仮想通貨取引により生じた利益が雑所得に区分されることになりました。雑所得とは何なのでしょうか?
【プロフィール】
米津良治/税理士
税理士法人ファーサイト・共同代表
(公式サイト: http://farsight.co.jp )
一般社団法人クラウド経営協会・理事
上智大学法学部卒業後、一般企業を経て2013年から現職。
法人向けの税務顧問サービスを中心にしつつ、個人資産の税金対策などまで幅広く対応。
新しい技術、未知の領域への関心が強く、近年ではクラウド会計ソフトの普及推進による中小企業のバックオフィス業務の効率化に注力している。
仮想通貨の税務処理にも早い時期から研究、情報発信をしており、「億り人」の出国移住相談を含め、仮想通貨に関する税務相談にも取り組んでいる。
個人の所得(儲け・稼ぎ)には所得税という税金がかかりますが、所得税法では税金計算の都合上、所得を10個のグループに区分しています。代表的なものに「給与所得」、「事業所得」、「譲渡所得」などのグループがありますが、「雑所得」はそのうちのひとつです。名前の通り、他の所得のグループに当てはまらなかった仲間外れの所得たちをひとつのグループにまとめたものであり、「年金」、「原稿料」、「アフェリエイト収入」、「メルカリの転売益」なども同じ雑所得のグループに区分されます。
雑所得の税金計算上のポイントは3点あります。
1.収入額から取得費と必要経費を差し引いた利益の金額に税金がかかる
2.他の所得と合算して超過累進税率(住民税と合わせて最大55.945%)が適用される
3.他の所得と損益通算や損失の繰越ができない
■1.収入額から取得費と必要経費を差し引いた利益の金額に税金がかかる
収入額は、基本的には仮想通貨を売却して手に入れた金額です。後述しますが、売却をしなくても、商品やサービスの代金として仮想通貨を支払った場合や、他の仮想通貨に交換した場合もそのときの時価を収入額として計算します。
これに対して取得費は、その売却した仮想通貨を取得した際の金額です。たまに、まだ売却していない仮想通貨の購入代金も取得費に含めると勘違いしている人がいますが、それは誤解でして、売却した分だけが取得費になるので注意してください。とはいっても値札のついている現物の仮想通貨を売買している訳ではありませんので、取得費を把握するのは簡単ではありません。税金計算をする上で適当に取得費を決めてしまっては不公平が出てしまうので、国税庁は、一定のルール(移動平均法、または総平均法)で取得費を計算するように決めています。なお、仮想通貨の売買手数料も経費になります。具体的には、購入時の手数料は取得費に含めて計算し、売却時は必要経費に含めます。
以上の通り、一年間の収入額と取得費、必要経費を集計し、仮想通貨取引に係る雑所得の金額を計算します。
■2.他の所得と合算して超過累進税率が適用される
「雑所得」の金額が計算できたら、「給与所得」や「事業所得」などの他の総合課税の所得と合算し、そこから「配偶者控除」や「基礎控除」などの所得控除をして、課税所得金額を確定させます。総合課税の所得税は、この課税所得金額の大きさに応じて段階的に税率が高くなり、最高税率は住民税と合わせて55.945%です。
■3.他の所得と損益通算や損失の繰越ができない
課税所得金額を確定させる過程で、色々な種類の所得を合算しましたが、一部の所得が赤字の場合はどうなるでしょうか?例えば、「事業所得」や「不動産所得」が赤字の場合には、「給与所得」などの黒字の所得と相殺をすることができます。この黒字と赤字の相殺を「損益通算」といいます。うまく使えば大きな節税につながる仕組みなのですが、仮想通貨の売買損益である「雑所得」はこの「損益通算」の対象外とされています。つまり、仮想通貨の取引で赤字を出しても、「給与所得」や「事業所得」などの黒字と相殺することはできません。
ただし、これには2つだけ例外があります。1つは、仮想通貨の取引が「事業所得」に該当する場合です。例えば「事業所得者が、事業用資産として仮想通貨を保有し、決済手段として使用している」場合や、「仮想通貨の売買によって生計を立てていることが客観的に明らかである」場合などには、仮想通貨の売買が「事業所得」に該当するため、「損益通算」が可能です。(仮想通貨の売買によって生計を立てていながら、赤字というシチュエーションもスゴいですが・・・)
もう1つの例外は、仮想通貨の売買損益以外の雑所得との相殺です。例えば、仮想通貨取引の他に、メルカリで商品転売をしているような場合で、仮想通貨取引は10万円の赤字になったが、メルカリ転売は50万円の利益がでた場合には、差引40万円(50万円-10万円)が雑所得となります。
仮想通貨取引において確定申告が必要なケースを教えてください
■20万円以下の利益なら申告の必要はないのですか?
基本的には、仮想通貨取引で儲けが出た場合には確定申告が必要です。「20万円以下の利益ならば申告の必要はない」という説明をネットの記事でよく目にしますが、これは「給与所得」しかないなど、雑所得以外には確定申告をする理由がない人に限った話です。例えば、2カ所以上から給料をもらっていたり、「医療費控除」や「ふるさと納税」のために確定申告をしたりする場合には、利益が20万円以下であっても確定申告をする必要があります。
また、メルカリの転売益など他の雑所得と合わせて20万円を超える場合にも確定申告が必要です。
~仮想通貨取引の利益が20万円以下でも確定申告をする必要がある場合~
1.仮想通貨取引以外の理由で確定申告をする必要がある場合
2.他の雑所得と合計して20万円を超える場合
■仮想通貨同士の交換や決済利用をした際はどうなりますか?
また、一時期、「仮想通貨同士の交換をした場合や仮想通貨を使って買い物をした場合などには税金がかからない」という説が流れたことがあり、私も何度かお客さんから質問されましたが、2017年12月に出た国税庁のFAQで完全否定されています。仮想通貨同士の交換をした場合や仮想通貨を使って買い物をした場合にはその時点で、いったん仮想通貨を円に換金して他の仮想通貨や商品を買ったのだと考えてみると腹に落ちると思います。
その一方で、「含み益のある仮想通貨を持っているだけでも値上がり益に税金がかかる」と誤解している人もたまに見かけます。税金がかかるのは仮想通貨を売却したり、支払手段として使用したりしたときだけですので安心してください。
ネット上には古い情報も残っていますので、誤った情報をもとに判断しないように注意してください。
~これは誤解です~
×仮想通貨同士の交換には税金がかからない
×仮想通貨を使った買い物には税金がかからない
×仮想通貨を持っているだけでも値上がり益(含み益)に税金がかかる
仮想通貨同士の交換の場合、どのように計算すればいいのですか?
(例)
3月 9日 200万円で4BTCを購入した
11月2日 1BTCを10ETH(交換時の時価は6万円/ETH)に交換した
既に持っている仮想通貨を他の仮想通貨に交換した場合には、その交換時点での他の仮想通貨の時価と保有する仮想通貨の取得価額との差額が所得金額となります。一時期、「仮想通貨同士の交換には税金がかからないのでは?」という噂がありましたが、仮想通貨同士の交換にも税金がかかることがはっきりしましたのでご注意ください。
また、実際に計算をする際には、交換時点での他の仮想通貨の時価を把握する必要があるので注意が必要です。仮想通貨取引所から取引データをダウンロードしても、仮想通貨同士の交換の場合には、交換先の仮想通貨の円ベースでの時価が記載されていないことがあります。その際は、取引データから取引日時を頼りに円ベースの時価を調べる必要があります。
(6万円×10ETH) - (200万円÷4BTC) × 1BTC = 10万円
【ETHの購入価額】 【1BTC当たりの取得価額】 【支払BTC】 【所得金額】
複数回に渡って購入している場合は、移動平均法を用いて計算されますが、どのように計算すればいいでしょうか?
(例)
3月 9日 4BTCを200万円で購入した
5月20日 0.2BTCを11万円で売却した
9月28日 0.3BTC で15万5千円の商品を購入した
11月 2日 1BTCを10ETH(交換時の時価は6万円/ETH)に交換した
11月30日 2BTCを160万円で購入した
同一の仮想通貨を一年に2回以上に分けて取得した場合の取得価額の計算方法は、「移動平均法」により計算しますが、継続適用を条件に「総平均法」により計算することも認められています。なお、一般的に、価格上昇局面では総平均法で計算した方が節税になります。
=移動平均法の計算方法=
移動平均法では仮想通貨を取得する都度、取得価額の再計算をします。具体的にはその時点での在庫金額を在庫数量で割ります。
※11月30日に単価80万円でBTCを購入したことで、取得価額が633,334円まで吊り上がりましたが、5月20日~11月2日の間の売却・使用の際の利益計算には、過去の取得原価(500,000円)を使うところが移動平均法のポイントです。
総平均法の計算方法
総平均法では単純に、一年間の平均取得単価で計算します。
設例の場合だと、取得は3月9日と11月30日の2回のみでして、取得金額の合計は3,600,000円、取得したBTCの数量は6BTCですので、取得単価は600,000円(3,600,000円÷6BTC)となります。11月30日に駆け込みで取得したBTCで取得価額が吊り上がったのに、5月20日~11月2日の間の売却・使用の際の利益計算にはその吊り上がった取得価額(600,000円)を使うところが総平均法のポイントです。
移動平均法と総平均法の比較
仮想通貨の確定申告に関する相談などは増えていますか?
増えています。弊社は特に「仮想通貨専門」みたいな広告を出している訳ではありませんが、ホームページやインターネット上の記事をきっかけにこれまでお付き合いのなかった方からのお問合せが何件もありました。また、弊社は法人の税務顧問が比較的多いこともあり、顧問先企業の役員からもよく相談を受けています。
仮想通貨の確定申告は正直なところ慣れておらず、相談を受けるこちら側も悩みながら進めています。雑所得の確定申告のルールは上述した通りですが、実際に業務に取り掛かると、ログインボーナスをどう取り扱うか、とか複数の取引所で取引をしていたり、仮想通貨同士の交換をたくさんしていたりする場合に取引の全貌を把握するための作業量が膨大になったりと難しいポイントがいくつも出てきます。
特に「移動平均法」で厳密に計算をしようとすると、かなり大変になります。個人的には、仮想通貨取引の所得計算に「移動平均法」を使うのは事務負担が重すぎるのではないかと感じています。継続的に適用をすることを前提に「総平均法」の利用も認められていますが、「総平均法」の方が比較的簡単に計算ができます。
また、事務負担もさることながら、価格上昇面では「総平均法」で計算をした方が税金が安くなることも少なくないため、ご相談をいただいた際には、「総平均法」で計算をすることをお薦めすることもしばしばあります。
■税理士選びのポイントはありますか?
仮想通貨の確定申告を税理士に依頼する際には、仮想通貨の取引を実際にしたことがあるのか?という点や、細かいところにこだわり過ぎずバランス感覚をもったアドバイスをしてくれるか?という点に注目して税理士選びをしてみるといいでしょう。また、確定申告の時期(2月~3月)は税理士が一年で最も忙しい時期です。忙しい時期に不慣れな仕事を敬遠する税理士も多いと思います。確定申告をしたいのに依頼先が見つからず、期限内に確定申告が終わらないと、無申告加算税や延滞税がかかってしまいます。そのようなことにならないよう、早めに相談をしましょう。
プロフィール紹介
米津良治/税理士
税理士法人ファーサイト・共同代表
(公式サイト: http://farsight.co.jp )
一般社団法人クラウド経営協会・理事
上智大学法学部卒業後、一般企業を経て2013年から現職。
法人向けの税務顧問サービスを中心にしつつ、個人資産の税金対策などまで幅広く対応。
新しい技術、未知の領域への関心が強く、近年ではクラウド会計ソフトの普及推進による中小企業のバックオフィス業務の効率化に注力している。
仮想通貨の税務処理にも早い時期から研究、情報発信をしており、「億り人」の出国移住相談を含め、仮想通貨に関する税務相談にも取り組んでいる。
【著書】
・会計事務所と会社の経理がクラウド会計を使いこなす本-これ1冊ですべてわかる! (ダイヤモンド社)
・できる税理士は知っているこれならうまくいくクラウド会計(第一法規版)
・事業承継のツボとコツがゼッタイにわかる本(秀和システム)
・うっかりミスにご注意を! Q&A消費税の税務処理80(清文社)