働生産性の向上」のためのWhat(何を)とHow(どのように)を的確に考えるためには、最初に労働生産性について正しい理解をしておく必要があります。

先ずは、単純な計算式の確認です。
[生産性]=産出量(アウトプット)÷投入量(インプット)が基本的な等式ですから、インプットに対してアウトプットが多いほど生産性が高いことになります。労働生産性の場合、インプットが「労働量」でアウトップットが「付加価値」になります。
労働量については、一人当たりの労働生産性を導き出すときは「人数」になり、時間当たりの労働生産性を導き出すときには「時間」になります。つぎに、付加価値については、[売上高]-[外部調達費]という数式で求められますが、外部調達費とは原材料費・仕入原価・外注加工費・燃料動力費などを具体的に指します。そして、付加価値の中には、人件費・支払利息・租税公課・減価償却費・賃借料・税引前利益などが含まれています。
実は、いま説明をした労働生産性を導く計算式は、企業の労働生産性を求めるためのもので、日本生産性本部が毎年発表している主要先進35ヶ国で構成されるOECD加盟国の労働生産性とは導き方が異なります。
労働生産性の国際比較で用いられる数値は、インプットはその国の1年間の平均就業者数で、アウトプットはその国のGDP(国内総生産)となります。[GDP]÷[国の1年間の平均就業者数]で求められる「生産性」は別名「国民経済生産性」と呼ばれています。
企業の財務分析のときも国際比較のときも、何気なく労働生産性という言葉を使っていますが、実は内容が異なることを理解しておいてください。今回のコラムの中では、労働生産性と言った場合、基本的に国民経済生産性を指します。

その日本の労働生産性が、2015年にOECD加盟35ヶ国中22位という結果だったために、こうした事実を捉えて、「日本の労働生産性は低い」という指摘がされています。
先ほど述べたように、[労働生産性]=[GDP]÷[労働量]という等式が成り立つので、労働生産性が低い場合、「GDPが少ない」か「労働量が多い」かその両方が原因となっていることが分かります。逆に、労働生産性を上げたければ、「GDPを増やす」か「労働量を減らす」かその両方を行う必要があります。
ただし、GDPも就業者数もその意味をきちんと理解しておかないと、結果として算出される労働生産性の意味を誤解することになります。そこで、GDPと就業者数について、留意すべき点について見ていきたいと思います。

GDP(国内総生産)は意外とあいまいなもの

先ずGDPについてです。GDP(国内総生産)とは、「国が1年間で生み出した総付加価値」と説明することがありますが、それでは「付加価値ってなに?」という質問に置き換えられるだけで、あまり答えになりません。
GDPは、大きく分けて3つの観点からとらえることが出来ます。それは、生産・分配・支出です。この3つの観点からGDPを捉えると、算出する数式は異なるけれど結果は等しくなります。これを三面等価の原則と呼びます。経済の循環を考えると、財・サービスの生産→生産された財・サービスの価値(収入)の分配→分配された価値(収入)の消費という一連の流れで成立しているため、これら3つの生産・分配・支出が同一になるということです。
このうち生産面から捉えるGDPが、最もポピュラーで感覚的にも理解しやすいでしょう。
GDP=国内の最終生産物の価値(≒価格)の総和
つぎに分配面から見ると、以下の数式によってGDPが求められます。
GDP=[雇用者所得]+[営業余剰]+[財産所得]+([間接税]-[補助金])+[固定資本減耗]
「お金は何のために分配されるか?」という視点で考えると、「消費」「貯蓄」「納税」の3つの用途があります。したがって、より簡単に表すとこうなります。
GDP=消費+貯蓄+税金
最後に支出面からは、以下の数式によってGDPが求められます。
GDP=[民間消費]+[民間投資]+[政府支出]+([輸出]-[輸入])
政府支出の中には「消費」と「投資」が含まれています。また、輸入>輸出のときは貿易赤字が発生し、輸入<輸出のときは貿易黒字になります。そこで、民間と政府の区別をせずに、より簡素化すると、以下の数式で表すことができます。
GDP=消費+投資+輸出入
何やら分かりづらい話に思えるかもしれませんが、What(何を)とHow(どのように)を考えるに当たっては、GDPの成り立ちをこのように分解することで見えてくるものがあります。
例えば、GDPを増やすためには分配面から見ると、「雇用者所得」が増える必要がありそうです。また、支出面から考えると、公共投資に繋がる政府支出を増やすことも効果があるし、輸出額を増やすことも選択肢の一つでしょう。

ところが、GDPという数字は一つの「意見」であり、「事実」とは言い切れない側面があります。理由の一つは、算出基準によって増えたり減ったりするものだからです。最近では昨年12月、従来の1993SNA基準から最新の2008SNA基準に切り替えることで、2015年度のGDPが31.6兆円(GDP比6.3%)上方修正されることが発表されました。この主たる要因は、これまで中間消費とされてきた研究開発費を投資と見なしてGDPに算入したことですが、それ以外にも特許使用料とか不動産の仲介手数料なども追加されました。
それ以外にも、「購買力平価」という調整が国際比較の際には加えられます。各国の通貨のままでGDPを比較することが出来ないので、国際的な基準通貨であるUSドル建てに引き直しますが、為替相場は投機的な思惑でレートが大きく変動することが多々あるために、そのままでは実態を表していないということで、購買力調整を行ったUSドル建てのGDPを使用しています。
具体的に言うと、米国では1ドルで買えるものが日本ではいくらで買えるかによって決まります。例えば、同一のミネラルウォーターのボトルが、米国では1ドルで日本では130円だとすると、為替レートは1ドル=110円であったとしても、購買力調整済みレート(PPP)では130円ということになります。実際にはたった一つの品物だけで決定しているわけではなく、複数の商品やサービスなどを対象として統計処理をして導き出しています。
一昔前のようにGDPを構成する内容が、ほとんど生活必需品的なモノであった時代には、一物一価を前提にしたそれなりに意味があった調整でしたが、最近のようにサービスが占める割合が大きくなってくると、ピンからキリまで価格が存在するので、今となってはあまり意味のない指数と言われています。だからと言って、実勢為替レートを使うわけにはいかないというところなのでしょう。
2017年1月時点では、為替の実勢レートが約111円ですが、PPPは約126円になっています。したがって、USドル建て換算では、実勢レートを使用する場合と比べて、約14%円安になっています。仮にこの数値を使用して、GDPをUSドル建てに換算すると、それだけで日本のGDPは約14%目減りすることを意味します。成長率が1%強という現在の日本にとって、GDPの購買力調整は相当大きな変動要因です。

就業者と失業者の境目はどこにあるのか

つぎに、労働生産性を導き出すときの分子である「就業者数」について考えてみます。就業者数を会社単位ではなく国レベルで算出する場合、「失業率」が無視できない要素になります。
日本の直近の失業率は、3%弱ですが、労働生産性でランキング10位までに入っているフランスは10%台、ベルギーが8%台、米国が5%台、そして1位のルクセンブルクも5%台となっています。
これが何を意味するかと言うと、企業の業績が悪化したとき、解雇をどんどん行う国では就労者数が減少するので、失業率は悪化しますが、その代わりに労働生産性が上がるのです。
1,000万円の利益を97人で稼ぎ出せば、一人当たりの利益額は103,092円ですが、90人で稼ぎ出せは111,111円になります。これによって、労働生産性は7.8%程度上昇します。
加えて、より根本的な問題を言うと、それぞれの国で「失業者」の定義が異なっています。失業率は、[失業者数]÷[労働力人口]から算定される指標ですが、労働力人口とは、就業者数と失業者数とを合計した人数ですから、失業率を求めるためには就業者と失業者のカウントのやり方次第で、失業率は大きく変動する可能性があります。

日本では毎月実施される『労働力調査』において失業率を発表していますが、この調査での失業者の定義は、「現在仕事がなく、仕事を探していた者のうち、仕事があればすぐ就くことできる者」になっています。ただし、「現在仕事がない」とか「仕事を探していた」とは、厳密には、労働力調査の対象期間である「月末の1週間内」に限定されています。これを日本独自の表現で「完全失業者」と呼びます。
つまり、「失業者」とは「働く意志を持っていながら現在無業の者」を意味するので、求職活動を月末の1週間に行わなかった人は、「働く意志がない」と見なされ、単なる「無業者(無職)」となり「失業者」にはカウントされません。したがって、日本の労働力人口を形成する「就業者」と「完全失業者」の中には含まれないのです。しかし、この考え方はおおくの人の肌感覚とはズレがあります。失業とはもっと日常的な状態を指していると考える方が自然です。

同じ総務省統計局が5年に一度行っている調査に『就業構造基本調査』というものがあります。この調査では「有業者」と「無業者」という分類を行っています。2つの調査の違いがどこにあるのかは、統計局自身が以下のように説明しています。
人口調査において,就業状態(収入を伴う仕事をしているかどうか)を把握する方法には、一定期間の状態により把握するアクチュアル(actual)方式と、ふだんの状態により把握するユージュアル(usual)方式があります。
『就業構造基本調査』では、15歳以上の人の就業・不就業について、構造調査であることから「ふだん」の状態によって把握するユージュアル方式で調査しています。一方、労働力調査は動向調査であることから、「月末1週間」の状態によって把握するアクチュアル方式で調査しています。
後ほど詳しく触れますが、アクチュアル方式で採用している「月末1週間」は、諸外国と比べると極めて限定されているために、国際的になるべく同じ基準に近付けようとするなら、ユージュアル方式で導き出された失業率の方が適切な可能性が高いのです。
そこで、『就業構造基本調査』が直近で行われたのは平成24年ですので、その年について具体的に、『労働力調査』との数字を対比してみましょう。(『労働力調査』については、平成24年の平均値)
○就業構造基本調査 有業者6442万人 無業者4639万人(うち就業希望者1093万人うち求職者469万人)
○労働力調査    就業者6270万人 完全失業者285万人
それぞれの数値を使って、失業率を算出してみましょう。『労働力調査』では[完全失業者]÷([就業者]+[完全失業者])ですから、285÷(6270+285)=0.0435=4.35%となります。つぎに『就業構造基本調査』においては、無業者のうち「就業希望者」を「失業者」と見なすと、1043÷(6270+1043)=0.143=14.3%が失業率になり、「求職者」のみを「失業者」と見なすと、469÷(6270+469)=0.0695≒7%が失業率になるので、倍も結果が違うことになります。いずれにしても、『労働力調査』における失業率より大幅に高くなります。

ここまでは日本の「失業者」の定義の話をしてきましたが、諸外国の場合はどうなのでしょうか。例えばアメリカの場合は、日本と比べると求職活動の有無の判定が、月末の1週間ではなく「過去4週間以内」です。ヨーロッパのドイツ・フランスなどは、期間の設定はなく「就業を希望し登録している者」すべてが「失業者」になります。
その他にも、各国の定義の違いをあげだすと切りがありません。ILO基準では就職先が決まっているが出社待ちの人は失業者に含みますが、日本では含みません。アメリカやカナダではレイオフ(一時解雇)の者も「失業者」に含みます。イギリスやドイツでは、家族従業者・自営業者は就業者に含みませんが、日本では含みます。アメリカやイギリスは軍隊を就業者に含みますが、カナダやドイツでは含みません。日本の自衛隊は就業者数に含まれています。
つまり、日本では失業率を算出する場合、分子の失業者は少なくなるようにカウントされ、分母の就業者数は大きくなるようにカウントされる定義になっているので、相対的に失業率は低くなります。労働政策が上手く機能しているように見せかけたいためなのか、その理由は定かではありませんが、労働生産性の計算をするときには、就業者数が多くなれば、その分一人当たりの付加価値額が少なくなるのは当然のことです。

また分母の「就労者数」には、国外からの通勤者は含まれません。特にEU域内では国境にとらわれずに、自由に居住し勤労できる環境が整っているので、自国に居住しつつ他国で就労している労働者が120万人いるとみられています。
労働生産性ランキング1位のルクセンブルクの場合、隣国からの就労者の割合が71%にのぼるので、その人数が分母の就労者数から除かれると、労働生産性は4~5倍も上がることになります。
そして当然、就業者として不法就労者はカウントされません。米国や欧州では、この不法就労者の割合がかなり高く、米国の場合その数が1,200万人と推計されていますが、これは全就労者の8%程度に相当する高い水準です。
このように、労働生産性の数値を諸外国と単純に比較しても、ベースになる数値の均一性が担保されていないため、一喜一憂したり単純に他国をベンチマークしたりすることに、それほど意味がないのです。

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