Life + Chemistry

化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・野島 高彦)

「仮面ライダーの方程式」っていう記事を読むために日経サイエンス2018年2月号を買ってきた

f:id:takahikonojima:20171229135808j:plain

まったくと言っていいほどTVを見ない私が唯一見ている番組が,日曜朝の「仮面ライダービルド」です.

主人公は天才物理学者という設定になっていて,オープニング画像やキメ技背景には,物理学の数式が登場します.それから,主人公の秘密基地になっている地下室(明るい)にも,ガラス板や黒板に数式が書き殴られていたり,数式が書かれた紙がぶら下がっていたり.出て来る数式はもっとも易しいもので理工系大学1年生レベルです.

こういう演出をやっているっていうことは,スタッフの中か,あるいはスタッフにとても近いところに,理工系大学の卒業生とか,大学院生とか,そんな感じの人物がいるに違いない! って思っていたら,実際にそのとおりでした.

慶応義塾大学で物理学を研究している白石直人博士 @Perfect_Insiderが「物理学アドバイザー」として番組づくりに参加しているのです.

その白石博士による,仮面ライダービルドに出て来る物理学の解説が,今月号の日経サイエンスに掲載されるというので,さっそく取り寄せて読んでみました.

物理学者は白衣は着ていない

「物理学者は白衣は着ていない」ということは強調しておいた。テレビに出てくる研究者はどういうわけか必ず白衣を着ているのだが,あれを物理学者が着ることはまずない。

これは物理学者だからこそ指摘できることです.化学者と物理学者がごちゃまぜになってることがあり,アインシュタイン(っぽい容姿の人物)が白衣を着ているイラスト,なんてものまで見かけたことがあります.

公開鍵暗号の解説

暗号解読が出てくる回があり,そこでは背景画像に公開鍵暗号の式が書かれていました.
公開鍵暗号はインターネットの安全な接続のためにも応用されているものなので,あちらこちらで聞いたり見たりする用語なのですが,それじゃ説明してみろと言われるとキツイものです(私には).

記事中では数式を一切使うことなく公開鍵暗号の仕組みが解説されています.また,この方法で暗号化された情報を他人が解読することがどれほど困難なのかも具体的な数値を用いて説明されています.

蔵本転移の解説

同期がテーマになった回もありました.この回では秘密基地の黒板に同期現象を示す「蔵本転移の式」が書かれていました.自然界には最初はバラバラに発生していたのに,ある時間が経過すると同期する現象があります.たとえばホタルの集団はバラバラに点滅をしていますが,それがあるタイミングで同期します.

吊された台の上に載せられたメトロノームでも同期がみられます.

ムービー2件は記事の参考文献として紹介されていたものです.

ゆらぎの定理の解説

白石博士ご専門の非平衡統計力学についての解説もあります.
平衡状態で考える限り,ΔS>0ですが,条件を細かく設定し,短時間のうちに起きる現象も考慮すると,ΔS<0となる場面がごく僅かではあるが存在する,というものです.
このあたりの研究は1990年代以降に発展して来ており,今後も熱力学を拡張した研究が展開されて行きそうです.

その式,第何話?

番組では毎回,そのストーリーが第何話なのかを数式で示すという演出がなされています.
たとえば第10話なら,
f:id:takahikonojima:20171229135824p:plain
という式が出てきます.

この調子で最終回まで続いていくようですが,果たして30話とか40話とかまで適当な式がみつかるものなのか,このあたりに私は興味があります.

こういうかたちの社会連携って面白いし,もっといろいろな人がやったらいいって思うんだ

番組中で使っている数式は,いろいろと考えて選んでいる数式なので,そうやって本番組を通じ,物理に少しでも興味を持つ人が増えてくれたなら,望外の幸せである。

マンガとかSF小説とか特撮とかアニメとかに影響されて自然科学や技術に興味をもったり,エンジニアや科学者になったりっていう人は珍しくありません.
日曜朝の仮面ライダービルドがキッカケだった,っていう人も出てくることでしょう.
こういう番組づくりに研究者が協力するのは,未来の社会を良い方向に導いていくことにとてもプラスになると私は考えます.
それと,理工系の仕事をしていても,自分の専門から離れた領域について考える機会をつくるためには,何かのキッカケが必要です.
白石博士 @Perfect_InsiderがTwitterで数式の説明をしてくれているので,コレを楽しみにしています☆

コレが化学だったらどうなんだろう?

っていうようなことを考えているうちに,私自身の人生でもこんなかたちでTV番組づくりに参加する機会ができたらステキだなーなんて考え始めています.子供の頃,テレビっ子だったし.

仮面ライダーシリーズは前作の「仮面ライダーエグゼイド」がチーム医療をテーマに,現在放映中の「仮面ライダービルド」が物理学をテーマにしているので,その流れで理系ネタとして化学なんていうことになって,制作協力を頼まれる,なんてことになったら楽しそうです.

番組の回数は炭化水素のC数で行けばメタンCH4,エタンC2H6,プロパンC3H8っていう調子で無限に行けるよ!

っていう安直な方法以外で考えるとなるとタイヘンだな.

次回の仮面ライダービルドが楽しみになってきました☆

日経サイエンス 2018年 02 月号 [雑誌]

日経サイエンス 2018年 02 月号 [雑誌]

www.tnojima.net

●もう一つのブログ

www.takahikonojima.net

【PR】このブログを書いてる人の著書

誰も教えてくれなかった実験ノートの書き方 (研究を成功させるための秘訣)

誰も教えてくれなかった実験ノートの書き方 (研究を成功させるための秘訣)

はじめて学ぶ化学

はじめて学ぶ化学