IoTやビッグデータのトレンドを受け、いままた可能性が注目される「人工知能(Artificial Intelligence)」。1956年〜60年代の第1次ブーム、1980年代の第2次ブーム、そして我々が今再び「人工知能」に注目しているのは第3次にあたり、機械学習の新しい手法「ディープラーニング(深層学習)」がその核心にあるという。
改めて、現在の「人工知能」の可能性、来たる未来の社会像、テクノロジーと倫理の関係性を人工知能研究のトップランナーである東大・松尾豊准教授に伺った。(【前編】ディープラーニングを理解するための人工知能Sと人工知能D)
■生命でない人工知能は"目的"を持たない
【前編】では、ディープラーニングが"基礎工事"であることや、人工知能そのものをDisruptive/Sustainableに分けて理解することが肝要であると語られた。
【後編】でより人工知能の本質に迫っていくほど、「人間とは何か?」という深遠な問いを突きつけられることになる。
--ディープラーニングは変数設定というか、問題設定そのものもできるようになるということですよね。そうすると、よく言う「テクノロジーによって人間の左脳的な機能は代替されるけど、右脳的な機能は代替されない」という通説は崩れるということですか?アートやデザインも含めて。
--いわゆる「トローリー問題」(※ある人を助けるために他の人を犠牲にするのは許されるか?)のような倫理的な問題に対して人工知能自身で判断して行えるようになるんですか?
--それは「シンギュラリティ(技術的特異点)」が仮に訪れたとしても、映画で描かれるような破滅的な世界にならないという先生の見解にもつながっている?
--ディープラーニングで人工知能がどれだけ進化しても、前提として人間が持っている欲求や目的を無視すると単なるSFのようになってしまうということですか?
■人間の倫理観を抜きにして、人工知能は語り得ない
--最近Facebookにしても顔認識の精度すごいですよね。今ある監視カメラがネットワーク化されたら、一気に犯罪の検挙率は上がっていきますか?
--あとは法整備や倫理観の問題ですか?
--最近ではあらゆるデータが取られるようになってきています。常時データを溜めながら、ネットに接続しておけば賢くなっていき、まさに人間を代替してしまう「トランスヒューマニズム(超人間主義)」のような議論もあります。そうなると今後はより一層、宗教、道徳・倫理といったことが求められていくのでしょうか?
■︎1,000年後、人工知能なしで人類は生き残れるのか?
--その1,000年を下って行く際に、人工知能が高度化していき、あらゆるものが代替されていくと思います。そうすると、意外に最後まで残るのは哲学者や倫理学者だったりするんですか?人間にしかできない職業ってあるのでしょうか?
--人工知能に代替されていく部分があるとはいえ、人間がまた新たな進化を遂げる可能性もないことはないと思います。人間の能力が変わっていく可能性はありますか?
■︎「人工知能」研究とは、人とは何か?社会とは何か?を考えること
--リチャード・ドーキンスがいう「ミーム」(文化的遺伝子)の話に関連して質問させてください。人類の歴史をみると、その時代ごとの天才たちの叡智によって知性が上書きされてきた側面があると思います。ですが、そうした天才が何人いるよりも本当に高度な人工知能が一つあった方がより効率的に知性はアップデートされていくと思っていました。ところが著書の中では人工知能にも寿命があるべきだと書かれていました。この辺り、少し詳しく伺えますか?
--死ななくなるというのは、再生医療も含め、物理的に?
--先ほどの説明で、人工知能をDisruptiveとSustainableに区分けされていましたが、本当は厳密に言葉を分けるべきなんでしょうか?現状、「人工知能」というビッグワードに右往左往してしまっている感が否めないというか。
--今後、人工知能というのは義務教育的に誰もが学んでいくべきなのか、それとも一部の技術者は抑えた方が良いのか。どれくらい勉強するべきものなのでしょうか?
"ディープラーニング"という機械学習の手法が発見されたことで、人工知能研究にブレークスルーがもたらされ、第三次人工知能ブームが脚光を浴びている。
テクノロジーが飛躍的な進化を遂げるとき、我々は同時に「人間とは?」「社会とは?」という本質的な問いに立ち向かわなければならない。
松尾氏がいう「人工知能なくして、人類の次の1,000年はない」。
その未来を思い描き、創り出すのは我々人間に他ならない。
(【前編】ディープラーニングを理解するための人工知能Sと人工知能D)
取材・文:長谷川リョー
1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。@_ryh