人工知能による投資の現状と課題/FXへの活用を考察する

  • 更新日: 2017/12/25
様々な画層を背景に浮かぶ脳とその上に書かれたAIの文字

人工知能を投資に活用すれば大儲けできるのでは? テクノロジーや投資に造詣がある人ならば、一度は考えたことがあるのではないでしょうか。この記事では「人工知能を使った投資」の現状と課題について下記の流れでご紹介します。

  1. なぜ今「人工知能」が注目されているのか
  2. 変革を求められるビジネスマン
  3. 人工知能と投資
  4. 投資への科学的アプローチの限界
  5. FXと人工知能

もちろん投資に科学を適用したのは人工知能が始めてではありません。過去の例からどのような問題点があるのかを検討します。また途中少し横道にそれ、人工知能がビジネスマンに与える脅威についても考察します。

なぜ今「人工知能」が注目されているのか

人口の年平均増減率の推移

※引用:総務省統計局「世界の統計2017」

近年これほどまでに人工知能が注目されているのは、少子高齢化や人口減少がその背景にあります。少子高齢化と人口減少は日本の問題と捉えられがちですが、多くの先進国が今後直面する、またはすでに直面している世界的な問題です。これらの問題が進展すると、生産年齢人口が減少し、深刻な労働力不足を招きます。これを解決するために、労働生産性の革新的な向上が求められます。そのイノベーションを起こすことができると期待されているのが「人工知能」なのです。

変革を求められるビジネスマン

グレイのスーツを着たビジネスマン

この章では少し本題からずれ、人工知能が現実世界で私たちに与える負の影響について考えてみます。

人工知能はこれからの時代の救世主であるものの、一方で我々ビジネスマンにとっては大きな脅威となり得ます。人工知能により必要ではなくなる、または大幅に人員を縮小できる職能が存在するためです。これに対抗するために、ビジネスマンはより付加価値の高い人材になることを求められています。しかもそれは、それほど遠い未来ではないかもしれません。

人工知能により何年後かには必要ではなくなる職業がある、という旨の主張が各所で展開されています。この主張の論旨はおそらく正しいでしょう。しかし、この「○年後」の部分について私は懐疑的です。それが起こるのは近い将来なのではないでしょうか。この見解の根拠を2つご紹介します。

まず第一に、人工知能による囲碁での驚くべき進化があります。近年まで人工知能が囲碁に勝利をするのは10年後であると言われていました。しかし、2016年3月9日に最強棋士と謳われていたイ・セドル氏が、DeepMind社の開発したAIである「AlphaGo」に敗北しました。専門家が予測した未来が、現実世界では驚くほど早く訪れています。

二つ目は、破壊的イノベーションに対する専門家の予測は精度が低いという点です。イノベーションの第一人者であるクレイトン・M・クリステンセン氏は、同氏の著書である「イノベーションのジレンマ」のなかで「破壊的技術に対する専門家の予測はかならず外れる」と言及しています。「ある程度でも予測することは不可能である」としており、極めて強い語調でこの主張を展開しています。

以上のことから、予測よりも早く現実では進化しているのではと推測することができます。また不確実性の高い破壊的イノベーションの発展に対する専門家の予測は、あまり当てになりません。驚異的なスピードで機能を高める人工知能に仕事を奪われないために、今後我々ビジネスマンにはさらに多くの知識や思考能力などのスキルが求められることになるでしょう。そしてその自己変革をすることができなければ、最悪の場合、職を失ってしまうことも覚悟しなければなりません。

※引用:翔泳社「イノベーションのジレンマ-技術革新が巨大企業を滅ぼすとき」

人工知能と投資

七色の都会の街並みに映し出されるチャートと二進数の数字

投資の世界では、人工知能がビッグデータを基に今後の株価や為替等の動向を分析しています。また人工知能自らが学習し考えることができるディープラーニングが注目されており、ヘッジファンドをはじめとした投資会社が人工知能を活用したファンドの運用を始めています。そして、そのなかには目覚ましい成果を上げているものも出てきているのです。

たとえば、米国のヘッジファンドであるリベリオン・リサーチは、人工知能による提案を受けて株の売買をしています※1。同社は昨年、中国の大手保険会社の空売りで大きな利益を得て注目を集めました。また世界最大級のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエーツも人工知能の開発に力を入れており、IBMで人工知能の開発を率いていたメンバーを引き抜いています※2

さらにAI技術を駆使して投資を行う米国のヘッジファンドであるツーシグマでは、2014年に同社のファンド「エンハンスド・コンパスファンド」が年率リターン57.55%を記録しました※3。その結果、主力ファンドの過去3年間の平均年率20%前後と高いリターンを得ています。

現在のところ、米国のヘッジファンドを中心に人工知能の活用が進んでいます。日本でもその流れを受け、三菱UFJ国際投信が「グローバルAIファンド」を立ち上げるなど、運用に人工知能を活用するファンドが出てきています。

※1 出典:ウォール・ストリート・ジャーナル「投資判断は人工知能に?」

※2 出典:フォーブス・ジャパン「アップル大物幹部 世界最大のヘッジファンドに転職」

※3 出典:Forbes:「Two Sigma Quant Hedge Funds Deliver Big Returns in 2014」

投資への科学的アプローチの限界

米国のヘッジファンドによる人工知能を使った投資の目覚しい成果を見ると、人工知能さえあれば投資で百戦錬磨できるのではないかと考えてしまいます。しかし、こうした投資への科学的アプローチには限界もあります。

LTCMの破綻

帯封がされた100ドル札

かつて米国・コチカネット州に、LTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント Long-Term Capital Management)というヘッジファンドが存在しました。LTCMはノーベル経済学賞受賞者などの専門家を集め、高度な金融工学による統計学的な手法を用い資金を運用しました。当初4年間は驚異的な運用成績を記録し、平均の年間利回りは40%を超えていました。

しかし、1997年に発生したアジア通貨危機、その後のロシア財政危機によってLTCMの快進撃は突如終わりを迎えます。LTCMはこうした正規分布の端にある経済危機に対処することができず、46億米ドルもの巨額な損失を抱え破綻してしまったのです。

この事例からわかるように、投資に大して科学的なアプローチをしても、数十年に一度の経済危機には対処できないのです。今後このような経済危機にどのように対処できるのかが、人工知能による投資の課題となるのではないでしょうか。

※参考:wikipedia「ロングターム・キャピタル・マネジメント」

FXと人工知能

投資の世界では、主にヘッジファンドを中心に人工知能が利用され、銘柄選定や売買タイミングの提案等に活用されています。為替の世界でも同様で、人工知能の活用が徐々に広がってきています。ここでは人工知能がFXでどのように利用されているのかについて解説します。

FXの世界でも広がりを見せる人工知能

人工知能のイメージ

FXの取引では人工知能以前から、プログラムを使ったトレードがありました。なかでも「システムトレード」と呼ばれる自動売買は、プログラムを使ったトレード方法としてよく使われています。

昨今のヘッジファンドによる人工知能の活用を受け、FX会社のなかにも人工知能を活用したサービスを提供したり、開発に取り組むところが出てきています。たとえば外為どっとコムは、今年6月に琉球大学と共同で、人工知能を使った為替相場分析の共同研究を行うことを発表しています。

またFISCOでは、同社のアナリストによって考え出された数十を超える株式投資ロジックや、1,000以上の株式市場指数、全上場企業の各種情報を用いた「scorobo for Fintech」という人工知能による為替相場の予想を毎週掲載しています。楽天証券は、AI技術を活用したFX版のロボアドバイザーの提供を予定しています。このほかにも人工知能を利用した取引ソフトが発売されるなど、FXの世界でも人工知能の導入が次々に進められているのです。

※「scorobo」はテクノスデータサイエンス・エンジニアリング株式会社の登録商標です。

人工知能によるトレードで人間による裁量トレードの欠点をカバーする

チャートが映し出されるPCを操作するロボットの手

労働力不足の解決策となることを期待されている人工知能ですが、FXをはじめとした投資の世界では労働力不足はあまり関係ありません。それにも関わらず、どうしてこれほどまで注目され、積極的に取り入れられているのでしょうか。

その理由の一つとして、ディープラーニング(深層学習)と呼ばれる機械学習の一つが挙げられます。ディープラーニングは人間がプログラムを作らず、機械自らが学ぶ人工知能ならではの特徴です。

もちろん「機械自らが学ぶ」といっても、まったくのゼロの状態から人工知能が学ぶのではありません。情報とそれに対する答えの例を、人間が人工知能にあらかじめ数多く教えておく必要があります。そうすることで新しい情報に出会った時、これまで学んだ例を基に人工知能自ら答えを出します。つまりディープラーニングは人間の学習ととてもよく似ているのです。

人工知能は様々な情報を学んでいきます。しかし、人間のように学んだことを忘れることはなく、人間では処理できないような大量のデータを分析した上で答えを出します。そのためこれまでの相場の動きや経済指標等のデータを正確に覚え、それに基づいて今後の見通しを立てることが可能です。これこそが投資の世界で人工知能が注目される理由の一つです。

この例のように、金融分野においても人工知能によって人間がこれまで気づかなかった方向からアプローチできる可能性が期待されています。それにより人間が投資判断をしていた従来の方法以上のパフォーマンスを上げられるのではないかと考えられています。

また人間が投資した場合、どうしてもメンタルの影響が避けられません。相場の急騰や急落に振り回されて冷静な判断ができなくなったり、パフォーマンスが低下している際に正しい判断ができないことがあります。そうならないようトレードルールを作っても、相場の状況に惑わさて、ルールを厳守できないケースもあります。それが良い結果に転がれば問題ないのですが、そうでないことが大半であり、メンタルコントロールができずに損失を増やしてしまうトレーダーが数多くいます。

FXにおいても同様です。FXで安定して利益を上げられるトレーダーは全体の少数で、ほとんどのトレーダーが損失を出してしまいます。もちろん手法そのものに問題のあるケースもありますが、トレードルールを徹底できないことが原因となるケースもあります。相場の状況を冷静に判断できずにトレードルールを破り、塩漬けポジションを作って含み損を増やしてしまう。また利益を深追いした結果、小さな利益しか得られないといったこともあるでしょう。このようなことを繰り返すと利益よりも損失が大きくなってしまうのです。

人工知能にはこのような感情がまったく入りません。投資に大きな影響を与えるメンタルの部分がまったくないため、どんな相場であってもきちんとルールどおりに取引し、高いパフォーマンスを上げられるのではないかと考えられています。

さらに人間の場合はどうしてもミスしてしまいますが、人工知能にミスはありません。このことも人工知能が注目される理由の一つになっているのです。

自動売買と人工知能とは何が違うのか

チャートが映し出されたラップトップを操作するロボットの手

FXに人工知能を使ったソフトが登場したのは比較的最近です。しかし自動売買ソフトは以前からあり、今でも根強い人気があります。

従来型の自動売買ソフトには、いくつかの種類があります。自動売買プログラムがあらかじめ設定されているもの、自動売買ソフトのMT4に組み込まれたプログラムのバックテストを行い最適化して使うもの、また自分で自動売買プログラムを作成し、自分の作った売買ルールを基に売買を執行させるものなどです。そしてM2J(マネー・スクウェア・ジャパン)などの証券会社が提供しているトラリピのような自動売買ツールもあります。

これら従来型の自動売買ソフトやツールと人工知能の違いは、人工知能の場合、人間が組んだ売買プログラムを執行するわけではないということです。従来型のものは、人間が作った売買ルールを徹底して行うことを目的として作られています。そのため人間が作った売買ルールに基づいて売買を行います。

しかし、人工知能の場合、人工知能に読み込ませた相場に関する様々なデータを基に、人工知能自ら考え、分析し、独自の売買ルールに基づいてトレードします。ここが従来型の自動売買と人工知能との大きな違いです。

また自動売買の場合、比較的短期間のトレードを行うケースが多いですが、人工知能の場合は長期間のトレードに活用されるケースが多いのも特徴です。

クオンツと人工知能とは何が違うのか

数理のイメージ

クオンツとは、数理モデルや統計理論に基づいた価格分析を行い、それを元にトレードするものです。大量のデータを分析し、あらかじめ決められたプログラムに基づいて運用します。

クオンツ投資の場合、過去のデータを基に分析や予想を行う統計学的要素が強いことから、予測できない市場の変化に弱かったり、ルールに柔軟性がないなどの問題点があります。さらにクオンツ投資の場合、数理モデルに違いがあっても、特定の事象に対する売買の方向性が一致しやすい傾向にあるため、市場で大暴落や大暴騰を引き起こす原因となる恐れがあります。

人工知能はクオンツのように様々なデータを分析しますが、人間が書いたプログラムに基づく運用を行うわけではありません。そこがクオンツと人工知能との大きく異なる点だと言えます。

人工知能によるFXトレードの現状

背を向けて電話をするビジネスマンと投影された経済指標

FXではAI技術を取り入れた売買ソフトが発売され始めていますが、まだ多いとは言えません。またAI技術を取り入れたFXの売買ソフトの傾向として、これまでの自動売買プログラムにAI技術を加えたものが多いことが挙げられます。さらにFX取引ではなく、為替相場の予想に人工知能を活用するものも登場しており、じぶん銀行では人工知能を使って特定の期間の為替相場を予測するサポートツールを提供しています。

このようにFXでも徐々に広がりを見せる人工知能ですが、まだ完成度が高いとは言えず、活用するためには改良の余地があります。

たとえば現実の相場では、底と天井を捉えて最大の利益を得ることが偶然できたとしても、コンスタントに行えるわけではありません。しかし、人工知能は、これが最良のトレードパターンであると判断してしまう可能性をはらんでいます。

人工知能によるトレードが大きな成功を収めている事例がある一方で、うまくいかない事例ももちろんあります。

AI技術を使ったFXツールは方向感のない相場、英国のEU離脱を問う国民投票のような、為替相場に大きなインパクトを与える出来事が起こったとき、正しい投資判断を下せなかったりパフォーマンスが低下するなどして苦戦しています。この例から分かるように、AI技術を取り入れたからといって必ずしもトレードのパフォーマンスが上がるわけではない、ということに留意しましょう。この点は先ほどのLTCMの破綻で触れたとおりです。

AI技術を使った取引で高いパフォーマンスを上げているヘッジファンド、FXの取引ソフトなどがあるのは事実です。ただAI技術が注目されて取り入れられ始めたのはここ数年のことで、まだ手探りの状態です。そのためAI技術を取り入れた取引ツールを使うことで大きな利益を上げられる確証があるわけではないことを理解しましょう。

今後さらなる改良が進められていくことが予想されますが、現段階では、AI技術を取り入れた取引ツールやソフトに安易に飛びつくのはやめておくのが賢明かもしれません。利用する場合は評判をチェックするのはもちろんのこと、実際に利用しているトレーダーのブログなどをチェックするのもおすすめです。投資成績やどのような相場に強い、または弱いなどの情報が紹介されていることがあるので、それを検討材料の一つにしてみてはいかがでしょうか。

まとめ

人工知能はすばらしい技術です。今後FXやそれ以外の投資で活躍するのは間違いないでしょう。ただFXの投資ではまだ未熟な段階にあると言えます。これからさらに技術が進歩してから採用を検討しても遅くはないのではないでしょうか。

逆に現実の仕事に引き寄せて考えてみると、人工知能はすぐに取り入れるべき技術であるのかもしれません。過去の例を見ればわかるように、こうしたイノベーションは驚異的なスピードで世の中に浸透します。いつまでも「うちには関係ない」「時期尚早だ」と考えている企業は、あっという間にイノベーションの流れに乗った企業に市場を席巻されるでしょう。インターネットやスマートフォンがその好例です。これは企業だけでなくビジネスマンにも当てはまります。いつまでも関係ないと考え現状維持の状態では、いつか人工知能に仕事を奪われてしまうかもしれません。

新たな技術によってこれまでの技術が陳腐化し、競争軸が変わることはよくあることです。FXの投資でも、これまでの職人技では利益を上げられない日が来るかもしれません。今後もFXのトレードを続けるのであれば、人工知能はしっかりキャッチアップする必要がある分野です。

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