このブログでは原則的に海外文学しか扱ってないが、実は日本文学やノンフィクションも陰でそこそこ読んでおり、メディアマーカーに評点付きで登録している。 今回、2017年に読んだすべての本から、最高点(星5)を付けた本をピックアップすることにした。読書の参考にしてもらえれば幸いである。
評価の目安は以下の通り。
- ★★★★★---超面白い
- ★★★★---面白い
- ★★★---普通
- ★★---厳しい
- ★---超厳しい
星5はオールタイム・ベスト級に付けている。
翻訳家の柴田元幸が「21世紀に書かれた最高のアメリカ小説」と評していたが、これは僕もまったく同感。文学史に間違いなく残る傑作である。奴隷制度下のアメリカ南部を舞台にした小説で、善悪が並立する世界をありのままに叙述している。善を称揚するのでもなければ悪を非難するのでもなく、ただストイックに世界を構築しているところに凄みがある。
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世界貿易センターで綱渡りをしたフィリップ・プティを中心に、その地上に暮らす人々の営みを順番に描いていき、彼らのエピソードが思わぬところで繋がることで、世界は回っているのだと示している。構成が素晴らしい。現代文学の一つの達成を見ることができる。
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池上彰は似たような本を粗製濫造しているようなイメージがあるが、森達也と対談した本書はマスコミの問題に鋭く斬り込んでいて読み応えがある。特に西山事件とウォーターゲート事件の違いについて指摘したくだりにははっとした。池上彰の本は、講義録や対談に良書が多いような気がする。現代史や時事問題を解説した本よりも、こういう掘り下げた本をもっと書いてほしい。
チママンダ・ンゴズィ・アディーチェはナイジェリアとアメリカを繋ぐ作家であり、おそらく将来はノーベル文学賞を受賞するだろう。本作を一言で要約すれば、「アメリカに渡って人種を発見し、帰ってきてラゴスを再発見する物語」だ。人種問題という社会派要素とメロドラマという通俗性ががっちり噛み合っていて読ませる。排外主義が横行する今こそ読まれるべき小説。
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国家はなぜ衰退するのか(上):権力・繁栄・貧困の起源 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
- 作者: ダロンアセモグル,ジェイムズ A ロビンソン,鬼澤忍
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2016/05/24
- メディア: 文庫
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本書の内容は以下の引用の通り。
本書が示すのは、ある国が貧しいか裕福かを決めるのに重要な役割を果たすのは経済制度だが、国がどんな経済制度を持つかを決めるのは政治と政治制度だということだ。
というわけで、政治制度を「収奪的な政治制度」と「包括的な政治制度」に分類し、前者がいかにイノベーションを阻害して国家を衰退させるかを論じる。とてもシンプルな主張で分かりやすい。古代ローマ帝国が崩壊し、イギリスで産業革命が起きたこともこれで説明できる。
車夫という末端労働者を主人公にした小説。生きることの困難さ、さらには人間は経験によっていくらでも悪い形に作られてしまうということをまざまざと描いている。本作の魅力は、庶民の生活に密着しているところだ。中国文学はその泥臭さが癖になる。
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村田沙耶香はこれまでも既存の価値観に一石を投じるような小説を書いてきたが、本作はその極北にして集大成というべき作品。我々が正しいと信じている社会(システム)がいかにグロテスクであるかを容赦なく暴いている。多数派が支持する社会とはどういうものか? 現代社会で生きづらさを感じている人は必読だろう。
第一次世界大戦の塹壕戦を題材にしている。とにかく指揮官が無能で、部下たちを襲う数々の不条理は『キャッチ=22』【Amazon】を彷彿とさせる。戦争文学には名作が多いが、本作もその一つと言えるだろう。
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加藤陽子は注目すべき研究者である。本書はリットン報告書、日独伊三国軍事同盟、日米交渉について詳述しており、学校では教えてくれない現代史の細部を知ることができる。丹念に史料を読み込んで、日本がどのようにして戦争に向かっていったのかを明らかにしているところが好感触。中高生に向けた講義録なので分かりやすい。
何と言っても、古川日出男の翻訳が秀逸。あるときは戦をプロレスの実況風に語り、あるときは「よう!」や「なあむ!」などと興奮した雄叫びをあげる。琵琶法師の躍動する語りが肌で感じられた。物語は散りゆく平氏に同情的で、鎮魂歌と呼ぶにふさわしい内容になっている。まさに盛者必衰である。
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南米らしいマジックリアリズムが横溢したファミリーサーガ。ただし、全編にわたってその手法が使われるのではなく、政治情勢が悪化してからはリアリズムに飲み込まれていく。これはガルシア=マルケスよりもサルマン・ラシュディに近い読み味。世界トップクラスのストーリーテリングが堪能できる。スケールが大きくて、適度に娯楽性を備えていて、その土地ならではの土俗的な雰囲気が味わえるところが魅力。
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アジアン・ミステリ。香港を舞台にした警察小説であり、同時に本格ミステリと社会派ミステリを高いレベルで融合させた野心作でもある。2013年から1967年までのおよそ半世紀を逆年代記のように辿っていく構成が秀逸。その時々の香港の世相を映すと同時に、登場人物の成長を逆回しで確認することができる。安楽椅子探偵を極めた「黒と白のあいだの真実」には驚かされるし、ラストの「借りた時間に」は感慨深い。
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2017年は新刊をあまり読まずに落ち穂拾い的な読書に終始した。なのでハズレを引くことは少なかったと思う。今後もこの路線で本を選んでいきたい。