BLACK BOX とこれから

BLACK BOX(#ブラックボックス展)に関する一連の騒動につきまして、いま一度改めて、被害の声を挙げてくださった方々をはじめ、ご来場者の皆さま、すべての関係者の皆さまに多大なるご迷惑・ご心配をおかけしておりますことを、謹んでお詫び申し上げます。

犯罪行為・幇助は決して本展の目的ではございませんが、このたびの事態に対し、いち表現者として大きな責任を感じ続けております。この騒動への反省を踏まえ、今後は事前にとるべきリスク対応はより徹底して行い、表現のあり方を見つめ直し、これからの活動の改善に努めてまいりたいと思っております。

以下、このような状況においてお見苦しいところもあるかと存じますが、これまでの活動、そして本展に対する私の想いを明示させていただきます。


私はこれまでにソーシャルメディアを通じ、「Anonism(アノニズム)」=個々が人知れず行う所作・自身の匿名的言動と向き合って生活することの重要性を発信し、その取り組みの一貫として「オープン化」=匿名の声を解放するための施策等を企画してまいりました。それは情報過多の時代に、現存在のあり方を、外的情報のインプットを中心とした非本来性の姿勢から、内的精神の探求を中心とした本来性に移行させること・そのうえで才能や情熱の差をなくし、水平的に個人のアウトプットを助長することが目的であり、何よりインターネット上に蔓延する匿名的エネルギーの多くを、ネガティブからポジティブへ変換したい想いから取り組んできた活動です。

しかしこれまでの企画のなかにも、個人名・身分から解放された自由な状態であるからこそ「危うさ」(利己的欲求の発散、他者への誹謗中傷等)が紛れこんだ実例があり、その都度、エチケット・マナー・モラル・ルールを参加者がボトムアップで作り上げていけるよう設計を見直し、改善に努めてまいりました。しかし本展において、その設計・対応が不十分であった可能性がある現状に対し、これまで行ってきたすべての活動と比較してもあまりに未熟であったと、自責の念にかられております。

本展の要素である「秘密の同意書」「暗室という環境」もまた、外的情報を遮断し、強制的に内的精神に向き合わせる「Anonism」の一貫です。開催当初は主に、前述した私の過去の活動・想いを知る層のご来場者が多く、これをポジティブな体験として受け止め、また発信してくださる方が大半を占めておりましたが、次第にそれらツイートや口コミによって情報が拡大するにしたがい、中心となる私の想いの部分は薄れていき、想定の規模を上回る来場者数に膨らむ頃には、予期せぬさまざまな事態(床のタイルを剥がす、壁を破損させる等)が発生したとの報告を現場スタッフよりお受けしました。ギャラリーと相談のうえ、その都度対策として臨時休廊、スタッフ増員、会場巡回等を行いましたが、結果として現場で確認された事態・またその他の報告に挙げられる問題行為が行われていたとすれば、表現者として重要な使命を適切に果たすことが出来なかったことに、重い責任を感じております。なお、真相につきましては現在も究明を急いでおります。

ではここまで情報が拡大し、想定外の規模にまで膨らんでしまった原因はなにか。それは自身が蒔いた種である「絶賛・酷評する感想の許可書(虚偽の情報を含む)」に他なりません。

デジタルは情報を断片化させ、誰もが手にするモバイルは即時性を与えました。それらによって物理的距離はなくなり、マスメディアによるプッシュ型中心の情報の流れは、ソーシャルメディアの台頭によって個人発信・表現が容易に行われるなかで、プル型から、より複雑な混流状態へと変化していきました。しかし誰もがその恩恵を受けられるいっぽう、真偽の入り混じった情報に翻弄され続けてしまうことへの危惧が謳われて久しいのが現代です。私たちの感覚機関は刺激的・感情的な情報に反射的反応を示すため、タイムラインには日夜過激で極端な意見が蔓延し、拡散は続いています。これは昨今話題となっているフェイクニュース・ポストトゥルース・オルタナティブファクトにも通ずる、インターネットが孕ませる重要な課題の一端であり、私自身も問題視しているからこそ、本展を通じて可視化させること・向き合わせることを要素のひとつとして設けました。

しかし結果として、「秘密の同意書」「暗室という環境」そしてこの「絶賛・酷評する感想の許可書(虚偽の情報を含む)」のもたらす影響をコントロールしきれなかったがゆえ、現在のような騒動に発展し、多くの方にご迷惑・ご心配をおかけしてしまいました。また会期終了後である現在も、本展に関する企画意図の誤解等、真実とは異なる情報もまた乱立しており、皮肉にもそれは秘密に同意させ、虚偽の情報の投稿を許可した会期中と変わらぬまま続いております。これら現状につきましても、私自身の未熟さが招いた身から出た錆といわざるを得ません。


BLACK BOX は不本意な結果に終わり、私はこれらを未然に予見できなかったこと、設計・対応ができなかったことに対し、大きな過ちを犯したと感じております。しかしもし許されるのであれば、表層に望まぬ事態を生んでしまったからこそ、深部の本質にはより注視していきたい。これから私に何ができるのかを問い続けながら、前進していきたいと思っております。

このたびの件につきまして、多くの方々の信用を損ね、ご迷惑をおかけしておりますことを重ねてお詫び申し上げます。