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ガメ・オベールの日本語練習帳_大庭亀夫の休日ver.5

ハッピーニューイヤー

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1年の終わりでも、もう今頃になると、オフィスの、日本でいう忘年会はなくなって、人が多いなりに静かになったパブで、友達とのんびりビールをなめている。
今年も、なんとかいい年だったよ。
ガメは、どうだった?
きみは欧州に帰るという噂があるが、どうするか決めたの?
モニさんは元気?
小さい人たちは?

ひさしぶりなので、お互いの個人生活についての質問攻めに始まって、若い女びとのJacinda Ardenが首相になったこと、隣国のオーストラリア人たちが、労働党政権で、早速、オーストラリアの労働党に入れ知恵して、国籍資格問題で与党の議員を辞任に追い込んだことに頭に来て、「余計な、お世話だ」
「自分の国のことに専念しろ」
「ニュージーランドはアカを新首相に選んだ」と、ぷんすか怒っていたりして、
まあ、経済は悪くなるね。
中国のひとたちはオカネと一緒に逃げていっているそーだよ。

また、人口が30万人くらい減るかな、ぬははは、と政治の話もする。

トランプは、どーしよーもない、という話になれば、当然、どうも東アジアの戦争は避けられそうもないね、という話柄に落ち着きます。

1.5正面しか担当できない、いまのアメリカ軍の戦力では、まだ、すぐには朝鮮半島での戦争は無理だろう、と持論を述べる、わし。
作戦を検討した制服組は、空からだけでは、例え中国の許可をえて、北から山脈の北斜面に展開された基地群をたたいても、例えば日本を標的とした中距離ミサイル発射壕は破壊できないと、理解しているに違いない。

 

いや、ガメ、アメリカは日本はもう捨てているよ。
このあいだの記事を見なかったのかい?
アメリカは、長距離ICBMの固定発射パッドと弾薬デポに攻撃目標を絞ったとニュースが漏れていたでしょう。

軍事的検討が延々と続いて、隣り併せたおっちゃんたちも巻き込んで、戦争は避けられなくなったから、焦点は、「いつ」戦争が始まるかだという議論になる。

おっちゃんたちが、夏らしく、クリケットの話題にもどってゆくと、友達とぼくは、また政治の話題にもどって、習近平は実は戦争を決意している、トランプや安倍晋三のようにはしゃぎ回らないだけのことで、このあいだ、ほら、台湾のKさんがやってきて、クラブで講演していったでしょう?
台湾の人は、一般の人が動揺しないように努めながら、悲壮な決意をしているみたい。

中国の伝統政策は、アメリカ陣営の政権とは直截国境を接しないことだったが、どうも十九大以降、習近平は方針を変えて、無能な男がアメリカの大統領でいるあいだに、一気に勝負をつけようとしているように見える。
韓国、台湾、日本の三国は、大変な時期に差しかかっているね。
オーストラリアも、ダーウィンは、てんてこ舞いであるらしい。
プーチンは、ハイエナのように、日本の周りを、ぐるぐる周りだしているでしょう?

習近平は党内に有力なライバルを持たないし、毛沢東を超えるには勲章がいる。
日本軍に対して、どんな形でもいいから1勝をあげたい人民解放軍は、手綱を放せば、あっというまに挑みかかるだろう。

でも、ほら、中国はチョシンで見せたように陸軍は強いし、空軍も、急速に、例えばF35なんかのショーバイ用戦闘機では太刀打ちできなくなりつつあるけど、海軍てのはさ、あれは一朝一夕には出来ないんです。
海賊討伐にでかけた東アフリカで水がなくなって、欧州勢の失笑を買っていたでしょう?
海軍は文化だから、文化を国力でつくるわけにはいかないのよね。

中国は、防衛線として所謂第一列島線は卒業して、改変された第二列島線を基準におくように、今年から変えている。
もう少し丁寧に言えば、やや西よりの第二列島線だよね。

新しい防衛線は、戦時の速やかなグアム攻略と、日本、取り分け九州地方の戦場化を前提にしている。

アメリカがダーウィンの基地を急速に増強しているのは、そのせいだろうけど、この中国版「絶対国防圏」は、多分、2025年をめざしているのだろう。

そうすると、南沙の、例の中国の人工要塞あたりが要なのかしら?
そう、あれが要で、海の主戦場は、あそこ。
海軍がアキレス腱の、人民解放軍の知恵だよね。
不沈空母をつくってしまった。

益体もなく、3パイントのエールで、少し軽くなった脳髄を薔薇色に染めながら、ふたりで、中空を見やりながら、考え込んでいる。

ガメは、ニュージーランドを選んだのは、子供のときからの行きがかりで、たまたまだというけど、ほんとは、この事態を知っていたのだと、ぼくは思っている。
きみがニューヨークやロンドン、パリを、若いときにあれほど愛していて、東京にまで興味を持って何度もでかけて滞在するくらい、
おおきな都市が趣味なのは、誰でも知っていることじゃない?

それが、いくら縁故があるからって、ニュージーランドみたいなド田舎に住むとは思わなかった。
ぼくはね、でも、ちょっと感心しているんだよ。
ガメは、この、いまの世界を知っていたんだなあー、と思っている。
きみは昔から未来をまるで過去のように知っている人だったからね。

いや、それは買いかぶりすぎですよ。
長い付き合いだから、ぼくの秘密を教えてあげよう。
ぼくは、おいしいステーキパイやフィッシュ&チップスがない国には住めないんだよ。
いつもはエラソーに、やれ蕎麦だ、タンドリチキンだと言っているけどね。
正直に白状すると、いまでも調子が悪くなって、食欲がなくなると、最後の最後の食欲は、フィレステーキにしか起こらない。
あ。スコッチフィレでもいいけどね。
脊髄を割ってサルサヴェルデが載ったやつに、イモと、フィレ。
元気がでればラムでしょう?
ほんでボートで、ぷかぷかしているのが好きだから、ニュージーランドなのさ。
北海じゃ荒涼としすぎだし、オーストラリアの海は、とっくの昔に死んでしまっているからね。

ぼくは、メルボルンとオークランド/クライストチャーチを組み合わせた、いまの生活でいいんじゃないかと思っている。
欧州の冨と豪奢は楽しいが、まだ、戻らないほうがいいのかも。

それに、ぼくは新しい若い国が好きなんだよ。
きみやぼくの国は、古色蒼然として、余計なものがいっぱい絡みついて、新しい国の人達は憧れるが、その現実は、きみとぼくがいちばんよく知っている。

でも、まあ、あんまり依怙地にならないで、来年くらいから、ときどきは里帰りするよ。
このあいだ、ほら、あの酔っ払いのカナダ人の脳科学者がやってきて、ガメ、こんな田舎で遊んでいると脳が腐るぞ、だってさ。

世界は、どうなっていくだろう。
来年は、たくさん人が死ぬだろうか。
きみは笑っているが、ぼくには、日本語を通して、インターネットで知り合った日本の友人たちもいるんだよ。
ホワイトハウスでは、日本はただの盤面の一部で、あまつさえ、トランプたちは、日本を駒にしようとしているが、日本人だって、もちろん、ひとりひとり異なる人間で、ステレオタイプの、みんな同じ考えを刷り込まれた、唯々諾々とバンザイ突撃で死んでゆく、日本の部品なんかじゃないんだよ。
気難しくて、とても判りにくいひとびとだが、ひとりひとり、矢張り異なる考えをもった人間なんだ。

これほど当たり前のことを、トランプたちは前提していない。
なんだか自分たちとは違う、個人としての人間性を十分に持っていない、半分しか人間でない国民であるように思っているのではないかしら。
このあいだ、マーキュリーアイランドで、スーパーマーケットチェーンの社長だって言ったっけ?
「アメリカ社会は私達にチャンスを与えてくれた、というのは、要するに、おれたちからあの黄色い移民たちがチャンスを奪った、ということだろう?」と、当たり前のように述べたやつがいたじゃない。
きみやぼくの文明は、いまや死にかけていて、疲れて、破壊を望んでいるメンバーもたくさんいるけど、このままでは、世界は頽廃を重ねるしかなくなってしまう。

演説みたいな長口舌を述べるほうも酔っ払っているが、友達をふと見やると、手にもっているエールが、いつのまにかダブルのシングルモルトに変わっていて、唐突に深呼吸したりしている。

頭のなかでは2018年という数字が、ぐるぐるまわっていて、小さな人たちが、両腕をあげて、きゃああああ、と楽しそうに叫びながら猫さんたちを追いかけていく様子や、木洩れ陽が射してくる午後の窓の下で、モニさんが美しい寝顔を見せて、やさしい寝息をたてているところを思い浮かべている。

もうすぐ、新しい年がやってくる。
その顔は、でも、今度ばかりは、まったく見えない。
顔が見えてこないのは、多分、戦乱の始まりであると思っていて、その事実を認めたくないからかも知れません。

日本語の、お友達たち、

Happy New Year!

また、来年も、友達でいようね。

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