仮面ライダーに出てくる数式が話題 実は本物の物理学
日経サイエンス

コラム(テクノロジー)
科学&新技術
2017/12/30 6:30
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 「さあ、実験を始めようか」。人気テレビドラマシリーズの最新作、『仮面ライダービルド』の主人公・桐生戦兎(きりゅう・せんと)は、こんな台詞(せりふ)とともに様々なタイプの仮面ライダーに変身する。戦兎は天才物理学者で、毎回、物理法則を駆使して新たな武器を開発している。決め技を繰り出すときにはしばしばCGの数式が乱れ飛び、秘密基地にある黒板にもびっしりと数式が書かれている。

ホタルの明るさは円をぐるぐると回るように変化する。円の一番上にあるときに最も明るく、一番下にあるときは真っ暗で,これを交互にくり返す(上)。個々のホタルが「周りを見る度合い」が大きくなっていくと,全体の点滅リズムが次第に揃っていくような気がするが、実際にはそうではなく、ある程度大きくなったときに突然全体が同期する。

ホタルの明るさは円をぐるぐると回るように変化する。円の一番上にあるときに最も明るく、一番下にあるときは真っ暗で,これを交互にくり返す(上)。個々のホタルが「周りを見る度合い」が大きくなっていくと,全体の点滅リズムが次第に揃っていくような気がするが、実際にはそうではなく、ある程度大きくなったときに突然全体が同期する。

 実はこれらの数式は、毎回、本物の物理学者が選んでいる。番組の物理学アドバイザーを務める、慶応義塾大学の白石直人氏だ。日本学術振興会特別研究員PD(ポスドク)の若手理論物理学者で、同番組の制作サイドに大学時代の先輩がいた縁で番組にかかわることになった。

 第11話「燃えろドラゴン」では、主人公が友人の龍我に「お前の強い想いが閾(しきい)値を超えないと,シンクロへの転移ができない仕組みになってるんだよ!」と叫ぶ。「シンクロへの転移」は物理学の研究対象でもある。ただしこちらのシンクロは想いのシンクロではなく、振る舞いが「同期」することだ。

 例えば東南アジアのホタルは、日本のホタルとは違い、集団で光る習性がある。ボスのホタルが指令しているわけでもないのに、集団全体で同じリズムで点滅するのだ。もう少し物理的な例としては、ワイヤでつるした板の上に並んだメトロノームの同期現象がある。それぞれの針を微妙に違う周期に設定して適当に動かすと、初めはバラバラだが次第にそろっていき、やがてマスゲームのように一斉に左右に動くようになる。

 この11話で黒板に書かれていたのが、物理学者の蔵本由紀京都大学名誉教授がかつて示した、シンクロの数理モデルの式だ。シンクロは、個々が「自分のペースで振る舞う」という性質と、「周囲に合わせようとする」という性質を併せ持つことから起きる。蔵本氏は2つの性質がどんな兼ね合いになっているときにシンクロが起きるかを数式で示した。そして物理的な考察に基づいて、周囲に合わせようとする度合いが小さいときには最初がどういう状態でもシンクロは起きず、ある値を超えたときに突然シンクロすると結論した。

 この結論は直感的にもわかりやすく、実験ともよく合う。ところがこの蔵本モデルの式を数学的に解こうとすると、これとは違う結果が出てきてしまう。周囲に合わせようとする度合いが小さくても、最初の段階で個々の振る舞いがある程度そろっていれば最後までそのままそろっている、という結果になってしまうのだ。

 この問題は長年数学者を悩ませてきたが、最近、数学者の千葉逸人九州大学准教授によって解決された。千葉氏が編み出した新しい方法を使えば、数学的に得られる解が物理の観測と一致する。結果は数学界で大きく注目された。

 仮面ライダーの黒板の式は、番組中ではほんの断片しか映らないことも多い。それだけに一部のファンの間では、何の式かを当てるゲームのようにもなっている。毎週日曜日の放映後には白石氏や物理学者がネット上で解説しており、科学ファンを増やすのにも一役買っているようだ。

(詳細は25日発売の日経サイエンス2018年2月号に掲載)

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出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,440円 (税込み)

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